⑤裕福な病
アムスタは今すぐ身を乗り出して、
外の状況を確認したい思いを抑える。
黒猫が服の裾に爪を引っ掻けたからである。
「家業は実際、素晴らしい制度でした。小さい頃から一人前になるためにその仕事につき、誰しもがお金ではなく名誉の為に努力をしました。私たちは素晴らしい商品には値打ち以上の金額を払い、この国で売られるものは皆、特別な高値で売られることはありません。この国は大きく発展し、この国はモノで溢れ、外国の方のためにカジノという家業も生まれ、外国から更にお金が舞い込みました。」
「う、うん.....」
アムスタは気になる視線を客の方へ戻し、耳を傾けた。
「しかし、私たち国民には使う事が出来ません。その手のお金で遊ぶような娯楽は破産を呼ぶからです。国王は私たちに娯楽を与えませんでした。よりお金を生み出す人であるために、お金を生み出す国である為に。食料も給料も国から配給されるものに限られ、働く時間も休む日も決められています。」
やがて俯く客人は瞳孔を開き、鬼気迫るような冷たい表情を上げて言った。
「そして国民は、飽きてしまったのです。」
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{骨董品屋}
「名誉何てものは虚ろだね。金があるのに何故働かなくちゃいけないんだい。何故努力しなくちゃいけないんだい。次第に、この国は病に陥ったのさ。酷く淀んだ、見えない病に。そいつは国民を蝕む一種の癌さ。」
老婆は若返ったかのように口角を上げ、嬉々として喋り続ける。
「特に社会と関われない職人気質な家業ほど陥るのさ。やりたくもない仕事をさせられ、遊びたいやつと遊べない。金はあるのに金を稼ぎ、残った娯楽は医療用の麻薬と、アルコール。そんなものがまた、この国特有の病を蔓延らせる。金はあるのに時間と娯楽は無い。競争も無い、やがて欲しいものも無くなる。残る短絡的で孤独な娯楽に身を投じ、頭がおかしくなって心がぐっしゅぐしゅになっていく。キヒヒッ......‼ ここはそういう理想郷。お前ら外国の庶民には、分からない話さね。これはねぇ、この国による、この国にしかない.....贅沢で、傲慢で、裕福な、病気なんだから。」
「病気.....?!」
「そろそろかね。ほうら、また落ちるよ.....?3...2...1...」
――ドシャッ!!
鈍い音が響き、店の外では箒が袋を抱えて自走する。
「何が落ちたんだ。」
リザの問いに、老婆は囁くように言葉を返した。
「さぁね。」