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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第29譚{魔導士の街}
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③その館の中で


「五名様ご来店~!!」


 魔導士の街の宿居酒屋。ギルド一体型ではなく宿泊施設としての情緒ある内装。夕暮れ時の到着は、若干の疲労感と、空腹と、それを打ち消す死臭に包まれていた。


「ナナシ。」


 エルノアが鼻を鳴らして俺を呼ぶ。


「あぁ、穏やかじゃないことが起きてる。」


 眉を顰めた俺の顔を伺うようにミカルゲが首を傾げた。


「どうしたの?」


「いいや、なんでもないよ。」


 関わらない方が良い。実際は関わることになる可能性が高くとも、関わらないスタンスを保っていた方が良い。俺たちは第三者だ。俺たちは第三者。


「ふーん。それなら良いんだけど。……あっ、こんにちはマリナさぁん!お客さん連れてきたよ~。」


 ミカルゲは回る様に番台へ近付くと、エプロン姿のふくよかな婦人に挨拶をした。


「あらぁーミカルゲちゃん。お荷物がいっぱい。収穫祭は楽しかった?」


「もちろん。」


「そう、それは良かった。今夜はシチューを出す予定だから、お部屋案内したら手伝ってもらえる?」


 婦人は俺と目を合わせて会釈をし、ミカルゲの肩を叩いた。


「はーい。お部屋の鍵を頂きまぁ~す、」


 一方、肩の猫は不機嫌そうな顔で爪を立てた。


「ナナシ、僕はこんな旅館に泊まる気は無いぞ。朝起きる頃には鼻が捥げてそうだ。」


 エルノアのボヤキを聞き流し、俺たちはツカツカとミカルゲの背中を追った。


「はぁい、お部屋は階段を上がって連絡通路を右、別館の207でございまーす!」


「ナナシ。」


「ナナー、なんか嫌な臭いするー。」


 うちのクランで鼻が利くのはエルノア、次点でプーカ、そして俺だ。そして俺でも分かるほどに異様な臭いの元が近付いてきている。


「ちょうどご要人のキャンセルが出てねー、お部屋一等だしさっき掃除されたばかりだから、きっとピカピカでお布団もふわっふわだよ~。」


 はしゃぐミカルゲの後ろで、プーカはテツの服へ顔を埋めた。


「どうしたの?」


「匂い嗅いでる。」


「うん。まぁ良いけど。」


「……。」


 そして辿り着いた部屋は正に、臭いの元出であった。


「さぁ~、入った入ったぁ!!」


 ミカルゲが鍵を回し、元気よく扉に手を掛ける。


「待った。」


 その動きを制止し、俺はミカルゲの手をドアノブから離させ、代わりに握った。


「そんなに良いお部屋なら、俺が開けてもいいかな?」


「えっ、はいはい、もちろん!!お楽しみは人それぞれ~。」


 ドアノブを握りゆっくりと力を込める。抵抗感は特に無い。


――ガチャリ。


 その部屋は風を吸い込み、代わりに強烈な死臭を吐き出す。


「ん、ちょっと臭いね。」


 ミカルゲはそそくさと部屋へ入ると鼻を鳴らした。


「スンスン。スンスン。……なんか、ごめんね。掃除はされてるはずなん、だけ、ど……。」


 部屋を開けて正面に見える大きな窓。その手前に置かれた壺を前にし、ミカルゲは顔を顰めた。


「なんですかねぇ、これ。」


 恐らくそれが臭いの正体。壺の上には壺蓋の穴へ通されたロープが置きダンスの上へ向かって垂れ下がっていた。


 ミカルゲはその蓋へと手を掛ける。


「ダメだ。」


 俺はその手を掴み、紋様の描かれた木蓋を覗いた。


「中に人が入ってる。」


「……え」


 無論その壺は置きタンスの上に載るほどで、おおよそ人が入れる程の大きさでは無かった。しかしリットル換算で60は入れられるほどの水瓶にも似たもので、すなわちこれは、


「猟奇殺人。」


 エルノアが、肩の上で呟いた。




 







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