②城下街のストリート
{ウェスティリア魔術学院、城下街}
「城下街といっても、お城から少し離れた隣町みたいなところなんだ。ただいくつもの隠し通路が伸びてるから、根っこでは繋がってる。」
メインストリートには様々なお店が立ち並んでいた。
嬉々として説明を挟むアムスタの後ろを一行はついていく。
「ピター・ピニックの駄菓子屋には要注意だ。あそこには、大人ですら肝を冷やすような魔法玩具が沢山売られている。いつかの職員会議でそんな声が聞こえてきたらしい。実に、キワモノを売ってるお店も沢山あるけれど、僕としては大きなウェスティリア川を一望できるロンリーの珈琲店がおすすめなんだ。景色も良いけど、店主が楽器を操る魔法で生の演奏を流してくれる。」
立ち並ぶ店々には歩き食い推奨の店頭販売も多く、採れたての川魚を木炭でジュワリと炙る店も有れば、腸詰めした豚肉を小さいモンスターがジリジリと焼いている店も有った。リザは腹を膨らませたプーカを見ながら言った。
「エビピラフ食って来てよかったな。」
「ゲプッ...…悔しいです。」
借りたフェアリアのローブ越しにプーカは腹を撫でる。
アムスタは身振り手振りを用いて饒舌に口を動かしていた。
「武器屋、防具屋、杖屋、魔法道具屋、魔法生物屋、そして名も無い雑貨屋。名の無いと言っても存外ドライアドはこういう雑貨屋を利用する。オーパーツを入荷することがあるからね。宝探しみたいなものさ。お店の二階が住居の所もあるけど、中央のクロスストリートは商業的な建物が多い。そこから川辺に近づくにつれて新鮮な野菜や食べ物を売っている店や色々な住宅が近付いてくる。そしてそういった川辺のお店や人々を台風や大雨の時に、ウェスティリア川の氾濫から守ってくれる頼もしい人たちの集まりがあった。」
それは港と宿屋の役割を両立したような4階建ての大きな屋敷。
「後の、ウェスティリア魔術学院ギルド。僕たちのホームだね。」
{ウェスティリア魔術学院ギルド・本館}
「馬鹿野郎たわけェ~ッ!!お前ら並べェ!!」
酔っぱらいが跋扈するその屋敷では、死角から飛んで来る酒瓶を避けるところから始まっていく。数多、歴戦の冒険者の肖像を飾る額縁が傾き、机の脚が折れながら、その酒場は今日も荒れていた。ウェスティリア魔術学院、登録冒険者400名。その過半数が既に死んでいると言われており、今日の酒場には未だ命を謳歌する60名ほどが集っていた。
「ミー、シャさん!!」
「キャアーー!!!アムスタ!お帰りぃ!!」
人懐っこい×人懐っこいがじゃれ合っていた。番台係のミシャはウェスティリア魔術学院のアムスタの先輩にあたる。ロングの茶髪を緩く巻いた髪の毛は、出会った頃から変わっていない。時折、隣接する厨房も手伝いに行く彼女は、使い古したエプロン姿が制服である。
「やぁ、アムスタ。」
「よぉテメェ、斜塔街は辞めたのか!!」
「そんなとこ~。」
リザは飛んで来る酒瓶をキャッチし栓をポンと開けて一口含む。
喧騒を煙たがる様にテツはクエスト掲示板の方へと逸れていった。