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③食堂にて


「あれえ、反応薄くない?」


 拍子抜けした顔のアムスタが舞わせた火の粉を煙たがる様に、リザはパッパと穴の空いた箇所を払った。


「旅の前に腹減ったん~。」


 アムスタ登場から間もない内に、しなしなになった困り眉をハの字にして、座っていたプーカが腑抜けた音を上げた。アムスタが取り敢えず食堂へ移動することをユーヴサテラへ提案するが、アルクだけが静かに首を横に振った。


――僕はここでお別れだ。


 余りにも呆気なく、アルクがそう告げる。「分かったよ」とアムスタは優しく答え、テツは「うん」と淡白に返事を返す。プーカは構わず「飯ぃ」と歩き出し、リザは振り向きざまに右手を軽く上げた。



―――――――

{ウェスティリア魔術学院・隠し通路}


「外からドライアドに入るのは簡単なんだ。古びた別館の正面から警備の容易い門を叩けばいい。ただ警備の出来ない内側から入る時は、今から辿るこの長い道のりを進まなくちゃいけない。ウェスティリア魔術学院冒険士寮フェアリアから、更に冒険心を持って探索した数奇で好奇心旺盛な者だけが、秘匿されしその寮に自ら辿り着くことが出来るんだ。」


 一行は一度ドライアド寮へ古びた学院のローブを取りに戻り、それから食堂へ向かっていた。いくつかの隠し階段と地下通路を経由し、急にたどり着いた空に浮かぶ透明な渡り廊下から本館を見下ろしたアムスタは、ピシりと人差し指を学院の方へ指す。


「ずれたココの座標はあの館に繋がってるんだよ。本館と接続する奇妙な城館の一部。ほら、よぉく見て。何かに見覚えが...」


「ハヤク...ゴハンを...」


 茫然自失の様相で背を丸めて歩くプーカが、かすれ声を上げながら、透明な欄干から身を乗り出すガイドの背中を追い抜く。


「おぉっと!!プーカ!!落ちるよ普通に!!道間違えると!!」


 アムスタは颯爽とそれに気付くと、プーカの首根っこを掴むように服を手繰り寄せた。


「なんて殺意の高い…」


 リザは透明な欄干に手を付いて、冷や汗をかきながらアムスタの足取りをトレースするように続く。


「ごめんね。話の続きは食堂に行ってからにしよう。みんなと話したいことはいっぱいあるんだ。」


 アムスタも同様にかいた額の冷や汗を拭うようにしてから、すかさずまた先頭に立ち、クランを牽引するように歩き出した。


「それと雨の日はもっと凄いんだ。なんとね、滑るの・・・・」


 続けざまにまた口を開くアムスタへ、リザは少々呆れた様に、口角を上げた。



―――――――――


「アムスタ~、新入生かぁ?」


 茶化すような言葉が長机を囲む、


「お前帰ってたのか?」


「おっ、不登校児発見~!!」


「先輩、この間チョコ作ったんで良かったらどうぞ。あと今度良かったら食事でも・・」


 愛想よし、愛嬌よし、顔良し、性格よし、成績よし。


「ありがと~、いや、今度も長旅になるよ。


 ――あっリリー、また雑貨の件教えてね?


 そうまぁ、新入生だよ~。あっ、それはちょっと言えない――


 ――そうそう、またね~。はい~。」


 人付き合いよし。

 

「お前人気もんだな~。」


 リザが呟き、アムスタが意地悪く応える。


「まぁ、ナナシに比べたらね~。」


「・・・・ふんまふんまっ、ふんま!」


 そんな喧騒お構いなしに猪突猛進するが如く、カラフルなエビピラフを頬張るプーカを横目にアムスタは溜め息を吐いて言った。


「ここはナナシがよく使ってた席なんだ~。ドライアドに入る前、いいや入った後も、よくアルクと一緒に話してたなぁ。あとたまに喋る黒猫。」


「そうか。」


 リザは感嘆するように皿を置き、スプーンを持たない右手で机を撫でた。


「左利きなんだね。」


「両方使える。」


 スプーンを右手に移し、リザはクルリと指でそれを回す。


「ほえぇ....」


「でも、アルクが抜けるとは思わなかった。」


 その様子に目もくれず、ジッとスープの揺らぎを見つめたままで、テツは俯いて呟いた。おおよそ想定外の事態に、今後の脳内展望が大きく針路を変えていく。


「そうだな。」

 

 同じように肩を落としたリザの正面では、プーカがカチャカチャと食器をリズムよくならし、大皿のピラフを口に放り込んでいた。


 対照的にアムスタは天井を仰ぐようにして、額に右手を当て「アチャー」と声を漏らした。


「あれえ、まさか聞いてない...?か。よね。そうかぁ...まぁでも、そうだよなぁ。」


 含みのある自問自答をしたあと「よし」と覚悟を決めたようにアムスタは顔を上げる。


「あのね~?アルクの脱退は、僕が入る時の条件だったんだよお。」


「げッ?!」


 脱退へ追い込んだ張本人を前にリザは目を丸くした。


「そうなんだ。」


 対比するようにクールで真顔なテツも、興味ありげ、耳を傾けるようにスプーンをカチャリと置いた。


「プーカ隊長、おかわりを貰ってくるであります。」


 構わずプーカは立ち上がりキッチンの方へと身体を向ける。


「あはっ、い、いってらっしゃ~い。でぇ...まぁ、アルクには二言返事を貰った訳なんですけどもね。なんだろうね~。なんで言ってないのアルク~?僕が悪者みたいじゃんか??」


 トーンを落とし、目を泳がすアムスタを前に、リザがガタリッと椅子をならして立ち上がる。


「アイツ...!!話付けてくる。」


「いやはやぁ~、もういないんじゃないかな。」


 人差し指をツンツンと合わせるアムスタを横目にリザの服を掴んでテツが同意する。


「うん。アルクのことだから、きっと、こうなることを見越してる。想像に容易いよ。もしアムスタとアルクの二者択一を迫られても、僕らにアルクは切れなかった。そんな選択肢は無いから。」


「それは...」


 リザは今一度座り直して腕を組み、考える。

 アムスタはその様子を見ながら若干のばつの悪さを誤魔化すように、ほっぺたをムニムニと触って、二へェと笑っていた。


「それはだなぁ。」


「えへぇ...」


「それは、分からないだろテツ。た、例えばそうだ。ユーヴのみんなで、ここにいるアムスタを何とか説得したりとかすればさ――」


「それはないよ。」


 その時、アムスタを包む周囲の空気がパリッと変わった。足元の薄氷が割れたかのような真剣さが場を包み、アムスタのその目尻は優しく笑いながらも、声のトーンは1つ落ちていた。


「アルクは死ぬ。」


 アムスタは思い出すかのように、気まずそうに目線を左上へ逸らして続ける。


「それが~、僕の下した最終判断さ。いまの戦力とユーヴの置かれてる状況を鑑みれば、そうせざるをえない。というか元々、常識外れ。クランにトレーダーを入れる、ナナシのやり方は。」


 凛としてそう言いきるアムスタにリザの反論はなく、ただプーカのピラフを食べる音だけが、気を取り直すように流れ始めた。


「でもその代わり、僕も頑張る。」


 ふんす!と鼻を鳴らしアムスタは胸を拳で叩いてから続けた。


「僕がリーダーに付くからにはさ、アルクは連れていけない分、それなりの利点があるはずだよ!!アルクもさぁ、少なからずね、そう思ったからこんなマネしたんじゃないかなぁ??」


「同感だ。」


 テツは冷静にもそう呟いて、飲みかけのスープを啜った。


「うん。そして僕個人としても、ただユーヴと旅をしたいとは思ってはいない。」


 アムスタは目の色を代えて、前のめりになって話す。


「アルクもよく言ってただろ?友好関係とは、双方向的な利害関係さ。だから僕らはクランであり、クランたる。だからまずは、情報共有から始めようか!!」


 バッと席を立ち、意気込みを見せるアムスタに、他三人は見向きもせず食事と見つめ合っていた。


「ちょっと待ってくれ。」


 リザがパスタを頬張り、テツとプーカが続く。


「うん。食い溜めておきたいんだ。」


「あと三皿食うねん!!なんせ無料なん!!」


 アムスタは「そっか」と笑いもう一度席に座った。


「お腹空いてたんだね?」


「うん。テヌーガで、僕ら、報酬ゼロ。」


「分かる~。」


 アムスタは和やかに頬杖をついて笑った。


「ところでよぉ」


 口をモゴモゴさせながら、リザが切り出す。


「なんで場所を変える必要が有るんだ??」


「あぁそれはね~」


 アムスタは相変わらずの困った顔で、サラッと答えを返した。


『”世界が”君たちを狙ってるからだよ~。』


 

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