表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第30譚{魔術廃校のシーラ}
229/307

①法廷


――まるで夢の中にいるみたいだった。


「そうなんだ。でも、単純な善って言うのは不完全なんだよ。世界はもっと複雑なんだろう。それに、小悪魔系ってモテるんだってさ。」


「左様ですか……。」


「うん。」


 そいつとの時間は、いつも気まずい。


「例えば怠惰な時だって必要だろうね、人間は機械じゃない。嫉妬だって必要。傲慢や強欲は成長や進化に欠かせない。時にそれが勤勉へ変わる。暴食は悪で節制が善、しかしそんなの時と場合。栄養を過度に必要とする時だってある。それに飲んで食べてみんなと笑う、あの一時が悪だなんてあんまりでしょ。それに色欲の為に暴食を棄てることもある。不純で淫靡な魅了が為に。しかし色欲は繁栄をもたらす。その衝動が悪ならば、私たちは悪魔の末裔だ。」


 饒舌。


「この世界は何が正しい。君の生き方の正解は何だ。」


「正解?――」


 黒髪ロングは髪を結ぶ。二つのおさげが風に揺れる。凍えるほどに深くて暗い瞳、魅惑的に微笑む口元。計算高い身振り手振りのあざとい一挙手一投足。しかし掴もうと思えば消え去る霧のような深層心理。


「うん。」


そしていつだって蛇の様に優しく這いより、最後には絞め殺すような狡猾で傲慢な要求をする。


「きっとそれは、幸せになることなんだよ。淫らに怠惰に強欲に、求めたものが何でも手に入ること。だから君は私が幸せになる為に糧となるんだ。代わりに私も君にとっての幸せをあげる。私の幸せは君の幸せだから、君の幸せは私が決める。君の苦痛は私の幸せになる。私の幸せは君の幸せになる。返事はワン。姿勢はお座り、歩法は四足。」


「……ワン?」


「そう。」


「なんで?」


 一抹の反抗心。


「猫は嫌い。泥棒なの。それに、にゃんって聞くのはもう飽きちゃったから。」


 つまらなそうに彼女はそう返してから、あざとく笑って振舞う。


「あれ、もしかして恥ずかしい?いやだった?まさかね。君はそんなこと思わない。想えない。だって、でもだって。もうだって。もうどうだって。ぜんぶ、ぜんぶ、どうでもいい。どうでもいいでしょ。君は私の下僕になるから。君は私のものになるの。私と共に私の為に、すべてを棄てる。その権利すらも。」


「すべてを?」


 茫然自失。


「ほら。」


 そんなこの身体に、得体の知れない彼女は両手を差し伸べる。


「え?」


「ほら、おいで。」


・・・・


(「大犯罪」)


(「粛清ヲ――」)


(「世界樹二仇ナスモノ。」)


(「大、罪人……。」)


(「ヤハリ、反逆者。」)


(「弁解ノ余地ナシ」)


(「――アラズ」)


(「死刑、死刑、死刑、死刑、死刑――」)


(「シケイ!シケイ!シケイ!シケイ!シケイ!」)



 漆黒のヴェールが揺れる。裾は七分丈にひらりと舞っている。


「ほら?」


 いつだって、後悔は無い。


「――ワン。」


 黒い布地が顔を覆った。今日は藤の匂いがした。


『うん。(でも)わたしやっぱり――』


 けれど若干。


『君が好...(犬は、臭いから嫌い。』


 マタタビ臭い。


・・・・


(「読メ、読メ。」)


(「ハヤク...ハヤク...」)

 

 石仮面の裁判官が紙の巻物を読み上げる。


『主文、被告人ヲ死刑二処スル、モノトスル。』


「異議なーし。」


 黒い服を着たエルノアが、俺を抱えながらそう言った。

 

「大アリだ、ばかやろう……。」


 記憶が戻る。


「素晴らしい一時を邪魔しやがって。けど確かに、アイツならそう言ったかも。」


「アレがよかったなら一生わんわん言ってろ。でも、今の相棒はボクだ。惚けるなよ偽物なんかに。」


(「意識モドル、、、」)


(「罪二アラズ」)


 法廷は両脇の二階に雛壇上の傍聴席を設けて、その全員が気色の悪い石仮面を付けている。裁判官らも同様だ。法務、魔法の秩序、探求の旋律、その系譜の社。


「当たり前だ。この選択に存在にその生き方に、罪なんて無い。彼女だってそう。あるとすればそうさせた世の中の狂い。何が善で何が悪かはいつだってカスみたいな主観。それを勝手にお前らが決めるなんて傲慢なんだよ。」


 そもそも冷酷と名高いノスティアの法廷ルールに縛られてやる義理は無い。


「それにセカイはもっと天邪鬼で陰気な奴だ、覚えとけ。」


「魔法じゃ象れない程にな。」


 エルノアが真っ黒な毛並みを立てる子猫に戻りながら、弁論台の上でそう言った。


(「罪ハ消エヌ...」)


 正面に立つ親玉みたいな裁判長が、霧のような去り際にそう言い放つ。


「うるせぇ!!」


 ――法廷で、騒いでやったぜ……。


 俺は残響の消えないうちに黒猫へ顔を向ける。


「エルノア、他のやつらは?」


「たぶん別室だ。しかし早かったな。」


 エルノアは肩に前足を乗せ、不思議そうに俺の顔を覗く。


「アイツが夢に出てくると、夢だって気付くんだ。昔から。」


「随分便利だな。」


「難儀だよ。」


 ダンジョン・テヌーガ、忌み嫌われし呪いと知識の吹き溜まり。その全貌が見えようとしていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ