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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第25譚{斜塔のダンジョン 戦層}
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㊶最強炎魔法とユーヴサテラ探索隊+αの策略


「こんな爆発が奥の手だなんて、聞いて呆れる話はしてくれるなよ?」


 依然ネオは魔力を集め続け、表面上は戦況になんら変化は見られない。だが、変化を強いられていることに気付かないアルデンハイドではないだろう。


「空中部隊の翼が燃えただけで、正直なところ万々歳だ。それに外傷ダメージだけが全てじゃねぇだろ。現に、御宅の大統括は今しがた領域陣を解くはずさ。」


 アイザックはフフッと鼻で笑う。


「分かっているさ。酸素量の減少、一酸化炭素濃度の上昇、君は確かに魂炎陣の弱点を的確に突いてきた。しかしだね。僕らが陣を解いただけで、君がいきなり強くなるなんてことは有り得ないだろ?」


「そうだな。」


 領域陣はネオの魔法が溜まり切るまで展開され続けるだろう。それまでに、相手の体力を消費させ煙に侵された領域内の空気を出来る限り吸わせる。これは途轍もなく長い、短期戦の始まりなのである。


「じゃあ、行くぞ。」


 俺は領域内に煙玉を投げ込み、深く息を吸って領域内へ決戦の一歩を踏み出す。視界不良で連携力は粗方削いだ。粉と同時に落下させた武器庫のコレクションは勿体無いが投擲に使う、姿勢は低く一カ所に留まらず、ひたすらに走って攻撃を繰り返す。戦闘のイメージは出来ていた。


「フンッ!!!」


 しかし、想定とはいつだって、想定でしかない。巨漢の男は巨大な盾で空間を薙ぎ、滞留する煙を吹き飛ばして視界を晴らす。俺はすかさず進路を変え、煙の寄った魂炎陣の右横腹から、中央部のネオを狙い駆け進む。


「左翼行ったぞッ!!!」


 ――タッタッタッ、と足音ですら限りなく消しながら低姿勢で走る。しかしその報告に呼応するように、数多の眼がギョロリとこちらへ向いて身体を追って来た。


「ラス1……。」


 すかさず最後の煙玉を地面へ当て、体制を低くし左翼の敵へ近付く。


――ロッド無し、軽装、両手槍から前衛装備。


 こういった物理攻撃主体の奴は不用意に近付きやすい。ビックリするような、カウンター魔法を持たないケースが多いからだ。俺は前衛の一人の背中に回り込み煙の中から中央へ向かって投げる。


「上かッ?!」


「飛んだぞ、殺せェ!!」


「――違う、アレは味方ですッ!!」


 体制を低く維持。遠心力を感じながら魂炎陣をグルリと120度ほど回り、後方の部隊へ、片手杖、魔導書、魔石のリングから察するに後衛装備。俺は近くの地面に刺さっている大剣を持ち、念じながら投げる。


――斬れるな!


 大剣はグルングルンッと回りながら敵集団を吹っ飛ばすように食い込んでいった。


「どうしたッ!!」


 断末魔と共に統制の乱れが耳に入る。依然、厄介なのは追尾のしぶといアイザックの赤い手だ。魔法を使えない俺に対して、すなわち魔力感知の及ばない俺に対して、奴は恐らく目視か気流を掴みながら追尾してきている。それも円周を狭めるごとに、すなわち魂炎陣の内側に迫るほどに、追尾の手数が増えてくる。これはかなり手厳しい防御だ。他の人員も趣向を切り替え、俺を追従するというよりかはネオを守るように展開していた。言い表すなら静の守り。外側に対してプレッシャーをかけ、混乱を防ぐため極力動かずに集まっている。


「雑魚共、無闇に動くなァ!!」


 誰の命令か、流石の対応力。つまりは敵だけが動いているという共通認識で索敵を行っているのか。それなら俺は、出来るだけ物体を四方八方に投げ飛ばし、領域の中で動の渦を創り出す。もうすぐ180度、もっとも守備が脆いと見られる空間(後衛の背)へ辿り着く。しかし、


『逃げるなぁああああああ!!!!』


 幹部にはバレている。巨漢とイカレ野郎と義手とボロボロの身なりをした男、アイザックは自身の赤い手で俺の居場所を探知しながら、数人の主戦力を俺の所在まで文字通り"手招いて"連れてきている。布陣も流動的に後方部隊が前方にいた部隊と徐々に、じっくりとスワップする動きを見せ、当初予定していた脆さを見せない。


「しつこいッ……!!」


 頭がクラクラとするが、酸素を吸えていないのはお互い様の筈である。


『潰すッ!!』


――まだか。


 巨漢の鉄槌をいなし、方向を変えて煙に巻く。


「分かるぞ分かる!そっちだ!!」


――まだか。


 煙の中からスッと現れる鉄槌を避け、火球を避け、デコイ代わりに敵兵を掴み投げ、拾い上げた槍をネオへ向かって投げる。


「無駄ですよ、紳士。」


 槍はネオの所まで届かず、火球で撃墜される。前方では数人のアルデンハイド兵が魂炎陣を抜けキャラバンの元へ、砦を守るハーピーたちと交戦しながらキャラバンを破壊しようと動き始めた。見事な連携、錯乱にはお構いなしに自らも仕掛け、俺への追撃はそのリズムを加速させている。


――まだかっ。


『邪魔だ、――黒絶コクゼツッ!!』

(【黒絶】戦型玄武陣・剣技。

 ――本来はその所作を陣に見立て、自身の魔力を防御に有利な形へ変換する黒色の剣技、相手のカウンターを防ぐ為に最適化された一刀。黒絶、黒薙、黒蛇、など多くの技が存在するが全てナナシにとってはただの物理攻撃である(が、たまに周囲の魔力を巻き込み技が発動するので出し得。))


 迫り来る義手のオーパーツをただの袈裟斬りで両断し、直後に、火竜の翼を生やした敵のブレスを転がりながら避ける。


「痛いですねぇ。」


 すかさず地面から噴き出す炎をかわし、頬を掠める赤い刃を拳で折る。戦場は既に焦げ臭い地獄。俺はすかさず何かの柄を掴んで振り回す。


「――砕けろッ!!!」


 遅れて目に映る約10000万イェルで買った思い出の大斧を自己破壊させ、目眩ましの為だけに使ったことを記憶から消す。今敵兵に持たれたのは市場バザールで買った開闢の剣のレプリカ約3万イェル。あれは東方の珍しい形をした大鎌、半額で25000イェル。次は2万、4万、1万5千、2万、8千、4千、1千、1千、1千、1千、500イェルだった切れ味最悪の包丁3本。ドンドンと俺たちの資産が豪炎の中で灰と化し、或いは無残にへし折られ鉄屑へと姿を変えていく。涙を呑むような光景だ。戦争は良くない、本当に。


黒薙クロナギッ!!」


 ただの横一文字で鉄槌の柄を折る。たっぷりと魔素の滞る魂炎陣の中、ちょっと技が光るがそれどころじゃない。呼吸が苦しい、喘息になる手前のような乱れ。口の中に血の味が広がり、頭の回転が鈍くなっていくのが感じ取れる。


――まだかッ!!!


「はぁはぁッ……、隊長。僕、もう限界です、はぁっ!!!」


 敵兵の一人が膝から崩れ落ち、同時にこの視界も朦朧としたその時、



『……これで終わりだ、逆賊共ッ!!』


 ネオの声が響き渡り、彼女は巨大な渦を巻く豪炎を持ち上げ、全身から汗を垂らし仁王立ちする。


「ここだ。」


 俺は右手に開けた穴を左手の指で強く押し、ボタボタと血を荒く外に出す。


「いちち……」


 決着の時だ。


『――カノンッ!!!』


 大量の血と共に、体内に有る使い道の無かった魔力たちを傷口から吐き出して一点に溜める。これが本当の奥の手、継承されし禁術{カノン}。これはネオアルデンハイドの伝統とどっちが上か、比べてやろうじゃないかという意気込み。しかし、


『――加護神の息吹ブレスオブ・ザ・カムイ。』


 瞬間にメセナが茶々を入れるような大魔法を展開させ、魂炎陣の中に有る魔力を集約させるようにネオの火球へと集めていく。肥大したそれはもはや太陽のように眩しく熱い。まるで神の創造物である。そこにあるのは人間のなせる業とは思えない圧倒感。№1と№2クランの最強の魔法合技。


『ハハハ!!良いぞ、クソスパイ野郎ッ!!!!!!!!!!』


 俺は周りの兵を吹っ飛ばしながら空中の魔素を集約させ、メセナに叫ぶ。いま第25層は正に、魔力の渦が波をかっさらい、激しく荒れ狂う豪炎のテンペストが巻き起きていた。


『ナナシッ、君のカノンそれは、周りの魔力を我が物顔で吸い上げるッ、生半可な力じゃダメなのさッ!!』


 大声すらも灼熱の暴風にかき消されていく。


『そうだなッ!!!!大正解ッ!!!!!』


 明確に血の気が引いていく感覚。視界は白みがかりチカチカと閃輝を発生させ、双肩と腰は力が抜けるようにガクンと重くなった。決着だ。


『掛かって来い、アルデンハイドッ!!!!』


 ネオが繰り出す巨大な火の玉にメセナが最上の魔法かけたことにより、魂炎陣で繋がっていた百人隊のほとんどが魔力を抜かれ尻餅をついた。すなわち、アレがアルデンハイドの全て、今まで培い蓄えてきた者の集約。しかし、ネオは意気舞う俺に背を向けキャラバンと砦の方へ眼を向けた。


『分かっている!!貴様は時間稼ぎの囮に過ぎないッ、本命はあのキャラバンが持つ転送能力ッ!!貴様らはギルバードの記憶操作を覆す為ッ、あのキャラバンで層を越えようと試みているッ!!――すなわちッ、キャラバンごと砦を叩き、風穴を開けることが決着!!!!!!!!!』


 鋭い奴だ。


『出来ると思うかァ!!!!』


 俺は蓄積させた魔力の弾を掴み、膝を曲げる。


『君の相手はッ、僕で十分さッ!!!』


 ネオと俺の間へアイザックが立ちはだかり、余力には多すぎるほどの手を伸ばし、自身も魔法が生み出す深紅の衣で身を包んだ。アイザックの周りが陽炎に揺れる。まるで本当に空間が捻じ曲がっているのではないかと錯覚するほどの熱気。俺は立ち尽くしその時を待つ。


『アルデンハイドにあだなす全ての豚共よッ、大切な物が燃え盛る様を眺めながらッ!!!絶望の淵で灰の如く跪けッ!!!!!!』


 テンペストとキャラバンは丁度直線上に重なっている。あの中にはまだマーヤとエルノアとリザが、砦の中には、ハーピーの生き残りの全てが居た。しかし巨大な炎の渦は、それすらも破壊せんと滾る強烈な熱気と赤黒い禍々しさを見せていた。


極魂炎弾ぎょくこんえんだんッ!!!!!!!!!!』


 まずい。


 放たれた最強クラスの炎魔法は地を抉りながら隕石の如く俺たちのキャラバンに襲い迫る。まるで夢のような景色だ。意識が朦朧としながら赤く燃え盛る光を目の当たりにし、暴走した右手の魔力を抑えながら、この世のモノとは思えない禍々しい光景を目で追っていく。なんたることだろう。


 全て……、


 策略おもい通りにいってしまった。










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