①正門までの山道
第27譚{刀剣の国}
「本当に合ってるんだろうな?」
薄暗い山道をキャラバンは進んでいく、この整備されていない細道を進むのは、ダンジョンを進むのと同じくらいに危ういだろう。ノアズアーク・フォームシーカー。狭い場所の移動にも長けた形態で有るとは言えど、所詮は四輪車。進める道は限られ、その運転には神経が擦り減るはずだ。無論、昔に辿った最短距離の獣道も、今は通ることが出来ない。倒された竹藪の下を潜ることも、道を遮る巨石を飛び越えることも。……そして何より、壁が薄い。
「まぁ、道が有れば着くんだろう。障害物は壊してみせる。」
「仕事がしやすそうで何よりだ。」
リザが皮肉を言った。実に、ノアズアークの現状は"操縦席のある四輪のリヤカー"がいいところ。元の立派なキャラバンに戻すには、魔素の多いところや光のある所でキャラバンを育てなければならないらしい。黒猫型のカルシファーが言うには、ただの材料でリザが補強しただけのキャラバンでは、潜在能力を引き出せないという事だそうだ。
そして、来たる次の目的地はこの生い茂る木々の中。山々に囲まれた秘境の中に存在する。こういった道はドライバーを気の毒に思うが、傍から見れば、この異様なキャラバンでも別段苦労していないように見えるのだから凄い。
「何しに行くんだ。」
ひょいッと机の上に乗ったエルノアが、俺に問う。
「あぁ、お前には言って無かったな。新しい武器を買いに行くんだ。女帝の指輪で効果を上げても壊れてしまわないような、強い武器を買いに行く。」
「そんな金が有るんだな~。」
リザがちくりと言葉で刺す。
「頼むよリザ……、返す言葉は無いですけども。先行投資だと思ってさあ。」
「わぁーってるよ。冗談だっての。武器を持たない護衛が居ても、役に立たないからな。」
その言葉に、テツが補足をする。
「いつもだよ。」
「いつもじゃねぇよ……。…たまにだよ。」
しかし現状。ただの鈍らを振っているだけじゃ、外敵から身を守れないのも事実。かと言って、戦う度に武器を酷使したあげく粉々にし、散財するようなことが有っては本末転倒。いくら賊を引き剥がそうとも赤字なのである。
「そんな武器が有るのか。」
俺のうなじに登って来たエルノアが、前足で俺の頬を突き、そう聞いた。
「むうぅ……、まぁはな。単刀直入に言えば、刀だよ。単刀を直入して言ってしまえば、直入を単刀で言ってしまえば、直単を入刀してしまえば、あるいは……刀。」
「頭使って話せ。」
――たしかに。
「んで、目的地の名称は"サカイノ国"と呼ばれている。世界四大流派の内の一つにしてもっとも有名とされている"四神流"を生み出した国だ。ちょうど今、シンラっていう学院の知り合いが故郷に帰省してるんで都合が良いってわけ。その国の大きさは小規模でほぼ村みたいなもんだが、そこにいる最長老の婆さん含め、争いでも起きれば並みの国じゃ勝てない程には戦力がある。」
アルクは首を縦に、うんうんと頷くが、テツは首を横に傾げ頭の上にハテナを浮かべる。
「四神流って何?」
御存じ無い……。まぁそう言うと思ったぜ。
俺は上体を起こし、思いっきり背筋を伸ばして人差し指を立てる。反動でエルノアが「ニャアッ」と声を漏らして吹っ飛んだが、お構いなしだ。
「説明しよう。四神流とは{万能の朱雀}{技量の青龍}{堅牢の玄武}{猛攻の白虎}から成る4つの戦型及び、奥義の総称であるッ!!ちなみに、俺が魔術学校で体得しようと選んだのは"玄武の戦型"。もっとも守りに注力し、戦闘時に力量差が表れやすいと言われているのがこの型だ。つまりは安定感が有る。」
「動きが小さいから、老人型とも揶揄されてるよね。」
アルクが口を挟んでくる。
「……黙らっしゃい。まぁ否定はしませんが、年寄りでも使える戦型を問われれば、真っ先にコレが上がるだろうな。そして、世界四大流派って言うのは、免許皆伝の後に{絶剣}極めれば{剣聖}としての称号を手に入れられる、公に認められた実戦的な流派のことを指す。」
テツはそそくさとメモメモしながら、更に聞く。
「強いの?」
「強いね。確かに強い。特にこの四神流が強いと言われている理由としては、使う戦型のどれもが、個々人との相性が分かり易い点にある。素早い連撃を長所としているならば白虎。テクニカルな魔法を有するなら青龍、一撃の重さを高めたければ玄武。戦型が基本に忠実で、余計な癖が付きにくい朱雀。だとか、どんな魔導士でも潜在的な戦闘能力を引き出しやすく、何よりも信頼が有る。」
「信頼?」
「あぁ。かつてこの世界に"帝国"が有った時代。不落の絶対都市アイギスが陥落し、混沌と動乱が大陸を包んでいた時代。そんな血で血を洗う戦いの時代に最強と謳われていた騎士が、四神流を扱う無魔だった。名はセイラ・フリューゲル。アイギスの守護者。」
杜撰な地図を眺め、サカイノ国の正門を指で差しながら俺は言った。
「おっ、見えたぞ。」
運転席では、リザがそう呟いた。眼前には瓦や木材で建てられた、無数の家屋が広がっていた。正門に立つ守り人は青の和装と鮮やかな羽織をなびかせ、そっと刀を握り、ゆっくりと構え始めていた。
「ここが……侍の居る国……。」
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{刀剣の国}