④暴君
――バレれば万死、バレれば万死、バレれば万死、バレれば万……
「王の謁見であるッ!!」
開かれた扉の先からは、髭にカールのかかった黒髪の七三分けの人間が出てきた。鎖で繋がれた、獣人の少女を引きずりながら。
―――――――
{獣人の国『王宮・国王の間』}
スーツの執事が玉座の横で紙を読み上げる。
「この度はァ、セリオンの最盛期を築き上げておられるッ、ヒュゥうぅぅううマニッ王の大切なペットで有られるッ、第13代国王の娘ッ、ルリ=セリオンの発熱に伴い貴殿を呼んだ次第であるッ!!――王の有難きお言葉をよぉく聞けッ!!」
「んー。よろしく。」
茶番だ。てか声高ぇ。
「フランデぇ、街一の医師と聞くがぁ、この度は朕の大切なペットが熱を出してなッ――」
そう言ってヒューマニとやらは、横に倒れた獣人の少女を蹴り上げた。
「痛"い"ッ!!」
意識は有るのか、死んだようにボロボロだった、雑巾のようだ。横ではレガードの大剣の震える音がカタカタと聞こえた。
「汚れた。」
「はっ!!」
ヒューマニが少女を蹴り飛ばした右足の靴を、執事がキュっキュと音を鳴らしながら磨く。
「あぁ汚い、汚い。……さて、貴殿に診察を依頼したく呼び寄せたところじゃ、してぇ、主は朕の財政策に難癖を付けている輩とも聞き及んでおる。国家を転覆させようとしているともな。どうじゃ?」
これは踏み絵だろうか。何にせよ、向こうはクラリス=フランデについて良く知らないらしい。俺はプーカの方に手を掲げ、ヒューマニへ一礼をしてから言葉を……
「貴様ァァァァアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」
それを待たずしてルラがフードを取り、飛び上がった。馬鹿だ。俺たちは武器を没収されている。
「ほぉ、やはりか。」
国王は頷き、近衛兵たちは槍を構える。
「――プーカ。」
「んだ。」
小声で合図し、飛び上がったルラをプーカが抑えた。
「んがッ、あが……!!」
すかさずプーカはルラの口を抑え、俺が国王へ一礼する。
「国王陛下ッ、国家転覆など、とんッでもございません。ここに転がっているボロ雑巾について弁解させて頂くなら、たった今、フランデが取り押さえていますように、国王へのお贈り物に出来ればと連れてきた次第でございます。」
俺はルラを取り押さえているプーカを見せる様に話す。
「ほぉ、貴殿。名前は?」
「国王陛下、私の名前はナナシでございます。フランデが雑巾を取り押さえている間、助手である私が忠誠の証としまして、国王のペットを診察させて頂きたいと思います。」
「ふぅん。」
ヒューマニは少女の顔面を思いっきり蹴り上げると、獣人の近衛兵へ合図を出し、身体検査を始める。少女の鼻頭はひしゃげて、黒い血が出ていた。同時に凄いと感じたのである。人間とはここまで出来る生き物なのだ。感情を共有することが出来れば、全く逆のことも出来てしまう。あぁ、人間とは何て強かで多様なのだろうか。
「魔力検知、武器共に無しです。」
俺は驚きつつ国王のペッドへ近付いていく。後ろではルラが眼を血走らせて悶えていた。ダメだ。人間とは理性的で賢い生き物なのである。
「ちと待て。」
ヒューマニはプーカを見下ろしながら、そう言った。