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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第26譚{斜塔のダンジョン 神層}
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⑤デッドorライフ


 プーカの匂いを追ってキャラバンに走らせる。正式名称フォームシーカー・ノアズアークバステ。条件は操舵主(=支配者)がエルノアであること+α。幸いにも、このダンジョンは開けた場所が多くて通り易かった。問題は帰りだ。


「まさか来るとはな。……それに、ネオ=アルデンハイドまで。」


「連れてこられたのよ。」


 ネオはキャラバンの椅子に踏ん反り返って頬を膨らませた。


「交渉材料だ。ソフィアの毒の話を耳に入れてから、クニシャラの群生地は渡れないと悟った。だからネオを人質に25層のゴンドラを拝借する。」


「……そこまで帰れたら訳無いさ。」


 ソフィアは俯いて嘆くように言った。


「そうだな。」


 俺も深いため息を吐いて答える。


「だから、このキャラバンを犠牲にして帰る。このキャラバンとは今日でお別れだ。」


「え……?」


 俺は擦り寄って来る黒猫を撫でながら、ソフィアと目を合わせる。


「最弱と名高い魔法。転移魔法種、扉魔法ゲート。しかし、このキャラバンの絶対的不可侵性を最も有用できる魔法がそれだった。ラインズの至宝が使用者によって力を変えた様に、この古代遺物キャラバンも使用者によって最強の潜具になり得る。その最たる力がゲートとの併用。つまり、どんなダンジョンに居ようとも生還できる訳だ。」


『――っ?!』


 そう、このキャラバンは超高難易度ダンジョン攻略に置いて全ての前提を変え得る力を持つ。余りにも強大なもの。


「ただ、そんな長距離間をあらゆる弊害を無視して移動する高等魔法はサテラ位にしか使えない。」


「じゃあ帰れないじゃないのよッ!!」


――黙ってろ人質。


「違う。つまり短距離なら行けるってことだクソガキ。」


「誰がクソガキ――」


「俺たちは、その為にキャラバンを捨てながらここまで来た。」


 ネオの言葉を遮って、俺は続ける。


「魔法が接続できるほどの隔絶された空間を持つ四角い箱を、進みながらホイホイ捨てる。ヘンゼルとグレーテルが食料でそうしたように、俺たちはキャラバンの身を削ってここまで来た。キャラバンの損傷が激しいのはその為でもある。それがゲート同士を繋ぐ最後の命綱ライフライン。すなわち俺たちは、ノアズアークを捨てて生還する。」


 ノアズアークはここで死に、俺たちは代わりに生き残る。


 エルノアの魔力量を鑑みても、魔法を外界に発露させない圧縮ファイルみたいな俺をカウントした上で、四人と一匹が転送の限界値。つまりそれは、たった一つしか残されていない究極の選択。


「こんな神々の遺物を……私なんかの為に、」


 それでも。


「こんなのゴミだよ。」


――ガブッ、とエルノアが俺の腕を噛んだ。


「いッ――!!。…お、俺たちの命に比べたらな。この身体に比べれば安いもんだってこと。そうだろ、ソフィア。まだ見てみたいものとか知らない事とかが、この世界にはある。このダンジョンの先にあるものとか、見ず知らずの遺物とか、アルデンハイドは何故あくどいのかとか――」


「はぁあ?!」


 ネオが腕を組みながら眉をひそめる。


「プーカは何でソフィアへ付いて行けたのかとか。」


 プーカはソフィアに包帯を巻きながら笑う。


「――余裕だったンゴねぇ…」


「あとは、何故この黒猫は喋れるのかとか――」


「賢いからな。」


 エルノアは髭をピンと立て、ドヤ顔で背筋を張った。


「かわ・・・」


 横では人質が目を光らせる。


「知らないことが沢山有る。まだまだ死ねない理由が俺達にはある。……帰ろうソフィア、マスターシーカー。俺たちが死ぬのはこんな浅い所じゃない。人はいずれ死ぬけれど、旅はいずれ終わるけれど、それは絶対今日じゃない。こんな所じゃないんだ。」


 黒い靄に世界が濡れる。


 一人、


 また一人、


 そして一人


 ・・・


 一人と、一匹。


「悪いね、エルノア君。」


 俺はネオ=アルデンハイドへ渡す為の手記を書き終えて、その下の机を撫でる。これも恐らく、一緒に帰れはしないだろう。


「まったくだ。こんな所で他人助けの為に……。理解し難いね。」


「……どうした。」


 エルノアが窓の外を見つめる。


「少しだけ、外に出ても良いか?」


「ダメ。みんなが心配するだろ。俺も不安だ、外に罠が無いかどうか、お前の魔力が切れないかどうか。」


 エルノアは小悪魔の様にニヤけて言った。


「あぁ、うっかり残しそびれるかもな。その時は先に上層で待つとするか。」


「おい。」


 俺がエルノアの頭を撫でると、彼女は魔法を操り人の身体へと姿を変え、俺の手を払いのける。


「ナナシ。僕は、ここに、……来たことがある気がする。ノスタルジックな気持ち、もしくはデジャブのような感覚。あるいはここは、そういう場所――」


「ノア。」


 脳裏に過るのは、傲慢な探求欲。分かっていても進みたくなる。このドアの先に行けば、キャラバンの外に出れば、そして歩みを進めれば、きっと一つの何かが満たせる。たった一歩でも踏み出せば、比肩することすら許されない英傑たちを何歩も越せる。英雄願望、自己満足、達成感、絶対的スリルとその快感。けれど、それ以上は、それ以上は死線デッドラインだ。高鳴る鼓動を抑える様に、俺は薄ら笑いを浮かべる。


「帰ろう。」


「あぁそうか。ナナシ、君は――。……いや、そうだな。」


 俺はエルノアの手を取って、床へと視線を移す。決して離さないように、その次の一歩を踏み違えないように。黒い靄が世界を包む。







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