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⑤獣人の国

 ヒューマニはプーカを見下ろし髭をなぞる。


「フランデ。貴殿が容体を言うてみよ。この正常な朕の家畜について、正常か否かを申してみよ。」


「んー。元気、元気!」


 プーカは間抜けな声でそう言った。その言葉にヒューマニは大変嬉しそうなにやけ面を見せた。


「ぷはははははは!!気に入ったぞフランデぇ!!」


 気に入って貰えたようで良かった。俺もプーカを気に入っている。その他の仲間もだ。このクランは全員が全員を思いやることが出来る素晴らしいクランだ。理性的に物事を考えられるし、何よりも一緒に居て心地が良い。だからこそ、俺はこのクランを守らなくてはいけない。それが護衛人としての俺のロール。限られた環境で、過酷な状況で、安全を極めることこそが冒険者の本文。


「フランデ。元気と言っても中身が壊れている可能性が有る。早計だぞ、身分をわきまえろ。」

 

 本当に早計だ。何もかも。この先クラリスさんに何かあったら、ミヤさんに、いや親交のある全ての人間に見せる顔が無い。だからもはや、全てが早計なのだ。


「いやはや国王、僭越ながら私もこの国を気に入っております。綺麗な景観、美味しい食べ物、歴史ある独自の文化、手厚い福祉、子供たちの笑顔。」


 そう、この国は本当に、良い国なのである。俺はそれを今日知った。


「ですか少々、邪魔者ペットが粗相をしているようだ。あなたの美しい国を飾り付けるのに、血塗られた汚れは必要ありません。腐った政治家、国家を転覆させようと目論む活動家、ピエロのプロパガンダ、捻じ曲がった思想の坩堝。この国の一部にはまるで、現実逃避という名の病が蔓延っているようです。私は医師の助手として、そのようなことは看過出来ません。……では、どうしたら良いのか?」


「……ほぉう。申せ。」


「はい、殴ってしまえば良いのです。壊れたかけたものは、斜め45度の角度で適度に殴れば大抵は治ります。私はそう教わってきました。……あぁ、しかし――」


 俺は倒れた少女の額を触り、熱を確認する。死ぬんじゃ無いかと思う程にそれは熱かった。


「しかし、壊れたものはもう治りません、女王陛下。貴女のペットも、少々粗相が過ぎたようで。」


 俺はそのまま立ち上がり、ヒューマニの左頬を拳で殴り、振り抜いた。


『―――ッ!!』


 ぶっ倒れ、ひしゃげたその顔を確認する。


「ク……カカァ………、ゲポ……」


「あら^^」


 胸ぐらを鷲掴みに、ヒットした頬は青紫に腫れあがっていき、前歯は二本ともよく折れ歯肉から血を垂らし、両目は綺麗に白目を向いていた。けっこう良いパンチじゃないか。


「あっはぁ、ダメです。この猿のペットはもう壊れているようだぁ~!!」


 そのままヒューマニの顔を地面へ叩き込み、首を絞めつける。


「て、……敵襲ッ!!!」


 言うが速いか、殴るが速いか、プーカとテツは近衛兵の2人を同時に沈め、武器を奪い倒れた兵隊の首へリザとアルクが武器を向ける。反撃を狙う兵士の動きを見て、俺は「動くな。」と一言発し、潰れたヒューマニの顔を見せた。


「あ、あんた達……。」


 プーカに抑えられていたボロ雑巾が、立ち上がり呆然とする。


「いやはや敵襲とは、とんだ不届き者がいるようですな、騎士長殿。」


 レガードは口をあんぐりと開けたまま、突っ立っていた。


「よもや誰かの幸福の下で、ゴミ溜めのような場所で生き、絶望の淵で泣いている人を看過するような人間は、この国には居ないと分かっていますが。……しがない旅人の私は一つ、貴方がたに問いたいのです。」


 俺は手のジェスチャーで、リザへ「逃げよう」と合図を出しながら言葉を紡いだ。


「かつて、大いなる偏見を跳ねのけ、人間との共存を可能とした素晴らしいこの国は。知性と優しさを兼ね備え、誇り高く思慮深く、栄光が有り偉大で聡いこの国は――」


 少女の首輪を引きちぎり、俺は逃げる為に立ち上がる。


「この国は一体、……誰の国なのでしょうか?」


 レガードはピクリと耳を動かし、スルリと大剣を引き抜いた。かつて彼らの祖先が折った牙と、丸みを帯びたその爪の代わりに。



―――――――――

{セリオン王国『城壁への道』}


 燃え上がる王宮を眺めながらキャラバンを走らせる。屋根も壁も無くなったこの動く荷車で、必死に頭を隠しながら俺たちは進む。しかしながら追手はどうやら、俺たちにかまけてる暇を失ったようであった。それどころか追手の一人が文字通り、城壁の上から反旗を翻す様を見せた。


「アレで良かったのか、ナナシ。」


 リザは澄ました顔で俺に聞いた。


「ちょっとちょっと、嫌だな。止めて下さいよ。僕はただ暴漢を殴っただけじゃないですか。」


「……それもそうだな。」


 向かい風が前髪を靡かせる。改造されたこのおんぼろキャラバンはさながらオープンカーだ。窓越しでは無くこの眼と肌で世界を感じられるこんな現状も、そう悪くは無い。


「あと、この二人もな。」


 俺は指をさす。


「記憶にござらん!!」

「覚えてないでござる。」


 ミラー越しにリザが口角を上げた。


「で、次は何処だ。」


 俺は世界のマタタビ大全3を広げ、その答えへ指をさす。


「ダンジョン・テヌーガ。魔術学院の廃校。そして魔法制限領域シーラだ。」


 シーラ。それは魔素の大幅な乱れから、魔法制限の強いられる超高難易度ダンジョン。観測の不便性と内部の流動性から開拓率、生還率共に大幅な減少を見せる正真正銘の危険地帯。これが探索士の存在理由。


「やっと、初陣だな。」


 リザは意気揚々と袖を捲りハンドルを叩いた。








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