新章序譚:ダンジョンとは、人が死ぬところである。
◇◇◇第六巻【新章】◇◇◇
・目次
新章序譚:ダンジョンとは、人が死ぬところである。
新章序譚:緊急事態の主人公
特別短編:オリジン ~英傑たちの継火~
宣伝掲載『ノアの罪人:第一話』
第Ⅰ譚{円卓の国}
第Ⅱ譚{本拠地の街}
第Ⅲ譚{木を切る人の譚}
第Ⅳ譚{裕福な国}
第Ⅴ譚{最強後衛の異世界ハーレム無双 ‐冥王転移の凡夫な俺じゃあダメですか?‐}
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(未完・休筆予定あり)
「プーカ、どうして君はッ!!」
膝を付きながら、アルクはプーカのローブを掴み項垂れていた。
「――どうして君はッ!!」
涙交じりの顔を上げ、プーカはただジッとその姿を見下ろしていた。
「君はッ!!君はッ!!」
ローブを掴むその拳をグッと握りしめ、しかしアルクは肩の力が抜けた様に崩れ落ちていった
「君は...悪くない。」
ノアズアーク・フォーム『ジュピター』
真球となったキャラバンは閉じ込めた物体の圧力を極限まで抑え込む。例えばそれは巨大な怪物を生け捕りし封印するように、キャラバンが全てのリソースを閉じ込めることに割いた形状。
「どう...なったの?」
ミカルゲの疑問には、誰も答えない。しかし灰色で液体状の怪物たちは、乾いた灰のようにパラパラと身を崩し、天井に設けられた通路と言う通路からは、闇に濡れた霊廟に燦々たる光の梯子が何本も差し込んている。激しかった敵意の嵐と怪奇現象の雨は確かに止み、その死地には明白な平穏が訪れていた。
「...」
エルノアはそれを確認すると、人の姿へと様相を変えながら苦い顔でキャラバンへ近付いていった。
「他のやり方が、あったんじゃないのか。」
静かな憤り。しかしそれは誰に向けられたものでも無かった。エルノアは真球となったキャラバンに触れ、その形をゆっくりと解いた。そしてさも当たり前化のように、中から出てきた、たった一冊の血肉に濡れた赤黒い本を手に取り、睨んでいた。
「そんな...」
ミカルゲが息を呑み声を漏らす。そのたった一言が、状況を整理するように現実という非情を押し付けていた。
「プーカ、ボクは君にどんな顔をしたらいい。」
エルノアの陰りに、しかしプーカは比較的穏やかな表情で、いつも通りの口調で話した。
「ノアちゃん。ホントに辛かったんは、ここに居た人達なんよ。ずっと苦しんでた。だからナナはもうこれ以上苦しんで欲しく無かったんよ。一日でも早く、痛いの治してあげたかったんよ。プーカにはナナの気持ち、なんか良く分かる。」
「それでもッ!!」
「――やめよう、エルノア。」
アルクはスッと立ち上がり、どこを見つめるでもなく虚ろ気に言葉を紡いだ。
「このダンジョンは終環した。でもその本は、もう誰かに使われるべきじゃない。このシーラの因果についても、公表したところで噂程度になって、僕らがノスティア政府に目を付けられるのが関の山だ。」
「真っ当だな。」
皮肉るようにリザが口を挟む。しかしアルクの表情は依然迷いが無かった。
「分水嶺だよ。僕らは、ここに居なかった。いいね?...このシーラはF級の僕らが背負うには闇が深すぎる。証拠は僕らの頭にしかない。テツには後で話すけど、ブラックブックも悪用される訳にはいかない。だから...」
不貞腐れるような苦い結末も、行き場の無い靄も、アルクの言葉を覆すには至らない。そこには世渡りを生業としたトレイダル家の圧倒的なバランス感覚が垣間見え、そこに広がる世界の冷酷さを全員が理解していた。
「帰ろう。」
ここは屍の上に成り立っている。誰しもがそれを理解して、覚悟を持って挑み行く、逃げ込む穴には死地があり、座る丘にも死地が在る。この場を誰もが理解せず、その場を誰もが知っていた。
ダンジョンとは、人が死ぬところである。