④ギロチン 続き
テツはギロチンを持ち上げて何かを考える。
先程否定された見解。すなわちトラップが作動し、誰かの屍を以て改良されたものではないこと。ともすれば大規模な魔法が建物に施されたことになるのか。いや、それは少し無理があるだろう。
「この向きで落ちた。身体が落ちる……。逆なら?あるいは……、まぁいっか。」
そしてそのままもう一度ギロチンを床へ落とした。ギロチンはその切れ味は披露する様に、床へさっくりと刺さる。同時に閃くような声をミカルゲが漏らした。
「そ、そう言えば、ノスティアのこの地方でギロチンを使った処刑方法は聞いてこなかった。私が学んだ歴史では。」
「でも、そこにあるな。」
リザはプーカの背中を擦りながら立ち上がり、ギロチンを引き抜いて刃をなぞった。
「テツの言いたいことは分かった。このレベルのギロチンは相当な技術と試行錯誤がないと作れねぇ。そしていつだって、技術ってのは歴史と共に葬り去られる。そしてここはシーラだ。重力まで変わる魔法術式は、この紋様に対して流石に規模がデカすぎる。」
リザはギロチンを持ち上げて言った。
「遺物だって言いたいんだろ。」
「うん。」
リザはキャラバンから布を取り出し、困った様にそれを包んだ。
「勿体なかったかな?」
「確かに。」
テツは小悪魔のように笑ってみせた。それはこの期に及んで余裕の表れでもある。アルクだけは全くもって純粋に勿体無さそうな顔をしていたが、深刻な顔をしたリザはそれに何処か安心したような顔を見せながら続けた。
「そうじゃねぇよ、分かってる癖になぁ。」
「どういうこと?」
ミカルゲの言葉にアルクが返した。
「いやほら、遺物はお金になるんだ。特にオーパーツなんて些細なものでも何百万イェルすることだってあるし、一国の軍事力を――」
「知ってるけど。。。」
「違うアルク。危惧すべきことは敵がそれを扱ってる事だって話。一国の軍事力を変えるかもしれないその力を、理解して、罠として、利用している。今までは滅んだ文明だとか図らずして生まれたテクノロジーだとかが埋もれてるだけだったが、これから襲い来るのはそれらを"知りながら"駆使してくる生きた文明。もう、こっから先は、何が出てくるか分からない。」
つまりテツの真意は、ダンジョンの難易度が跳ね上がったことへの示唆。今まではそこにあった技術が、そこにあった時代のまま刃を向いてきた。しかしこれはギロチンの本来の使い方ではなく、恐らく当時の使い方でも無く。明らかにトラップとしてアップデートされているロストテクノロジーという推測が立つ。この際浮上する問題は、魔法制限領域下に置いても、魔法に等しいほどの暴力に晒される危険があること。そして、その予見と内容の予測が圧倒的に難しい事。
「――って、てことは、いっ、今みたいなのがいつ起きてもおかしくないって事?!シーラなのに?!」
より、人工的で文明的なシーラ。その難しさが露見した。
「プーカ、まだ行けるか?」
俺の問いかけに、プーカは包帯を巻いた肩から下の腕をダランと垂らしたままニヤリと笑う。
「へっへっ旦那、もう力が入りませんで!!」
嘘か真か、持ちたくないだけか、まぁ持ちたくないことが大きいだろうが、怪我を負っている事実も変わりはしない。
「はぁ、お大事に。」
俺が目配せをし、エルノアが理解したようにキャラバンへ近付いた。
「ノアズアーク・フォームシーカー。」
「いやったー!!アイタタタ・・・」
キャラバンはカタカタと音を鳴らし、姿を変えていく。プーカは上がらない肩を上げて喜び、俺はそれを横目に現状を整理した。
「はぁ、臨時会議。じゃあまず悪いニュース、プーカ負傷につきこれからポケットは使えない。トラップも得体の知れないものばかりになって少々怖い。良いニュース、飛ばした鉄球のお陰で大扉の向こうが外から見れる。設置型が多い以上この事態は幸運。礼拝室のトラップの一部が壊れたとみて差し支えないはずだ。さぁ、どうする。」
「――あの。」
俺は助け舟を求める様にテツへ目配せしたが、思いも寄らぬ人物が挙手をした。
「私、遺物...知ってる、かも。」
テツは開きかけた口元をキッチリ閉じて、それから少しばかりその口角を上げたようにも見えた。