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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第31譚{魔術廃校のシーラ B2編}
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③ギロチン


「いつも落とす側だった。……こんな、気持ちなんだね。」


「怖かった?」


 テツは微笑みながら、大型のリボルバーを納めた。



―――――

{ダンジョンテヌーガB2・礼拝室前}


 壁の斜面は正常に戻った。紋様の光をその眼に取り込んだ者だけに発動する魔術陣の罠。テツはギロチンの腹部に描かれたそれを、ミカルゲを手放し脚の間で挟む暇に撃ち抜いて見せた。


「言ってくれればよかったのに。」


「時間無かったからね。」


 テツは珍しく悪戯っぽい笑いをした。


「酷い。」


 ミカルゲは拗ねた様な声を出すが、テツはいつものように読み取れない表情でミカルゲの肩に手を当てた。


「でも、ドキドキしたでしょ?」


「怖かったから。」


「そうだね。でも、ミカルゲは僕らが新しい部屋を見つけた時、ずっと不安そうな顔をしてた。」


「それは...」


「――楽しまなきゃね。」


 テツは真っ直ぐにミカルゲを見つめて、淡々とそう言った。誰よりも、危険を知っている彼女が。


「僕は最初、生きる為にダンジョンに潜ってたんだ。食べ物を探すため、売物を探すため、その為の道具を探す為。生きる為だけに冒険をしてた。でも今は違う。仲間が出来て、自らダンジョンに潜ってる。選んで危険を冒している。……君は、僕に似てると思ったんだ。でも今の君は、昔の僕だ。」


「テツ...」


 大扉を打ち破り、鉄球は十字架が在ったであろう木製の何かと周囲の台座、そして奥のステンドガラスを破って外界へ突き抜けていた。


「凄い威力だったんだね。」


 アルクは唖然としていた。眼を瞑った組には、ほぼ状況が理解出来ていなかったのだろう。その危険より鮮明に理解出来ていたのは斜面で自由の効かなくなった俺達だけ。しかし目を瞑ったままでも、何もしなければ、結末は同じ「死」であったろう。


「あぁ、ほぼ自由落下。よく接触時のインパクトを受け止めたよ。アレが無ければ―――」


 俺は功労者を称える為に振り返る。しかし、プーカはキャラバンを置き、リザがプーカの服を剥がしていた。その両肩にはフォームポケットのショルダーハーネスを模る様に、クッキリと真紫の痣が出来ていた。


「プーカッ!!」


 アルクはすかさず駆け寄り、傷を一瞥してから焦った様子でキャラバンへ腕を突っ込んだ。


「エルノア」


「――分かってる。」


 俺の声掛けを待つまでも無く、エルノアは持ち物を操る。


「ありがとうエルノア。」


 アルクが礼を述べ取り出したのは医療箱である。応急処置セットを持ったアルク、付き添うリザ、ミカルゲ、エルノアはプーカの方へ視線をやっている。心配なのは分かっている。しかし対照的にテツは両手にライフルを構え、俺の背中方向を注視していた。自然と俺はテツの背中方向に目をやりながら、プーカに近づく。死角を無くす為だ、例え誰かが死んだとしても警戒する役回りは誰かがやらなくてはいけない。ここがダンジョンである以上。


「大丈夫か。」


 プーカは薬草を嫌そうに塗られながら、肩から先の力ない腕を垂らして言った。


「いちち......ッ、なにかあったん?」


「よくやったよお前。デッカイ鉄球にフォームポケットをぶつけたんだ。エルノアもよくやった。よく瞬時にタイタンを出した。」


「テッキュウ・・・?」


「直径3mくらい。」


 テツはスコープで礼拝室の先を覗きながら目測を話す。しかし懐疑的なのは目を開けていたはずのエルノアだ。


「――プーカがそれくらいで怪我するか。」


「おいおいおい、お前も見てただろデッカイのをさ――」


「確かにそうだね。」


 テツはスコープから目を離してそう言った。


「あの鉄球自体にも何かあったと見るべきだと思う。根拠としてはナナシの後ろの部屋の損傷と、ボクの後ろの壁の損傷の相違。」


 テツは自身の背中側へ向けて、指を立てた。それは先程まで猛吹雪の荒れる断崖を覗かせていた館の壁。廊下の行き止まり。


「アトモスフィア。」


 そう唱えると、テツのライフルが空気を圧縮して取り込むようにカタカタと震えて音を立てた。テツはスコープを覗かず、腰撃ちのままに壁へ向けて出力を上げたそれを放出した。


――ダァンッ!!


 巨大な銃声がピリピリと空気を揺らす。そして3秒ほどの暇であろうか、壁は霧を吹き飛ばす様に消え、断崖の絶景と共に外界の冷風が俺達の身体へ吹き付けた。


「くっ、寒ぃなおい。」


 リザは赤髪を揺らしながらそれを眺める。


「そういや、お前らが何かパニックってた時もずっと寒かったな。」


「つまり偽物。この壁はあの鉄球が壊せる3mの直径で損傷してる。一方奥の教会みたいな部屋、そっちの壁は鉄球が見当たらないのにも関わらず損傷が1mほど。」


 俺は振り返り、奥の部屋を眺めた。遠近感はあるが確かに先程の巨大鉄球が抜けるには、ステンドグラスの穴は小さいようにも見える。


「トラップは一度作動し、改良された可能性が有るってことか?」


「違うだろうね。」


 テツは俺の迷推理を速攻で否定し、穴の開いたギロチンを両手で持ち上げた。その真意を内に秘めて。




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