④オーラスの洞窟より
「斜塔街ぶりだね。ノアちゃ。」
水滴が垂れる洞窟で、アムスタの穏やかな笑顔を逸らすように、エルノアは顔を背ける。
「君を認めてない。」
「証明するよ。」
声の反響する洞窟を早急に奥へ、奥へ。
一行は闇の中へと紛れ込んでいく。
{オーラス地方、海辺の洞窟}
「追手が来る前に急ごう。と言っても、さっきの死神さんはヤル気を失ってしまったみたいだけど。」
「何があるんだ。アムスタ。」
「ウェスティリア魔術学院の地下ダンジョンだよ。君たちも訪れたことあるやつ。」
「こんな岬から繋がってるのか?」
リザの疑問にアムスタは笑う。
「用意周到なのか、隙だらけなのか。ここは魔術学院というお城からの逃走経路の1つなんだ。古い転送門が時空をくっ付ける。ちなみに実際にも水路として繋がっているから歩いても行ける。僕たちはもちろん歩いて行く。」
「あー、楽する流れかと思った。」
「キャラバンがあるからね。」
「細かくしてな、ノアちゃかリザちゃんが組み立てればええねん。」
プーカの進言にエルノアが苦い顔をする。
「さっきの奇襲で魔力を使い切った。それに、組み立てがどれだけ大変かも知らない癖に。」
「そうだそうだ。」
リザが乗っかる。
「しっかし、さっきのは奇襲はヤバかったな。」
頃合いと見計らい、アムスタは灯石を片手杖で浮かせる。
「ちゃっかりブラックブックを使ってたし。」
「魔導書は得意だからね。」
「未調整のエンドレリックだ。今後は要相談だぞ。」
「あは~。」
テツは浮遊する灯石を銃口で突きながら、アムスタへ疑問を投げかける。
「魔導書と杖じゃ違うの?」
アムスタは「ふむ」と顎を撫で、その疑問に答える。
「本質的には同じさ。魔導書の使い方は知ってるかい?任意のページを開いて魔力を込めるんだ。重要なのは素早く狙ったページを開き、その内容を熟読できていること。魔導書っていうのは記憶媒体だからね。既にあるものを引き出す力が問われている。」
「いつ読んだんだか。」
「まぁ~。さっきのは勘なんだけど、複雑だから今は省略。違いについては、そうだね。例えば、杖と同じようなものでは【魔法の指輪】があるけれど、あれは魔石の力を利用するから。誰でも簡単に感覚的に魔力補助を受けられる。火の魔晶石を用いれば簡単に火が出せたりするわけだ。一方、火の魔法以外が扱いにくくなったり、酒場とかで知らない人に魔法の傾向がバレたりするデメリットがある。」
アムスタは灯石を浮遊させる杖をクルリと一回しをして話を続ける。
「そうやって比較をすると分かってくる。杖は万能な道具なんだね。自ら魔術式を記して狙った形に綺麗に魔法を生み出す補助道具。もっとも覚えることが多く、使用者に負荷がある反面、やれることも多い。そこから補助性能と記憶性能を足し算したのがロッドと呼ばれる大きめの杖。そこから引き算をして、究極的に何も使わなくなったものが素手だ。素手で出力される魔法はもっとも隙が無くデメリットが無い。」
「だが、ブラックブックは呪いの力を持つ魔導書だ。まぁ、ナナシが死霊を祓ったことで、不純物を取り除いた鋼みたいに、ある程度は使い物になったが。何が起こるか分からない。」
「おっしゃる通りでございます。ごめんなさいです。」
アムスタはリザの苦言を丁寧に受け止める。
「ま、まぁ。僕が死霊系の魔導書に慣れているってこともあって使用したのもあるんだ。しかしそんな技術は、すべからく同様にシーラでは無意味だ。だから驚いたよ。あのヒットって言葉、船体にじゃなくて、船の上のヒュドラに当てたってことだろ?それもスコープ返し忘れてたし。アイアンサイトで、しかも一発で、よっぽど人間離れしてるよ。」
「たまたま。」
「今後が楽しみだなぁ~。」
アムスタは灯石をぶんぶんと杖で振り回しながら、感嘆する様にそう言った。
「それにしてもアイツ。何者だったんだ。」
隊の中に沈黙が走る。誰も持ち合わせていない答えを探り合う様に。
「1つだけ言えることがある。」
そう端を発するアムスタに、一同は耳を傾ける。
「アルクも、ナナシも、2人ともダンジョンに殺されたんだ。弔い合戦は、すべきじゃない。」
アムスタのその言葉には、沈黙だけが返事をした。
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