③毒の花の事情
アムスタが興味深そうに、
前傾姿勢で座り直す。
「サテラの一件さ。フェノンズのアサシネーションコントロールと、それを裏付けるような五大王の暗殺。それに、ヒュドラを含むアポストルシーカーのトップたちが新大陸攻略の最前線に、捨て駒のように駆り出された。どれだけ執念深い毒蛇だろうと、この混乱期にダンジョンの火災で行方不明になった小物なんざ狙ってる暇なんか無いのさ。」
「朗報だな。」
「悲報だよ。いや、それよりもっとひどいナニか。ワールドクエスト規模の世界大戦の予兆とも言える。今、ウィンディーネス・ヒュドラに深く絡みつかれたノスティアの軍部は、知らず知らずのうちに毒が回っていたと気付き出した。」
「何があったんだ?」
「具体的なことは言えない。知らないからだ。ただエリンが言うには、軍の上層部にヒュドラの息が掛かった傀儡が混じり込んでいる。開戦論者が増えている。端を発すれば、世界中を巻き込む大戦が起こる。と。確かに、ノスティアには侵攻に値する口実(ノスティア国王の暗殺)がある。中にはフェノンズがいるからと楽観視する声もあるが、ワールドクエストの達成者の英雄サテラが、もし自らも新大陸に望まんとしているなら。彼らは迷わず軍を進める。例えそうでなくても、野心的なノスティア国王の一族だ。戦争を起こしたがっているには違いない。そうすればノスティアの慣例上、…エリンも戦争に巻き込まれる。よりにもよって、アイギスとの戦いに。」
「深刻だね。」
アムスタの一言に、ライラは顔を上げる。
「いま、歴史が動いてる。......ともかくだ。末端のヒュドラたち、あるいはノスティア兵や悪神教、一派の商人が躍起になってお前たちを狙うってことは無いはずだ。少なくとも標的としては格下げされてる。手配度5/5から手配度3/5くらいにはなったはずだ。」
「充分高いぜ......」
「気は抜くなというニュアンスだ。」
「それはどうも。ただそれでも、この会話にはリスクがある。なんでヒュドラ付きのアンタがそんなことを教えてくれるんだ。」
リザの言葉にライラは返す。
「仲間だろ。」
「たはぁ~。」
アムスタは嬉しそうに顔を抑える。
「顔も名前も知らない奴だろうと。お前らはナナシのクランの奴らで、アムスタのクランの奴らで、オレたちドライアド寮の仲間だ。」
リザも感心したように笑ったが、
ライラは怪訝そうな顔をする。
「ただ、納得はするな。疑え。アイツならそうするし、オレから何を聞かれても、お前たちはオレにクランの秘密も、目的も、持ち物すらも喋るな。」
「ははっ、ナナシっぽいな。ドライアド寮のやつは皆そうなのか?」
「いいや特にコイツ。アムスタ、貴様だ。さっきは危なかったなお前。」
ライラはアムスタの首根っこを掴み、
髪の毛をワシャワシャと撫でる。
「いやはやぁ~、だって驚いたんだもんなぁ~。」
「まぁいい。ということで、オレから聞くことは何もない。お前たちの顔をしっかり見れたからな。逆に聞きたいことがアレば極力答えてやる。」
そう言うとライラは、
ナップザックからダンベルを二つ取り出し
鍛え始める。
「ふん。ふん。」
「・・・」
「ふん。ふん。」
「・・・」
「ねぇ。その重りって何㎏あるの?」
「お前には聞いて無い。」
「とほほ......僕も屋台に行って来よう。そうしよう。プカちゃあああああ!!あっ、お金ください。」
――チンッ!!
リザは親指でコインを弾いた。
餌に群れる鯉のように、
アムスタはそれに飛び付く。
「ワーイ!!」
「単細胞しかいないのか......。よく生き残れてきたな。」
「まぁーな。」
リザは遠い目をしながら呟いた。