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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第32譚{魔術廃校のシーラ 霊廟編}
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⑧魔術廃校の終焉


「――もう止めてッ!!」


「見なくて良いんよ。」


 瞳孔を開き、涙を浮かべ屈むミカルゲの目をプーカが塞いだ。


「でもっ、....私が、見届けなきゃ。……お父さんとお母さんの最期、私がっ!!」


「二人はそんなん、きっと望んで無いんよ。」


 プーカはミカルゲを抑え込むように抱きしめる。実際パニックは敵だ。動揺も敵。全て要らない。目的はただ、生き残ること。冷静に成れ。


「コレハ全て現実デアル、ソシテ君ハ両親と同じ答エに辿り着キ、同じ過チを導イタ。……ヒュドラは、ブラックブックヲ諦メタのデハ無い。」


「どういうことだ。」


「暗殺サレタノダ。彼ノ者ノ名は、……初代フェノンズの長、ゼロ。」


 聞いたこと無い名前に一瞬思考が停止する。しかし脳みそを覚ますようにリザがテツのリボルバーをエリックへ向けた。


「どうでもいいな。そうだろナナシ、こいつの目的は時間稼ぎだ。」


 そして躊躇わず、リザはトリガーを引いた。


――ダァンッ、と轟音が響きリザの拳から血が吹いた。


「つッ……!!」


「必定。」


 エリックはリザの垂れ下がる腕を見下すようにそう言った。


「リフレクション。不戦どころじゃねぇってことか……。」


「目には目を、か。大丈夫か、リザ。」


「あぁ、気にすんな。」


 リザの意図は明快だ。俺たちは確かに、ジリジリと詰みに近付いている。


「サぁ、決断スルが良イ……。」


 ブラックブックを奪取すれば、死の呪いがハーベスト全域にまで波及する。絶対に攻略できないゴミシーラ。だが攻略させようとしている割には命を奪おうとも奮起している。


「あぁ。確かに俺達には決断がいる。だが、理解に苦しむな。実際アンタのお仲間は攻撃手段を持っていた。シーラを攻略させようと画策するなら、命を狙うアンタの意図は何だ?」


「フム。……意志ガ無いノダ。ブラックブックの管理下デアリながら、私がソレに抗う様に。彼らハ独立シテ動くが最早人間トシての意志は無い。タダ亡者の様に決めらレタ律のもと排他を行う。大図書の学徒らを見たであロウ。」


「学徒……?」


「アァ、アレらは当時、処刑を見ラレマイト一カ所に集めたもの。故に大量の肉兵、聖職者がもっとも多く生まれてしまった。地獄絵図であっただろう。あの者らに意思はナイ。結果的二...」


「――待て俺たちは、そこを経由してないぞ……。」


「アァ。そうか、ドオリで遅いワケだ。」


 エリックは俺たちの彼方後方へ視線をやった。その先では俺達をここまで運んだ、キャラバンへ通ずる蜘蛛の糸が無風の中、プラプラと揺れていた。


「テツ……。」


「背水の陣、殿の猶予カ....退路ハ、無い様ダナ?」


 音も無くしかし刻々と、背後に死の宣告が迫り寄っていた


「自己犠牲を美徳とスル者、皆不幸となる。」


「――誰の事だか知らねぇが、ウチの仲間はそんなんじゃねぇ。確証が無いから余計なこと言わなかっただけだ。それに、時間は充分授かった。」


「憐レダ。お前の仲間ハ、助カラヌ....」


 俺はブラックブックに手を付き、エリックと目を合わせた。


「それは、無い。」


 キャラバンへ続くワイヤーが揺蕩い、凪いだ亡者の霊廟に、天から一点の荒い乱れが生まれた。


「――ナナシ、助けて!!」


 知った声が降る様に聞こえ、ダストシュートから姿を現したテツがエルノアを抱えたまま天井へ、アンカーガンを射出しターザンのようにスウィングした。


「ウチはダサくったって、助け合いがモットーなんだ。」


 直後、プーカは指で輪っかを作り――ピュ―ッ、と甲高い音を鳴らす。それはノアズアークを木製の獣に変え、主の元へ呼び戻す合図。


「あんたも何か手伝えよ。」


 ワイヤーの揺蕩いが、鞭のように波を生んだ。


「ナニするツモリだ....」


「望み通り終わらせるんだよ。この絶対攻略させる気の無い、呪いのシーラを。」


 アルクは慌てた様に割って入った。


「ナナシ、どうするつもりなんだい?君、またもしかして無茶を....」


 アルクの杞憂を消すようにリザが大声で叫ぶ。


「おーいテツ!!この場所で絶対に攻撃するなッ、自分に跳ねっ帰るぞ!!」


 リザが忠告した直後、ブァシャッ!!と瑞々しい音と共に、――ドガガガガガ!!とダストシュートが広がるように崩壊し、灰色の化け物がテツを掴もうと溢れながら追従する。


「分かった!!」


 テツはすかさずアンカーガンを再射出し、距離を伸ばしながら身体を反転させながら天井の岩へライフルを撃ち込んだ。


「って、お前!!」


 崩れた岩石が灰色の液体ちっくな怪物の群れを叩き落とす。


「そうか、間接攻撃....!!おいアイツ本当に新入りか?」


 リザは天井を見上げ感嘆する。しかしあの部屋で戦った怪物のタフさを俺たちは知っている。直接攻撃が叶わないのなら終環点を攻略するしか勝ち筋は無い。


「踏み込んだ時から覚悟は出来てる。ここはシーラで三途の川だ。」


「ナナ、ホントにいいんか?」


 プーカの声に応えながら、俺はエリックの目を睨む。

 

「大丈夫だ。だが、アンタはどうだ。俺は命の渇きを知っている。感情が死に孤独に埋もれて腐っていく、現実と言うものから実感が消えていく。――アンタはどうだエリック・アンダインッ!!アンタの心で、アンタの決意で、アンタの全てで、この数百年の陰謀に終止符を打つ準備は良いか!!」


「終ワル....?コノ天秤ヲ、選ベルト言ウノカ...」


「どうするッ!!」


 エリックは決意を固めた様に両の手を広げた。


「ナラバ、無論であるッ!!」


 賽は投げられた。


『ブラッドオーダー。』


 プーカは手のひらを合わせ、流すように右掌を突き出した。


「――やめろプーカッ!!」


 エルノアが叫ぶ。しかしブラッドオーダーにエルノアの意志は反映されない。これはキャラバンを強制的に動かすノアズアークの最上命令。


 テツが合流し、周囲では俺たちを排除しようとする怪物の津波が覆いかぶさろうと迫っていた。しかし、それよりも遥か素早く束の間に、俺とエリックと間のブラックブックを、獣の形をしたノアズアークの口が呑み込んだ。


「ダメだッ!!」


 アルクの声が遮断される。ノアズアークの絶対閉口。そして俺は台座の本をパタリと閉じて、持ち上げた。


「終わらせよう。」


 闇の中、本から発せられた眩い閃光が身体を包んだ。








Tips

・拳銃

『地上の魔導士が持つ防衛力、攻撃力に対してはあらゆる面で劣るオーパーツ、"銃"というものについては、完全魔法制限領域下では特段安定した性能を発揮する。しかしながら往々にして、魔法世界における戦闘で重要なのは損傷箇所ではなく損傷量、損傷範囲の大きさ、そして攻撃手段にどれだけ相手の回復を阻害する魔素が含まれているかであり、弾丸にオーダーメイドの特別な加工を施せる優秀な技術者(魔導士)がいなければ、大きく威力が減衰する。また意識が一点に絞られる点においても、攻撃を読まれやすいという欠点があり難儀。拳銃のパーツそれぞれにも対魔術用の細工が成されていない限りは簡単に破壊され得る。

 つまるところ結局は、魔法制限領域以外で不安定視される火薬類を使うよりかは、肉肌で持って、加工のしやすい武器(剣、杖etc)で敵を攻撃するのが最もダメージ効率が良くトラブルが少ないとされている。』


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