②裕福な街並み
「へい!!らっしゃい らっしゃい らっしゃい らっし・・・」
噴水を囲むような軒並みにポッカリと空いた小さな土のスペース。
「売地。」
「そうだ。」
そこへ、カタカタとレンガが倒れる様に、木製のナップザックが開いていく。
「ノアズアークでプレハブを建て、エルノアに複製してもらった木製の皿だとか、木彫りの熊だとかの彫刻を売る。地主とは契約を交わした。あとはこの国での需要が無くなるまで、このお喋りマシーンを置いて完成。」
「安いよ安いよ安いよ安いよ・・・!!」
「んで私たちは、街を観光して夜中には戻る。遊んでれば金が入るって訳だ。」
「ヒドイヨ ヒドイヨ ヒドイヨ ヒドイヨ・・・!!」
お喋りマシーン、もといアムスタを残し、一行は立ち去っていく。
「ちなみにアムスタ、この国の奴らは安さに興味は無い。売り文句を変えるんだな~!!」
三人の背中と声が小さくなっていく。
アムスタは笑いながらその背へ手を振った。
「はぁ..... 残ってくれたのは黒猫の魔女さんだけか。」
「にゃ~。」
エルノアは『高級木彫り』と書かれた看板をクビに掛け、売り子代わりに鳴いていた。
「まぁ~でもいいかぁ!!分業体制は効率が良いからね!!さぁ~!!よってらっしゃい見てらっしゃい。らっしゃい らっしゃい らっしゃい らっしゃあ~!!黒猫の木彫りは如何でしょうか!!これで白い斑点でも塗れば、君も立派な客寄せパンダさんだね。あっ、僕のパンツでも被るかい?なぁ~んて、不機嫌な黒猫さんに一日店長をやってもらってる珍しいお店だよ~。らっしゃいらっしゃいらっしゃいらっしゃ・・・」
「リザの頼みだからな。それに、信頼の無いお前を残して、ノアズアークを放置できない。」
「ヒドイヨ ヒドイヨ ヒドイヨ ヒドイヨ!!よってらっしゃ~、みてらっしゃ~!!異国にひとり、孤独な僕だよ~!!」
一方リザたちは、煙漂う街並みを歩く。繁華な広場を抜ければ、そこには合法と非合法が交じり合うストリートが伸びる。よくある街並みではあるが、ここは裕福な街。道は舗装され、ゴミ一つ無く、空は澄んで青く続いた。
プーカは広場へ振り返り、羨ましそうに眉をハの字へ顰めた。
「あっちの方がイイ匂いすんねん。」
「屋台もいっぱいあったね。でも、リザはよくこんなの思いついたね。」
「アルクが残していたとっておきの金策だ。私も南部出身だから、鵜呑みに出来たってのもあったがな。もっともアイツなら、目の前の川で取れた水すら売れるだろうけど。」
「でも、美味しそうな熊やってん。さすがリザちん。」
「そうだろ。まっ、半分はエルノアの功労だよ。原理はキャラバンの武装化と同じ。精巧な設計図とミニチュア、あとは倉庫の素材をキャラバンに喰わせる。キャラバンの記憶スロットが彫刻だらけになるのは、いただけないがな~。」
「キャラバンを隠してる今なら、それも関係ない訳か。」
テツが呟き、リザは頭の後ろに手を回して、ニヤリと笑う。
「まあ、それもこの街での需要が無くなるまでの話だ。ここの人間は珍しくないものには興味がない。珍しい彫刻なんていうインテリアをホイホイと買っていく人間もこの街の奴らくらいだが、売れればやがては珍しくなくなる。」
「でも売れるんでしょ。」
テツは木彫りの強気な値段設定を思い出す。
「多少はな。」
「何を買うの?」
「あぁ。この街には、ちょっと変わった高級な骨董品屋がある。我々が手に入れるのは、そこにある.....伝説の設計図だ。」
『電子競技部の奮闘歴』459P 1,834円(税込) 2024年9月新作
物語の舞台は、東京都江東区。
凡庸な公立高校生たちが、FPSで台風を巻き起こす電撃な一作です!!
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