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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第Ⅵ譚{王族キャラバンガードの譚}
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①毒の花


――学院にいた頃、バケモノを見た。


 そいつは地下の獰猛な野獣でも、

 毒牙を持つ大蛇でも無い。

 西の名門ウェスティリア魔術学院の騎士過程を

 首席で進んだオレを脅かしたそいつは、

 人間の割には空っぽで、

 幽霊の割には明瞭で、

 鬼の割には威勢の無い、

 噓八百の詭弁野郎。

 

 オレはそいつが気に喰わなかった。





―――――――――


{サステイル領・アーブラ国}


「荷物検査が終わりました。」


「毎度~。」


「ぐへぇ......」


 並々の石油を入れた木製のナップザックに

 辟易とした黒猫が歩き始める。

 左側通行の門下で行く人くる人が入り混じる。

 旅立つ者と、訪れる者が交差する場所。

 プーカの次に清算と検査を終えたリザが荷物を受け取り、

 アムスタは入れ違いで列をなす

 大隊のキャラバンを横目に捉える。


「ん?」


 列に並ぶ婦人の腕輪にはめられた

 宝石の1つが土に落ちようとする刹那の余裕、

 アムスタはしゃがんでそれをキャッチした。


「おっ!!」


「え?」


 身体を傾け、

 手を伸ばすアムスタ。

 貴婦人はそれに気付き驚いた顔をする。


「おっ、…落しませんでしたよ。僕が掴んだからね!」


『衛兵ッ!!』


 槍の切っ先が、焦るようにアムスタの眼前へ伸びる。


「ふえ?」


 アムスタはキョトンとした顔で固まった。

 槍の鋭利な先端はピクリとも動かず

 フリーズした衛兵と婦人、

 アムスタの時間が止まる。

 リザは仕方がないと言った顔をしながら仲介に歩く。

 しかし、前方からの呼びかけにより、

 その膠着は打ち破られた。


「ヒュドラ様。」


――ヒュドラ…


 リザは息を呑む。


「どうも。」


「いいえ。」


 手を広げた貴婦人へ、アムスタは宝石を落す。

 旅立つ隊へ緊張が走る。

 鼓動が高鳴る。

 リザは取り繕うように平常心で一歩を踏み出す。

 テツは背中に意識を集めながら、

 ゆっくりと息を吸って吐く。

 呼吸の音ですら悟られないように。

 リザの集中力が増す。

 日傘に白い帽子と絹のワンピース、

 禍々しい瘴気と、

 並々ならぬ迫力が横を通り過ぎる。


「行こう。」


 心の糸で綱渡りをするように、

 リザはアムスタの背中を触る。

 敵意の無いリザの一言に兵士の槍が下方へ揺れ動く。


「待って下さい。」


 ヒュドラと呼ばれた婦人が声を発して振り返る。

 リザは息を呑み、衛兵の得物が再度力む。

 しかし、切っ先へ割って入るように

 白い貴婦人はアムスタの手を取った。

 貴婦人の端整な顔と長いまつ毛をアムスタは捉える。

 群青色の透き通った瞳の奥底には、

 心を盗られる魔性の美しさが潜んでいた。


「拾って下さり。ありがとうございます。」


 帽子から伸びるストレートの長髪が、ふんわりと揺れる。


「いえいえ!!なんて素直で良い人なんでしょう!!」


「エリン。」


 貴婦人の肩を叩くその声で、

 隊の膠着は再度溶ける。

 振り返る貴婦人は受付へとまた歩き出し、

 衛兵の武器は下げられる。


「済まなかったな商人。情勢が情勢だからな。」


 リザは息を吐き安堵の表情を浮かべる。

 しかし、リザの安堵を打ち砕くように

 アムスタは腹から声を出し、

 衛兵の1人へ指差した。


「――おあぁッ!!」


「おまッ…!!」


 衛兵の槍がまた上がる。


「あ?」


「知り合いですか?」


「知らん。先に行け。」


 アムスタの前に対峙する女の騎士は、

 仲間の尻を叩き隊を進ませる。

 女騎士の鎧はシンプルでありながら角張っており、

 細部に繊細な彫刻が施されていた。

 腰からは接続したスカート状の布が伸び、

 兜は菱形の切れ込みと赤い飾りが伸びる。

 周りの兵とは一線を画す存在感。


「さて、道を逸れろ怪しい奴め。後ろがつかえてるだろうが、お前が道端で無用な奇行を繰り返すが為に。」


 女騎士は鞘から剣を出し、

 アムスタの首元へ。

 目配せで動けと命じる。

 アムスタは理解したようにコクコク頷き、

 尻を引きずりながら雑草の生えた道端へ転がる。


「な、なぁその辺にしてやってくんねぇか。」


 リザより僅かに背は低く、

 しかし筋肉質で威圧感のある女騎士は

 リザを上目で睨むと、

 剣先をアムスタの口へ突っ込み、

 鎧の胸部を一撫で。

 呼応して光る兜を鎧へ畳むように収納し、

 視線をアムスタの方へ戻す。

 現れた銀髪のウルフボブが軽く揺れ、

 アムスタは更に口をあんぐりと開けていた。


「失礼だが、先刻も申し上げた通り情勢が情勢なんでな。首を刎ねられた国王陛下に代わる女王候補者が、続けざまに殺されるようであれば、ノスティア衛兵の名が、というかオレの名が地に落ちる。何を喋るか分からないこのバカは黙らせた方が互いの為だろう。」


 黒猫は耳をピクリと動かし静かに振り返った。

 

「ひ、久ひいね。あいあ。きみふぁ△※〇✕◇※、がふぁ......」


 女騎士は喋らせまいと、口の中で剣を持ち上げる。


「さぁ。初めましてだね、アムスタ・シュペルダム。そして――」


 鋭い視線がリザへ向いた。


「元ユーヴサテラ。」

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