㊸血まみれ
「理由を述べよ。」
……理由か。それは割と明確だ。戦う理由は明確で無ければならない。何故なら迷うから。そして、死んだ時に後悔するからだ。自分だろうと、相手だろうと。しかし、まずは奴に言いたいことが有る。
「おい、勘違いするなよ。」
そもそも考え方が、合わないのだ。
「部下の犠牲で得たものは、功績でもなんでもねえ。最善を尽くせなかったあんたの失態だ。俺はアンタが捨て駒として扱ったアムスタ=シュペルダムの祖母、シラバ=アルデンハイドからクエストを受けてここに居る。」
オーガスタスは、しょぼくれた目を少しだけ見開き、丸くする。
「シラバ……。」
あの夜、シラバは俺たちにクエストを依頼し、その時オーガスタスの実の姉だと聞いた。つまりアムスタとアルデンハイド一族は血縁。
「てめぇらが苦戦を強いられ、関門と据え置いたクイーンハーピーだってそうだ。彼女らはお前らが残した強欲に凌辱されたハーピーから生まれた。すなわち、強大な魔力を有し、人間並みの知能を有するハーピーは全て、お前らが犯した罪の、その子孫……。そして俺はただ、友人を守るために、更にシラバから出る報奨金の為にここに居る。」
そう。理由なんて明確なのだ。俺以前に、アルデンハイドにとって。
「理由なんて自分で考えろ。お前らが何を得て、誰の逆鱗に触れたのか。――オーガスタス。これは全て、あんたらを否定する為の因果だよ。開拓に囚われ文明や尊厳を踏みにじり、強欲のままに侵略した所業の因果。強引な策略が呼んだリターン。だから俺はここに居て、お前らはそこに居る。」
「……ナナシ。」
アルクが俺たちを呼ぶ。
「オーガスタス。あんたは幸運だった。俺は大口を叩けるほど強くは無いが、俺の仲間が死んでいたら、俺はアルデンハイドを、アンタを殺していたよ。」
少し脅してみるが、オーガスタスは貫禄のままに動じない。
「……ナナシ、行こうッ。」
「そうではない。」
ぬるりと頭を揺さぶられるような低い声が、俺の動きを制止させる。
「その紛い物が怒りの、理由を答えろと言った。」
我儘なご老人だ。俺が怒り狂ったフリをしていると言いたいらしい。ただ偽物かと問われれば大正解である。俺は身も知らぬモンスター一族が虐殺されようと良かった。彼女ら(ハーピー)の過去を知らないからだ。或いは俺は悪に加担したのかも知れない。そうとすらも思った。だからこの怒りは偽物だ。内心は本当の正しさの所在に迷い、苦しみ、もがき喘いでいる。困惑していたのだ。だからこそ、自分のやり方を貫くしかなかった。
「演技だよ。演じて騙し、魔法は強くなる。……不殺は強者の特権だからな。俺には最強の真似は出来ない。道化になる、ことぐらいでしか。」
「不殺……?!」
「ナナシッ。」
驚いたグスタフの顔を横目に、動き出したキャラバンから手を伸ばすアルクへ摑まった。目指すは地上だ。アムスタとケニーを連れて、一旦は医療設備の整った場所、斜塔街へ戻らなければならない。
「――それと!!御宅の娘を人質に取るッ!!この意味をハッキリと理解しておけッ!!俺たちは、先へ進むッ!!!!!!」
グスタフは去りゆく俺たちへ手を伸ばす。
「ネオ!!」
驚いた。後ろのオーガスタスも髪の毛を逆立てている。愛する孫娘ならば戦線に立たせるな、バカめ。俺は開けた窓をピシャリと閉め、屋上へ。運転席をドンドンと叩き、ワイヤーのロックを外してハーケンガンを身体に巻き付け、ヘタレこむネオの元へ飛び込み捕まえる。
「ぽわぽわ~。飛んでいるみたいね、えへへへへ。」
惨いことをした。
「飛んでるんだよッ。」
巻き戻るワイヤーを掴み、ピンと張った反動で身体を浮かせ、ネオをテツの元へ放り投げる。俺は未だキャラバンへ戻らず、盾の上で引きずられながらキャプチャーすべきもう一人を探す。
「いたッ。」
俺は盾の正面へ彼女を捉え、何とか届くように手を広げる。
「メセナッ!!!」
何故か血まみれのメセナは、腹を抑えながら、必死にその手を伸ばして答えた。
『おいっ、……おいおいおいおいおいおおいっ!!!』