表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第30譚{魔術廃校のシーラ}
228/307

無幻の魔女

第30譚{魔術廃校のシーラ}

「例えば、カルトについても調べているの。人は失えば失うほど教祖に依存していく。その行動も、食事も心象も身体すらも、差し出して痛くして縛り付けて、失えば失うほど奪われていく。失う程に好きになってしまう。依存は心を溶かしていく。」


「そう。」


「カルトの一部に変な格好をしている人がいるでしょ。社会的ではない言動や姿は社会や仲間という帰り道を断絶し、内輪の同調圧力や準ずる絆のようなものを深めていく。全てを差し出した人間の選択肢を潰すの。そして絶対的なものに身を委ねてしまう。判断能力を鈍らせ、ハマらせ、思考を放棄させ、心を溶かす。……君は、私に依存しているの。魂も魔力も名前も差し出して、もう何も残っていない。後戻りもできず、頼れるものも無い。朽ち果てた枯れ木のように何もない。空っぽの木偶の坊。君には私だけ。私を失くすことを恐れ、私の為に何でもする。私だけの傀儡。私は自由も力も栄誉も欲した全てを君から手に入れて、一方君は枯れ木のように全てを奪われた。」


 そいつは距離を詰め、囁く。


「魔女なんだよ。悪魔のように君から全てを騙し取り、絶対的な力を手に入れた魔女。君に残ったのは依存だけ。君は私に縛られ操られ、差し出して、依存した。君にはもう私しかいない。君は私の為に死ねる。私の為にその身を投げ出し、私の為に心を擦り減らし、私の為に死ねる。死ねるの。死んでくれる。……ねぇ、そうでしょ?君は私の為に死んでくれる。」


「そうだな。」


 その答えを聞いてそいつは更に距離を詰める。切なそうに、あるいはあざとく、胸元に頬と耳を当てて、心臓の音を確かめる様に。


 ウェスティリア魔術学院・西の星見丘陵。春の風に吹かれたその地で、長い黒髪が踊る様に靡く。


「なら言うね。」


 距離を取り、目線を上げたそいつの表情はいたって真剣で、鋭くて、


「君の為に死なないで。私の為に生きて。」


 とても凛々しかったのを覚えている。


 そしてその後、言葉に詰まった。


「君が私に献上した最後の奉納品。代わりに、私の短剣をあげる。君が望めばこれが君を守ってくれる。」


 彼女は鞘に収まったダガーを手に持つともう一度距離を詰めて、腰の辺りに手を伸ばし、ローブの中をまさぐる様に結ぶ。


「これはずっと私と付き添ってきた私の半身。いざという時はこれを抜くの。君はもう戦わなくていい。ずっと私に依存して、守られてればいい。言ったでしょ依存は心を溶かす――」


 そのまま彼女は背伸びをして、静かに呟いた。


「ずっとずっと私に利用されて。」


 花の匂いに抱き着かれ、小悪魔の戯言が耳元で囁かれる。この世に絶対が存在しないみたいに、重厚な扉を軽々しく開く子供のように世界が転機を迎える季節。導かれるように手を取られ絶望が芽吹き瑞々しい大輪が弾ける様に咲く。きっとそれは堪え切れない蕾から血の匂いを漂わせて。











{無幻の魔女}

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ