③霊廟テヌーガ 番人
「終環点を奪取する。退くも進むもリスクは同じだ。」
俺たちはダンジョンをあるいはこの現象を刺激しないように、ゆっくりと歩みを進める。
「ナナシ、試したけど魔法が使えない。完全なシーラだ。」
土からは掘り返す様に骸骨の腕が姿を見せる。
「ひぃッ!!蘇ったッ?!」
アルクの一声と共に俺たちは身を寄せ合い、警戒する様に塊となって進む。唯一土の無い赤い絨毯の上がまるで細い綱渡りをしているように思えた。
「うーわ。マジか、私ゃオバケは無理なんだ。あと頼んだ。」
「戦意喪失しないでよリザッ!!」
「だって魔法使えないんだろ、じゃあオバケで確定じゃんか。オワッタわ。」
「終わって無いってばッ!!」
しなしなと力が抜けた様にリザの声が萎んでいく。傍ら骸骨は連鎖的に地中から腕を生やし、その数を次々と増やしていった。
「こ、こここっ、ここで退けばまだ助かるとかないよね、ね?なななし?」
「どうだか。でも、ここで退いたら、一生掛けても命泉に届かない。」
土を飛ばす音が爆竹の様に数を増やしていく。辺りでは既に幾つかの人骨が二足で身体を支えていた。
「頭が、無いっ...?!」
ミカルゲが発し、それに気付く。しかし今はより重要なことが有った。
「――攻撃はするなよッ!!敵意が向くまで何もするなッ!!」
それは統制を取ること、あの骸骨らには敵意が無く、今のところは脅しにしかならない。そして俺たちは着実に歩みを進めている。
「終環点、どうすればいいの・・・?」
「セオリーは置かれた場所からズラすだけで良い、いざとなれば徒競走だ。全員で台座の本をビーチフラッグ。」
「ビーチ、フラッグ......ルールは?」
「――ウマいんか?」
「忘れてくれ。」
鼓動が高鳴っていく。敵意は無い物の骸骨たちは着実に数を増やし着実に俺達と距離を詰めていた。
――?!
ダァン!とピアノのハーモニーが崩れ、荒々しい鍵盤の音が一度に重なって止まった。空気が変わり、その刹那、10m先に白い縦糸がほつれ螺旋を描きながら靄を創り、そこに人を象った。
「戦型玄武。」
俺は膝を曲げて臨戦態勢を取る。呼応するように玄ノ叢雲が刀身に重みを増やし、銀色の刃を鈍く光らせた。
「ヤメロ。」
しかし、未だ敵意は何処にも無い。
『マサカ――』
それはテヌーガのローブを羽織った魔術者の、凍える様な亡霊の声。そいつは自身に纏わりつく首のない骸骨を振り払い、その豪勢な石仮面をゆっくりと外した。
「骨...」
皮と肉を纏ったはずの顔は、どこにも無かった。
『ココでは、セントウが禁じられている。ドウカ、刀を納めて欲シイ。』
右目を割る様に縦の亀裂が入った頭蓋。緊張の暇、何拍か置いて俺は刀を鞘に納めた。
「ナナシ...」
アルクが心配そうに声を漏らす。
「大丈夫だ。居合も得意なんだ。」
俺がそう発すると、凪のような空間から一縷の敵意が向けられるた。しかしそれは俺達にでは無く、この紳士的な骸骨にであった。
『・・・マサカ、旧昇降路カラ来るトハナ。予想ダニして居なかった、我々ハ、テヌーガに嫌われている...』
学院のローブに夥しい数の服装の勲章、しかしテヌーガの主であるはずの様相をしたそいつは、嘆くようにそう言った。
『着いて来イ。』
そいつは首の無い骸を腕で振りほどきながら、ローブをはためかせ背中を向けた。
「罠か?」
「油断しなけりゃ罠には成らない、向かう先は同じだからな。」
俺は背中を追う様に左足から前に出す、続くようにアルクから順々に足音が鳴った。
『見セテヤロウ...生者ノ器ヨ。我が大罪、貴殿らガ、裁イテ見せヨ・・・・』