⑥裕福な賭け
窓の外では落下音の方へ自走する箒が通過した。箒の下には黒いポリ袋が括りつけられており、バサバサと音を鳴らしながら右から左へ流れていく。
「イヒヒヒヒ・・・・、あの箒は、この国でもっとも多い家業さね。24時間交代交代で、街の地面に落ちたものを確認し、拾いに行く家業。その先にはゴミを集めて捨てる家業。その先には分別する家業。燃やす家業。どれも生まれた時から学ばされる高度な魔法で自走しているのさ。国の監視下でね。」
「問題があるなら、国がなんとかすべきだろ。」
リザは模型を置いて、煙草を取り出した老婆の目を見る。
「国王かい?国王は動かないよ。国を豊かにしてるんだから。.....まったく、裕福なのに文句垂れるなんて自分のせいさね。それともなにかい?貧乏になるべきだって請願するのかい?勝手に成ればいいのさ。事実、この国は歴史学上どう考えても、国王の手腕で裕福となった。だ~れも文句は言えないのさ。」
リザはしばらく俯き、考える。
合法か違法か定かでない煙の匂いが骨董品につき、
その価値には疑問が生まれる。
しかしリザは、店主の目を覗き込み、
品定めをし、そして徐に答えを出した。
「分かった。それじゃあ私は、ひとりの客としてコイツが買うに値するものかをメモさせてもらう。鑑賞して買う気になったら買わせてもらうよ。」
ポケットから取り出したメモ帳と鉛筆。リザは丁寧にしゃがみ、模型と目を合わせる。
「ふ~ん。そう来たかい。キヒヒっ!!」
老婆は引き笑いの最中、若々しく思考を巡らせると、
思い立ったが直ぐに杖を取り出し正面扉のカーテンへ一振り。
呼応するようにカーテンを止めていた紐は解かれ、
次いで老婆は柱に備えられたボタンを力一杯にに叩き、
店の照明を全て――バツっと、落した。
「うわ、なんだ?!」
「真っ暗ねん。」
遮光性は非常に高く、店内は黒色に塗られたように闇に呑まれた。
「イヒヒヒッヒ、残~念ッ!!この店はもうッ、閉・店だよ!!」
老婆は不敵な笑みをこぼして、そう言い放った。
「なっ!!働く時間決まってんじゃねぇのかよ婆さん!!」
リザはペンの動きを止めると、
勢いよく模型の前で立ち上がる。
老婆はそんなリザへ唾を飛ばす様にまくし立てる。
「何言ってんだい。アタシはとっくに90を超えてる。働くも働かないも自由さね。言っただろ、これはアタシの趣味だって。イヒヒヒヒヒ!!!あとそこ、商品に触んな。」
プーカは指を引っ込めて口笛を吹く。
「私は夜目が効くんでねぇ。さぁてどうする150万だよ??キヒヒヒ。」
「150万......」
リザは闇の中、渋る様に腕を組んだ。
老婆は嫌味ったらしく引き笑いを挟むと、思いついたかのように端を発した。
「そ、れ、か、」
「あ?」
「それかアタシと、賭けをしようじゃあないか。」
暗闇の中、老婆がその目を光らせた。