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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第31譚{魔術廃校のシーラ B2編}
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⑤シーカーの活路



「古文書に載っていた遺物の名前は『アトラスの鉄枷』と呼ばれるもの。鉄球につられて思い出せなかったけど、テヌーガの古文書で最も近しいロストテクノロジーはそのアトラスの鉄枷と名の付いた囚人の足枷。」


「足枷?」


 あの大鉄球から想像も付かない単語に、俺は疑問符を打った。


「そう足枷。普段は手のひらほどで、対象となる囚人の力を読み取って相応の大きさになるの。鉄球は対象が悪であること、そして受刑者であることを術式条件に可変する。まさに悪を判別できるテヌーガにピッタリなもの。一例に、小ノスティア帝国期に革命を企てた暴王バロン3世が収監された時、付けられた枷はその身体を越える大きさになったとされてるわ。でもバロン3世は身長が2mあった。」


 推定2m以上になる足枷の鉄球部分……。


「対象の力に応じて可変する大きさの鉄球か。術式条件があるなら足枷ってところも納得できる。その理屈だと、俺が触れたことで鉄球が小さくなったことになるし。」


「そうだね。最初に裁判所を模した教室で身勝手な死刑宣告をされたのは、そういった条件をクリアさせることに繋がってるのかもね。そのアトラスの鉄枷が僕らが来る前に一つは谷に落ち。今回は小さくなって向こうの部屋にまだ落ちてる、あるいはまた落ちたってことになる。例え谷に落ちても大きさが可変するなら回収も楽だ、カエルにでも繋げば良いんだからね。何か適当に罪を与えて。」


 アルクは淡々と辻褄を合わせるように喋る。


「あぁ、合点が行くな。」


 リザはそれに頷いた。しかしミカルゲにはまだ懸念点が在ったようで、苦い顔をしながら話を続けた。


「でも、アトラスの鉄枷は対象が触れる以外で可変しない。その話はここで見つかった古文書に載ってたの。枷の大きさは囚人の強さに指数的に対応する。理由の一つには革命の武器とならないようにするため、あるいは囚人が鉄球を操作出来ないようにするためで、意図的に大きくすることは出来ない。とにかく、つまりは――」


「そ、その鉄枷を3mにさせるほどの怪物が、ここにいたってこと?」


 アルクは恐る恐るミカルゲへ聞いた。ミカルゲは何とも言えない表情をするが、リザは仮定の話を広げていく。


「そしてその怪物の枷が、断ち切られたことになる。鉄球に鎖は付き物だしな。」


「うん。アトラスの足枷は実体化しない鎖で結ばれている。鎖は異次元にあって絶対に断ち切れないとされるけれど、私はあのギロチンがその鎖を切り落とした結果、鉄球が動けたんだと思う。ギロチンの遺物なら、そのくらいの力があっても驚かない。そうなるとつまりは、学院が閉じ込めていた手に負えないほどの何かが、最終兵器として落された。……可能性が有る。」


 ミカルゲの推測が終わり、そこから長い沈黙が訪れた。見合わせたのはテツの顔だ。ただ天井を見据えて目を閉じていた。空気の音を聞くように、その匂いを取るように、穏やかに呼吸をして目を閉じていた。彼女には珍しい、長考だった。そして彼女は口を開く。


「無責任なことは言えないんだ。だからここでハッキリさせおく。」


 テツは尖らせた目で言葉を続けた。


「トラップは僕が暴く、でもこのダンジョンには逃げ道が少ない。地形がシンプルな余り遮蔽が無いし。道も整ってる。学院の中に有るからね。それに今のノアズアークも僕ら全員を守りながら逃げることは出来ない。それは難儀だ。かつてないほどに、難儀。」


 ローペースな探索を取り柄としていても、テツがここまで慎重なのは珍しい。しかし、その理由も共通認識だ。俺たちはよくわかっていた。


「安易に逃げれば罠部屋だ。敵モンスターのレベルは未解明。ただユーヴとの力比べになって、負ければ全員が死ぬ。僕はそういう博打を好まない。」


 とても口下手な奴だった。でも今は、ハッキリと仲間に指針を伝えている。


「確かに。敵と遭遇して、もし敵が僕らより強くて速かったらもう全滅なんて悲しいもんね。」


 アルクは納得する様に頷いた。


「そう。だから、僕の前には今2つの選択肢がある。一つ目は撤退。二つ目は前哨基地を置いてのトライ。」


「前哨基地?」


 ミカルゲが問う。


「そう。すなわち、この先の礼拝室から下のフロアへは進まない。このフロアを完全にセーフティーにしてから何処かをノアズアークで武装する。そして下のフロアをセーフティーにしたら前線を押し上げる。それがノアズアークという枷を持った、僕らの最善手になる。」


「アイツ枷って言った?」


 リザの手の中でエルノアが不満げな顔をしてみせた。


「そういう側面もあるだろ、プライド激高子猫ちゃ~ん。」


 ノアズアークの技術の片割れを支えるリザは笑って受け流す。


「実際さぁ、ノアズアークは上下の移動に弱いだろ。それをカバーするプーカがダウンして、斜塔ダンジョンで弱体化した今、これがキャラバンシーキングの限界値だ。むしろ大きな亀裂や段差でも有ればフォームシーカーを戻す"帰り道"が、それこそ本当に足枷になる。」


「――え、でもさぁ?」


「でもじゃないの。」


 負けん気の強いエルノアの口を包み、リザもそのまま口を閉じた。




 




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