⑦裕福な不幸
「賭けだぁ?」
訝し気な顔をするリザ。
しかしその横にはもう、口うるさい交易商はいない。
「そうさね。簡単な賭けさ。」
老婆は煙草を深く吸う。
まるで売物など無いかのように、空へ紫煙を吐きつけた後に。
「あんたが買いたがってるその模型の、本来価値を当てるのさ。つまり売主側の公認鑑定士が付けた値段。ここでアタシがアンタに売りつけた値段じゃなくてね。」
「王国取引所の非公開競売か。」
「そうだ。この店の売値は150万円。誤差は10万円まで許すよ。ヒヒ。だが、チャンスは一回だ。不正が無いように、ここにその時の明細書も入ってる。」
コンコンと皺だらけの手を打ち付けた先には、木製の机があった。
「ほー、ありがたいことで。挑戦権をくれるんだ。」
「無料なワケ無いさね、青二才が。アンタらが賭けるのはこの国を出るまでに稼いだ利益の、その全てだよ。」
老婆はグリグリと灰皿に煙草の火を押し当てると、再度パチリと灯りのスイッチを押す。
一瞬間の動揺。
しかしリザはペースを掴むように口角を上げて答える。
「いや、ならいいね。賭け事はしないのがうちのモットーなんだ。今日が閉店だってなら、また明日来させてもらう、明日がダメならそのまた明日来ればいい。それに、ギャンブルなんてしてよかったんだっけなアーブラ国の国民が。」
「ヒヒ、人が親切に分かりやすいよう言い換えてやったってのに。いいかい、これは権利の売買さね。アタシはアンタに、クイズに正解したら商品が貰える権利を売ってやるって言ってんのさ。金額は後払いの時価ってだけさね。そうでなきゃ、今日以降の出禁。」
「クソババア......」
「出禁の理由は”店主への暴言”ってトコさね。ヒヒヒ、あたしゃこの国長いから、法務局にも融通が効くよ。」
リザは顎に手を置き、模型を眺める。
「どうする。」
鯉口を切り催促する様に、老婆は二本目の煙草に火をつけ鋭い眼光を飛ばした。
「やんのかい⁈」
「分かった。」
リザは徐に観念した顔をし、老婆へと近づいていく。
テツはその背中へ声をかける。
「リザ。」
「大丈夫だよ。敗けてもマイナスにはならねぇ。滞在費用諸々の必要経費は、致し方なく、利益分から引かせてもらう。」
「まぁほんくらいはいいさね。」
ぷかぁと煙を吐き出す老婆の眼前、リザは机を――バシッと叩いた。
「ただし!」
「あ?」
リザは上目で睨むように、真っ直ぐと視線をぶつけて言い放った。
「ただし、条件がある。」