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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第26譚{斜塔のダンジョン 神層}
209/307

ex.斜塔ダンジョンの館


{斜塔地下街一層}

挿絵(By みてみん)



{中心街の外れの丘上・ラインズの館}

 ・

 ・

 ・

 ・

「はいはい、みんなの帰還を祝してぇ~またまたまたまた乾杯!!」


「またまた~」


「何度目ですか~、メセナさぁん!!!」


 包帯を巻いたメセナが顔を赤くしながら何度も音頭を取る。ラインズとフリーダムとユーヴの宴会。多くの死者を見た遠征であろうとも、心の折れる旅路で有っても。ダンジョンで制限されていた全てを補給するように、酒池肉林を胃袋に流し込む。


「ナナシ、アルク。いつぶりかな?」


 アムスタは元気よく口に飯を運びながらそう聞いた。


「さぁね。新しい相棒は来てないらしいな、アムスタ。」


「重症だったからね。」


「…お前もだろ。」


 アムスタは元気そうに両手に持ったスープを口に運んだ。


「僕はさほら、主席だから、しゅ、せ、き。」


「へぇへぇ。途中経過はな。」


「うんまぁ。それと、メセナのお陰さ。アルデンハイド家という僕のルーツ、似たような探索術を持つマスターシーカーの存在。力量を計り続けられる深淵の迷宮。この街の全てが僕にとっては都合の良いものだった。」


 アムスタはメセナを一瞥して、そう言った。


「女の子なの…?」


「女だよー!!」


 テツの質問にアムスタは笑顔で手を振る。


「テツちゃん。魔法とはさ、想像で創造する力なんだ。つまり明瞭な想像をさせないことで対象にとっての複雑さを増やす。相手にとっての自分の人物像を不明瞭にすることで、付随する特殊魔法の性質も不明瞭に出来るんだ。……リアルとアンリアルをぼかすのが魔法の真髄。人読みを防ぐ術をそのまま発動条件にし強力な幻術を見せるのが僕の魔法の根幹。そして、こういうことは女の方がやりやすい。アルクなら逆も出来るかもだけどね。」


「ははは、……え?」


「でも、まさかミヤさんがラインズだったとはね。」


 メセナとソフィアは包帯を巻きながらもバカ騒ぎを始める。それを盛り上げる様にフリーダムの幹部が野次を飛ばす。そんな光景を横目に見ながら、俺は骨付き肉を咀嚼して、隣のふわふわな獣人に目を移す。


「元ですよ。番台嬢でも実践派なのは、フランデの血筋なんですかね~?こと斜塔ここに関してはよく潜っていましたぁ。でも君には及びませんよ。まさか36層の先に行くとは。」


 ミヤさんは俺に視線を移した。


「ミヤさん。それは……」


「分かっていますよ。情報は何よりの財産です。アルデンハイドのお姫様が、あの小さなお口を割らなければですけどねー♪」


 ミヤさんは水のように酒を呑みながら話す。


「それにキャラバンの外に出た訳じゃない。内側から映像のような世界を眺めていたんだ。あんなのは攻略のうちに入らない。」


「―――フガッ、ム、、ムガッ、うめぇええええええ!!!!」


 俺は碧髪の天パを嬉しそうに躍動させるプーカを指差し、続ける。


「あいつは別ですけどね。」


「細かいことは良いんですよ。生きて帰ってきてくれれば。……本当にありがとうございました。ユーヴサテラのみなさん。」


 ミヤさんは俺たちを見渡す。感謝されるのは悪い気がしないが、赤髪を悲しそうに垂れ下げ、唯一酒臭さいリザだけがずっと頭を抱えていた。


「でも壊れちゃった。ううう。」


――ちょっと、かわいい。


「なんだおまえ、泣き上戸ですか?」


「おいナナシぃ、誰のせいだぁああああ?」


「猫です。」


「しゅみません。…っておい、だれの指示だ。」


 ノアズアーク、自動操舵。淡い希望を抱きながら待ち望み、最終的に第25層『シャングリラ』まで辿り着けた箱舟は終盤のハウルの動く城みたいな崩壊度合いで、畳二枚分の襤褸切れみたいなスペースを三つの木輪がコロコロ押しながら、あらゆるものが剥き出しのまま姿を現した。


「まぁまぁ、最善だったよ絶対に。命が助かれば採算なんて度外視さ。」


 アルクは満面の笑みで酒を口に含み、心底苦そうな顔をした。


「うっ…、今日は、楽しむのが一番だよ。失ったものより得たものだ。」


「何を得たのかは曖昧だけどな。」


「ううう、君が生きてるだけで、僕はっ…!!ううっお金ッ!!!」


――酒は本性を現す。


「ただ、このダンジョンのあの地に降りてから、一つの大きな仮説が立ったんだ。それは多分、大きな存在によって秘匿されてきたんじゃないかなと俺は考えている。」


「どういうこと?」


 テツが興味を示す。


「つまりは、人を呼びながら、金を動かしながら、このダンジョン街の繁栄を推し進めてきた裏の理由の仮説。」


 俺はとある童話を机に広げた。


「ん、あはぁ、エルダのダンジョンじゃなぇかナナシ!!……ヒック。」


 ソフィアラインズは出会った最初の日のように、この街での冒険が始まったあの日のように、顔を真っ赤にして俺に声を掛ける。今度はメセナの肩を取りながら。俺達五人を前にして。


「あぁ。実は、このふざけた文章に覚えが有るんだ。そしてウチの黒猫は、得体の知れないあの場所に既視感を感じていた。そしてエルゾーンを巡った『黄金律』のフランデも、この街にルーツを残している。ならば途方も無いこの仮説も、きっと現実味を帯びてくる。」


 俺は童話を閉じて、表題をツーっと指でなぞる。それは新たな冒険の幕を裂くように。




――――――――――――


{斜塔地下街第一層・???}


――ハァ。


 白い息が、揺蕩う様に宙を舞う。


「来てやったわ。」


・・・


「……っ」


 寒空の元に明かりが灯る。俺達には力がいる。


「乗ってやるわよ。その泥船に。」


 苦い顔をした少女は、可愛げもなくそう言った。


 きっと俺たちは、もう二度と"斜塔ダンジョン"に潜ることは無いのだろう。そしてその時が訪れる日には、……もう二度と、失わない。







{四冊目相当・斜塔ダンジョン編(完)}


斜塔ダンジョン最大の秘密、みなさんはお分かりになりましたか?

本譚以降、ノアズアークのチートじみた能力は失われ、ナナシたちは襲い来る死地を前に、より"探索士らしい"戦略性と危険性リスクのある選択を求められることになるはず。ある意味ここからが本番となります、大変ですね。……まぁ結局、彼らはぷらぷらと旅ばかりするのでしょう(笑)。


さて、四冊目相当はここにて閉幕です。。。読了に感謝。



宜しければ、下の星より評価のほどをお願い致します。

☆☆☆☆"☆"           


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