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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第Ⅲ譚{木を切る人の譚}
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④奇を衒う人たち

 

 山荘に、テツ・アレクサンドロスの銃声が響き渡る。オーパーツ『アトモスフィア狙撃銃』大気中の魔素変動、異質環境に関わらず、その銃口からは鋭く尖った魔力の団塊が放たれる。


「思ってたのと違うってなんだ、アムスタ。」


「いやだって......」


「お前ら、何故撃った!!」


 せがれを胸に抱きながら、おじいさんはそう叫ぶ。


「えー。なんで撃たないと思ったんですか~?なんなら。今すぐにでも、もう一発いれますけれども~。」


「毒など入れておらん!!せがれもただ、裏口から入って来ただけ!!そりゃあちょっとはカビてたかもしれんが......」


 アムスタとプーカは顔を見合わせる。


「臭かったねん。」


「たはー。」


「テツ!!何口径で撃った!!」


 すぐさまに駆け寄るリザの後ろでは、テツがバケツに水をくむ。


「水ぶっかければ起きるよ。」


「え~、じゃあ外の音は?あんまり敵意は感じなかったけどな~。おかしいな~......」


「落石か、倒木だがや。稀に古くなって放置された丸太が腐って、地滑りするようにここまで落ちてくる。元々はもう一つ上に小屋を設ける予定だったんで、その名残さ腐って滑り落ちてきた。」


 リザは駆け寄って、倒れた身体に寄り添う。


「あれ、じいさん。息子さんは?」


 豪腕に抱かれたその身体は霧となり消えていた。刹那、アムスタは杖を構え入口へと向ける。ギリリと開かれた木製の扉の先には、先程、倒れたはずのせがれの姿があった。


「戻ったぞ、親父。」


「あはー。いやや、ややこしや。」


 アムスタはふざけ調子で頭を捻る。おじいさんは蒼ざめた顔のまま床へ俯いた。


「またか......」


「また、ってなんだ。おい!」




―――――――――


 ウェスティリア領東域の峰々。その樹海には多くの謎があった。


「四大暗殺集団の1つ、アザナン・ファミリアがよく利用してたって伝説があってな。ゴロツキや悪党たちによる死体遺棄は頻繁にあったが。10年前、ついにこの山で殺人事件が起きた。俺とせがれは木こりって稼業があったのはもちろん、山の治安を守る為に生活をこっちへ移していった。が、とある日を境に俺の目の前で不可解な事が起こり始めた。せがれと瓜二つの存在が、気付いたら俺を見張ってるんだ。」


「テツ、耳栓あるか。無かったら私から離れないでくれ。ジークだろ。なぁ、ジークだろ今。」


 アムスタは顎に手を置いて項垂れる。


「う~ん。良い人たちだったか~。」


「なんで残念そうなんだ。」


「だって、悪人からならいくらでも搾取できるでしょ~?ここら辺の丸太全部貰って行こうかなって思ってたのにな~。あぁ~、残念だな~。」


「まぁまぁ。皆さんの為の丸太、私が倒してきましたから。」


「紳士!!君、超紳士!!」


 アムスタは手を叩いて指を差す。


「騒がしいやっちゃな兄ちゃん。にしても、せがれぇ。倒した木を小屋に当てたろ。」


「悪かったよ。それにしても、皆さんはどうやって丸太を運ぶのですか?先刻のものを足せば、かなりの量を倒したようですが。」


 木こりの息子は、腰掛けて話す。


「それはね、企業秘密!!」


 アムスタはさっぱりと答えた。


「んで、つかぬことをお伺いしますが。10年前に亡くなった方って言うのは~?」


「俺のせがれだ。」


 アムスタの口から出る、純粋な疑問だと言わんばかりの明るい声調すらも。返答するその一声が、サァーっと血の気が引いていくような暗い霧の中へ、一行を迷わせる。


「ほうほう。それじゃあ今ここにいるのは?」


「だから言ったろ。俺はずっと、息子と名乗る何かに付き纏われてると。」


 アムスタと話すその人物は霧と共に消える。


「あはー。」


 アムスタはアホみたいに口を開けていた。


「何か。その存在を示唆すると奴は消えてしまう。しかし、奴が斬った木だとか、呑んだ紅茶だとかは確かに干渉を受けている。やつは現実に存在し、存在しない。」


「プーカ、お前は私の前を守れ。テツは後ろだ。私をサンドイッチの具だと思ってくれ。」


「10年前に殺されたのは、当時10歳だった、俺のせがれだ。」


 おじいさんは椅子にもたれ掛かり、俯いたまま言った。


「樹海に居ると、同じ景色ばかりで、自分の居場所が分からなくなることがある。当然だ。木なんてどれも同じ見た目だからな。だから俺は樹海で迷うと、敢えていつも通り木を倒すんだ。そーすっと頭が冴えてくる。今までもそうしてきた。だがもう、帰り道が分からねぇ。せがれはずーっと、俺と一定の距離を保ちやがる。時々近付いてくるが、俺はぁ目が合わせられねぇ。だけど俺はぁ、近くに来て欲しいんだ。だからアイツがいるって思って接するんだな。なぁ、アンタら。俺が支離滅裂な奴だと思うか。イカれた孤独な木こりだと思うか。それは正しいべ。俺は頭がおかしいんだろうな。でもなぁ、アンタらにも見えたんだろ。ここは霧に塗れた樹海だ。俺はずっと前から囚われてる。......なぁ旅人さん。俺は一体、どうしたらいいって言うんだ。」







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