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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第4譚{生きている失われた国}

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④昇降機を降りた先


 俺は咄嗟に学者の頭を抑え、退路を振り返った。

 しかしそこには既に道を塞ぐようにして、

 人型のカラクリが奇怪な音を立てながら不気味に距離を詰めていた。


――キキッ、キキキキィィィッ……!!!


――カッタカッタカッタカッタ…………!!


 三本の腕に2本のブレードとボウガンをそれぞれに装備し、

 三つの顔をカタカタと見開きしながら、

 三本の脚に着いたローラーを転がすカラクリが五体。

 無機質に鬼気迫るその姿には圧倒的な不気味さが有った。


「おい、何だアレ。聞いて無いぞ。」


 俺は流血する学者の腕を縛り上げながら、

 顔を向けて問い詰める。


「わ、わたっ、私も知らないですぅ!!」


 緊張で痛みが霞んでいるうちが、学者の頭が回るリミット。

 パニックもあるだろうが、

 俺は敢えて急かすようにアクエイの胸ぐらを掴んだ。


「そうか。じゃあ、退路は!!」


 決して今、この状況で怒っている訳では無い。

 アドレナリンを途絶えさせないように、

 怪我人だろうと率先して動くように、

 至って冷静に考えて、彼を焦らせるように語気を荒げる。


「どうなんだ!!」


「ととと、言われましても――」


「渓谷はアンタしかマッピング出来てないんだ!!行ける場所を捻り出せ!!」


「――だだだ、だす。こっち、こち、こここここ、このレバっ、レバーをっ!!」


 滑舌を空転させながら、

 震えた指で学者はレバーをさす。

 距離7メートル。

 俺は涙目のアルクと学者をレバーの方まで手繰り寄せながら、

 短剣を構えて殿を務める。


「先に行け。矢受けになる。」


「ナナシ。」


 カラクリまでの距離は鉄屑の足場を介し30m以上離れていた。

 徐々に近付いてくるとはいえ、

 この距離なら何とか矢を躱せる。

 後方へ流れ弾にならないよう射線を誘導。

 相手の注意を俺にひかせる。


『おぉおいッ!!かかってきやがれ、劣化版ドラ〇もんヤロウ!!』


「ナナシッ!!」


 本当に五体だけか。

 なら武装の数はざっと5×2×3の。

 はぁん、まぁ余裕。


『――キキッ、キキキキィィィッ……!!!』


「やっぱ嘘、怖いぃ!!!」


 背中を向けた俺のケツをボウガンが霞め、ズボンが破ける。

 俺は差し出されたリザの手を取り、

 レバー付近の色が変わった鉄床へ飛び乗った。

 瞬間、アルクはレバーを強く降ろし、

 色の変わった鉄床の部分がガクリと下へ抜けるように堕ちる。


『『 うわぁ!! 』』


 アクエイの腑抜けた声とアルクの声が重なり、

 一瞬全員の身体が宙へ浮く。

 なるほど昇降機か、マズイ。


「プーカ落とせッ!!」


「ふんす!!」


 プーカは背負っていたキャラバンを昇降機から外へ放り出す。

 形を小さく留めたとは言え、

 フォームポケットの総重量は500kgを優に超える。


「ニャア"ッ"!!!!」


 フードの中に居たエルノアが、

 悲痛な声を漏らしながら俺のうなじに歯形を付けた。

 昇降機は暫時、ギリギリと鈍い音を立てながら、

 降下速度を正常に戻して行く。


「いでぇッ!!……ったく、どうせ壊れねぇだろ。」


 俺はドォンと激しい音を立てたキャラバンを一瞥し。 

 そして短剣を再度抜いて一息吐いた。

 瞬間、――パラパラパラと、汚い錆が舞い落ちる空を仰ぎ見る。


「――ちっ、汚っ、うぉおおおおおお降って来たぁぁああ!!!」

 

 束の間の安堵。

 頭上からは殺意溢れる四体のカラクリが、

 目を光らせながら落下してきていた。

 機械的な戸惑いの無さは人間の持つ狂気を軽々と上回る迫力を見せる。

 落ちれば途方も無い高さの奈落。

 すかさずテツは弾丸で軌道をズラし、

 俺とプーカはブレードを見切りながら、

 昇降機の外、崖下へ目掛け順々にカラクリをいなしていく。


「――4、3、2、最後ッ!!」


 落としたカラクリもまたドォンと激しい音を立て、見た限りでは派手に四散した。


「頼む、壊れててくれ……。」


「ニャッ!?」


 エルノアが俺を睨む。


「いや。キャラバンじゃなくて、ですね……。」


 下りゆく昇降機に接していた崖は途切れ、

 眼前にはザァッーと音を立てる大滝が姿を現した。

 幻想的な光景である。

 無骨な建造物に囲まれた渓谷の中に、

 苔と飛沫に溢れた瀑布の神秘的なコントラスト。

 しばらく俺たちはボォーッとそれらを眺め、浸り、

 それが束の間の癒しであったと知らされるように、

 猟奇的な光景を視界に捉えた誰かの息を呑む音で、

 全員がまた意識を尖らせた。

 

「……アレは、同僚ですか?」


 出血した腕を縛った布で抑えながら、

 俺の言葉に学者は息を漏らすように

 「そう。……でないことを祈っています。」と答えた。


 鉄屑渓谷街『B1F』。

 昇降機の辿り着く先に待ち構えていたのは、

 大滝の飛沫に鮮血を洗う、

 斜め十字架の鉄板に磔にされた10人の遺体であった。


「なんだ……これは。」


 ガッシャンと仰々しい音を立てて、

 錆びついた昇降機は滝つぼの上に出来たガラスと鉄板の床の上に辿り着いた。

 ガラスの下には水流が見え、滝から溢れた飛沫が床の上で小川を作る。

 そこに流されるようにして、磔にされた死体からは血と脂が運ばれいる。


「まだ新しい……。」


 学者は呟く。

 その表情は困惑と好奇の混ざったような、

 どうにも複雑な表情であった。








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