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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第31譚{魔術廃校のシーラ B2編}
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⑩取捨選択


「ほんとに行くのか...!?」


「うん。」


 その穴は乾いた血染みに塗られていた。



{テヌーガ南西ルート:B2『大廊下、研究室前』}


 それはテツがこの階層に来て早々に発見した罠の穴。連なる平面の床に偽装されたダストシュートであった。俺達はその穴へ、ハーケンガンで結びつけられた足場をもって潜ろうとしている。穴の上にはそれを囲う様にノアズアークが構えられ、廊下に沿った縦長のフォームキャッスルが展開されていた。


「全力出してこんなもんか~、狭くなったなあ。」


 リザのボヤキにエルノアが拗ねる。


「本気じゃないぞ。ここでの本気だ、知ってるだろ。ここでの――」


「はいはい、分かってるってば。」


 天井にはハーケンガンがコイルの様に木の円柱に巻かれていた。


「心許ないターザンロープだな。」


「そう。誰かの手が滑ったらナナシが足場になる計算。」


 テツは微塵も悪意の無いような顔でそう言った。


「終環点はシーラの核だ。つまりどれだけダストシュートじみた穴でも、この道はゴールの近くに続いてる。」


「何も無かったら?」


「死体くらいはあるさ。それを集めてる理由込みで。」


 テツはロープの強度を確かめる様にグイっと引っ張ってから俺に渡した。その上には2m感覚で足場が設けれらている。


「例えシーラであろうともここでは重力が働いてる。いざとなれば上に素早く逃げれるってことね。」


 ミカルゲはテツの意志を組み取り息を呑んだ。


――カッ、カカ、カラン……


 テツは穴に放り投げた灯石をスコープで覗く。呼応するようにアルクは等間隔でペンを机にトントンと突き、自分で作成した簡易マップを見ていた。灯石は自由落下そのままに落ち、ストンと何処かに着地した。


「壁には大きな返しも無かった。死肉だとかゴミが引っ掛からないように通しをよくしてる。」


 それからテツはアルクの方を一瞥する。


「五秒くらい。」


「128mかな。テツ、前も言ったけど壁に当てちゃうと計算がズレちゃうんだよ。」


「いいよ多少は。」


 アルクは困った顔のまま苦笑いする。


「あぁ。あと、ちょっと深すぎるんじゃないかなぁ~とか。なんならもうここで――」


「お留守番、一人は残る必要が有る。ある意味、殿として。」


 アルクの顔色が良くなっていく。


「帰ってきて落書きでもされてたら良くねぇしなぁ。」


 リザの言葉にテツは静かに頷いた。ハーケンレフトも重量が嵩めば機動力を失っていく。つまり元来少数で行く手筈だったのだろう。あるいは前衛に人数を裂き、最低と言わず戦闘員一人だけがキャッスルに残る。


「残るべき人は、もう絞れてる。」


 テツはしっかりミカルゲの眼を見つめて言った。


「行きたい。この先に....?」


「もちろんよ。」


「分かった。」


 テツは静かに目を閉じ銃を降ろした。


「僕が単独で残る。」


 それはまさかの決断であった。


「アナタが残るの?!」


 テツは静かにコクリとそれに頷いた。


「今のフォームキャッスルには迎撃性能に割くリソースが無い。例え全員で行っても所詮穴に潜る方は先遣隊で逃げる場所が必要になる。そうなればここは絶対に死守しなくちゃいけない。その際、僕とキャッスルの相性はこのクランで一番高い。」


「そう、なんだね。」


「それに遺物の罠があるなら分析要員にリザがいるし、アルクのマッピング能力に僕は敵わない。例えこの先に何が有ったとしても先遣隊としては両者必須。」


 アルクはそれに少し機嫌を良くしたように鼻を鳴らす。


「ま、まぁね。」


 それでもミカルゲはテツの眼を見つめながら、信じられないといった顔をしていた。


「でも貴方がいなくちゃ――」


「僕が必要なくらい複雑なら、直ぐに帰ってきて欲しい。例えそうなら礼拝室の先と条件は変わらない。でも、確信したんだよ。120mなら、穴の底はテヌーガのど真ん中、きっと終環点に繋がってる。例えそうでなくても、そこまでは紙一重。」


「なんでそんなことが分かるの?」


 銃を降ろしたテツは、肩の荷が降りたように息を吐き、残念そうに言った。


「勘だよ。」


 多分それは、大いなる理屈に基づいたもの。


「それに道は繋がってるものだから。」


 テツは静かに腰掛けてそう言った。

 

「なら進もう。」


 俺はロープを握る。きっとこの決断には隙が無い。いくら粗を探そうとも最善の1つであることに違いはないだろう。だから従うまでの躊躇は要らない。それに、夢中に勝る努力は無いのだ。その点、もっともシーラを知り尽くし、先を目指そうと生きてきたテツが残ると選択した事実は、揺るぎない根拠を感じさせるものがあった。


「ってか――」


 俺はプーカの方に視線をやった。


「お前は行けんのか。」


「主人公だかんね。」


「左様ですか。」


 肩には痣のようなものが見えるものの、プーカは軽々と腕を上げ戦隊モノで見るようなポーズを決めた。









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