①収穫祭の街の中
第29譚{魔導士の街}
暖色の灯りが格子状の窓から漏れる幻想的なレンガ街を進みながら、本格的なダンジョンへの調整を行う為に(という名目で)俺たちは久しく"おもてなしの有る"宿へと泊まる。つまりそれは野宿では無く、自炊でも無い。冷めやらぬ街の活気を零す窓々からはアコーディオンやピアノ、バグパイプを合わせた軽やかな音楽だとか、夕食のシチューやらバターの乗ったパイやらの芳醇な香りがこれでもかと漂っていた。絶え間ない笑い声や話し声、それらに水を差し混ざり合うように笑うのは、窓からお菓子をねだる箒乗りの魔法使いだ。帽子を抑えながら浮いている彼らの大半は子供のように見える。
「すごい活気だ。」
俺の隣で街を見渡すアルクが、共感したように頷いて話す。
「うん、すごいね。収穫祭だって聞いたけど、格式張って無くてとっても楽しそう。コレが毎月か……。」
「プーカ、この街住みてぇ。」
腹をボリボリ搔きながら、プーカも外の喧騒を眺めて言う。
「お前に農業は無理だよ。実る前に食い漁りそうだ。」
俺は微笑しながら少々の毒を吐き、プーカはそれを聞くとむくれた顔で俺を睨んだ。
「むー。んー?……あぁー、まぁー。確かに腹減ったー。飯isどこなん?」
今日は特段贅沢するわけでは無いが、謂わばチートデイみたいなもので、キャラバンの休肝日みたいなもので、つまりは探索前のメンテナンスをする為に外泊外食となる。美味しい料理が食べれそうだ。特にこの街は畜産業が栄えている。ミルクやバターの効いた特産品の料理が出てくることは想像に難くない。泊まるのはもちろん宿居酒屋型のクエストハウスである。俺たち冒険者には宿代や飯代に割引を課せられることがあるからだ。
「見えたぞ、誰かテツを起こせ。」
そういってハンドルを握るリザは小さなバックミラー越しに俺たちを見る。プーカはそれを聞き、荷台の後ろでまるまるテツを揺すった。そう、今やこの三畳にも満たない空間こそがキッチン兼寝室兼リビング兼運転席兼寝床なのである。しかしそんなキャラバンは確実に俺たちを乗せて繁華で鮮やかなレンガ街を越えていく。
「――トリートorトリックorマネー!!」
「はぁーい。」
俺は頬杖を付きながら、並走してきた絶賛フェスティバっている風体の魔女の少女に、袋の中のジャガイモを渡した。
そう、この街でさっき買ったやつ。
「ジャガイモは要らな~い、良く採れるもの。」
頬を膨らまし帽子を抑える少女は、キャラバンを覗き込んで言った。
「お兄さんたち冒険家?不思議な馬車ね。馬がいない。こんな珍しいもの盗賊に襲われたりしないの?」
「大丈夫さ。例え襲われても窓を閉めるから。」
俺はそう言って窓を閉めるジェスチャーをし、耳に手を当て聞こえないフリをする。少女はまた頬を膨らませ、しばらく腕をぶんぶんと振ってから、諦めたかのようにキャラバンの荷台へ降り立った。
「じゃあ、トリートorマネー!!」
俺はリンゴを投げ、少女はそれに魔法をかけながら受け止める。そして彼女は真っ黒なローブをはためかせながら、ジャガイモとリンゴをそれぞれに持った両手を広げ、笑顔で言った。
「ようこそ、魔法使いの街(ハーベスト)へ!!」
彼女の名前はミカルゲ、先日に予約で雇ったこの街のガイドである。どうやらリンゴとジャガイモ一つで俺たちを手引きしてくれるらしい。ありがたや、ありがたや。
「さぁ、マネーを頂こうか?」
「orって言ってただろうが……。」