④裕福な名画
{アーブラ国・『裏路地の骨董品屋』}
埃に蜘蛛の巣、壊れた照明。
しかし、その不気味な骨董品屋には、
確かで綺麗な商品の陳列が成されていた。
「イヒヒヒッヒ」
魔女帽に高い鼻。
長いまつ毛に、曲がった腰に沿う小汚いローブ。
そして抜けた歯に、皺くちゃな頬。
店主は奇妙な引き笑いでリザを見る。
「婆ちゃん、このレプリカが150万てどういうことだよ。」
リザが手に取った帆船の模型は、
名画{死の嵐}と描かれた画と共に飾られていた。
「アタシはレプリカとその画が共にあることを望んでいる。片方だけ買おうってんなら値があがるのも致し方ないねぇ。」
{アヴァンダン作/死の嵐}
「せいぜい20万ジェルが相場なはずだ。おまけに、国を出る時に同額持ってかれんだ。いいだろ、あんた金持ちなんだから。」
「知らんな外国の方。」
「私はサステイル出身だ。」
「外国の方であることに変わりは無かろう。この国は裕福なものしかおらんのに、誰も笑っておらんがアタシは違うね。金を稼ぐことが楽しくてかなわん、骨董を集めることが楽しくてかなわん。それをどう利用するかも頭にある。アタシはね、毎年何千人も自殺するこの国で、一番の幸せものなんだよう。キヒヒヒヒ!!」
老婆店主の不気味な引き笑いに、リザは眉を顰めた。
「自殺だァ….....?」
―――――――――――――
{露店広場にて}
「か、買いますって。」
「ねぇ待ってよお姉さん。買うことくらいしか、娯楽が無いって一体どういうことなの?」
「チっ.....」
黒猫の小さな舌打ちに構わず、アムスタは客人と目を合わせた。
「いえ、それは.....」
「聞かせてよ。」
俯く客人はアムスタの羨望の視線に敗け、静かに「分かりました」と呟く。
「この国では、石油が良く取れることはご存じですか?」
「うん。」
「何故かよく売れるあの魔法の黒液は、アイギスを中心に我が国の大きな利益となっています。しかし国王を含む私たちアーブラの民は、なぜあの黒液が売れるのかを知り得ません。......ですから、国王は外国に貨幣が流れないように、この国に入って来たお金に魔法をかけ、またこの国がこの国だけで存続できるように、私達に”家業”を課したのです。」
「アムスタ。」
「あぁ、制限ダンジョン関連だ。斜塔街のゴンドラは重油だったし。」
肩に乗った黒猫の耳打ちに、アムスタは頷く。
「守衛にも言われたね。この国で稼いだお金、この国で有した財産に変るものは城壁の外へは持ち出せないって。」
その時、アムスタは遠くの物陰へ首を振った。
『キャアァァアアア・・・!!』
悲鳴が一つ。
「大丈夫。いつものことです。.....続けますね。」
客人は一瞥すらせず、言葉を続けた。
TIps『斜塔街のゴンドラ』
・通常時に動力として扱う石油は、魔法による攻撃やイタズラなどで、自爆装置と化してしまうことがほとんどであり敬遠されている。一方、魔法制限領域の近く、あるいは内部で稼働する斜塔街のゴンドラは、緊急時や環境変動時に備え、魔法に頼らない方式を採用している。
内部にある石油を狙って爆発させようといった知能をもたない、あるいは魔法をもたない原生生物を見越しての選択であるが、斜塔街のゴンドラは更に他勢力の破壊工作に備えるため、燃料タンクに大変高価な魔石と刺青のような防御機構を組み込んでいる。これは相当な財力を持つクランか、その手の特別なアーティファクトを所有する者達にしか出来ない芸当である。