④青空の集会所にて
「可愛いねぇ?」
「むー。」
「あはぁ~、天使でござるな~♪。ナナ~?」
プーカが抱えるピンク色の服を着た短髪の幼女。
当時の深夜、
武器屋から出てきたところをライに目撃された彼女こそが、
今回の殺人事件の最有力犯人候補であった。
名はリエナ。
武器商がアッサム街から連れてきた娘だと言う。
「別に、トイレ借りにいっただけだもん。ミカの家のトイレが壊れてたから、お家戻っただけだもん。」
「な、何故彼女はミカさん宅に……?」
ミカという女性が、
おっとりと頬に手を付いて答える。
「う~ん。村長からの頼みでして、可愛いから預かっているのだけれど、良く分からないわ。」
「し……酒乱の酷い方でしたから、リエナの本当のパパでも無いと、何よりも本人から裕福な家で預かって欲しいと言われていましたから、さもなくば山に捨てるとかも言っていましたし。」
リエナはまた頬を膨らませ、
プーカもそれを真似する。
「あいついやな奴!!」
「やな奴~!」
俺を見るなお前は。
そして昨晩、ミカ宅では収穫祭のパーティーが催され、
多くの人間が互いにアリバイを持っていた。
村の高台からは監視役の代わり番が村全体を見張れる位置でツーマンセルの常駐。
その彼らには武器商との不穏な噂が無く、殺す動機が無い。
収穫祭に参加していた何人かは武器商を毛嫌いしていた様子では有ったが、
如何せん殺人を起こすには悪条件過ぎる集まり。
誰も武器商を殺せない。
リエナ以外は。
いや、違う。誰もだ。誰もなのである。
「ナナシ。昨日も言ったが、紛れ込んだ人狼は、ひ……1人じゃない。僕は見たんだ。朝に訪れた武器屋の寝室には個体差のある足跡が二種類有った。2人以上なんだ、何処からとか殺り方は僕には分からないけど、間違いない事実がそこにある……!!」
手詰まりである。
村人全員を牢屋に入れる訳にもいかないし、正に手詰まり。
なら、村全体に人血の杯を置き、一晩様子を見るか?
奴らの次の殺人を防げれば、面倒な推理を挟む必要も無い。
いいや、ダメだ。
これはゲームじゃない。
考えろ、俺が人狼ならどうする……?
俺が人狼なら……。
人狼なら。
人狼なら……?
脳裏に浮かんだのは、
頭部だけ消えた死体である。
そう。
もし人狼であるならば、
可笑しな点が有ったじゃないか。
「村長……。後で調べようとも思っていますが。かつて、この村の周辺地域で、人狼による被害は有りましたか?」
村長は言葉に詰まったのか、
或いは思い出すために記憶を巡らせているのか、
奇妙な間をおいて答えた。
「ま、まぁ……。ちらほらと聞き入れていやす……。直近ではアッサム街で現れたと。如何せん、ここいらは田舎ですからね……。」
なるほど不思議だ。
不思議ともう、これしか答えが無い気がするのだ。
頭に廻った奇妙な結論。
――しかし、どうするべきであるか。
しばしばミステリーで多用される消去法とは、
選択肢が明確な時に有効なのであって、
それは消去し切れるモノが有るから有効なので有って、
消去しきれない選択肢が出てきた時、
或いは選択肢が見えない時は無力なのであると悟っている。
そして今回のケースにおいては、
もし俺の出した結論が正解ならば、
探るという行為そのものがリスクであると考えられる。
――複雑だ。では、どうする?
答えはいつも単純で明快だ。
俺たちはいつだってこういう時は賢く立ち回れる。
そしてそれは、つまり、すなわち、ずばり、ぶっちゃければ、"降参"するということ。
「――はぁ。。。」
俺は辺りを見渡して溜息を吐いた。
「村長、申し訳ない。この事件はどうにも、一介の冒険者には難しすぎる様で、何もかもが分かりかねます。所詮僕らはただの放浪者だったみたいだ。どれだけ探偵面をしようとも、どれだけ推理を重ねようとも、やはり分不相応。この脳みそでは限界が有るのでしょう。いやはや申し訳ない。――諦めることにします。」
俺がそう言うと、
ライは驚いた顔をして言った。
「な、ナナシ。ここまで来て諦めるのか?!」
「だって仕方無いだろ。こういったクエストを受けるような冒険者は、大体金をふんだくるのが目的の詐欺師なんだから。それに、犯人が人狼と確定した以上、俺たちの身が危ない。加えて報奨金を貰えるかは村長の判断だ。もし村長が人狼なら収益ゼロ。まぁ、……あの、惨殺死体を見ただろ。明日は我が身だって話。それよりさぁ~、ライさん。あんた学者だっていう話だったよな?相当金を持ってるんじゃないのか?」
俺がニヤリと笑うと、
ライは戸惑ったような顔をした。
「な、何だ。何が言いたいんだ?」
「いやぁ~、よくも犯人のいるこの村まで、ズケズケと帰って来れたよね~?大丈夫かな~?生きて街まで帰れるのかな~?」
「お、お前ら、詐欺師ども!!!端からそれが狙いかっ!!あぁ~神よ!!ユーヴサテラに天罰を!!神の鉄槌を捧げ給え!!」
「めんど~い。」
「――あぁ、神よ!!」
ライは膝を付きリングを掴んで、
目をパタリと閉じながら天へ叫んだ。
「いいのか?次の街まで"有料"でなら送ってやろうと思ってたのに。あぁ、そんなこと言っちゃってさ。どうしよっかなぁ~。」
「う、ウソです。あぁ神よ、やはり彼らとこの僕に祝福を!!」
「――いいよ~。」
「あぁ神の声!!」
よし、そうと決まれば交渉の時間だ。
「――アルクっ!!」
キャラバンの中からはそろばんを弾き、目を光らせたアルクが歩いてくる。
「フフフ……、金額の交渉は中で受けますよお客さん。何処まで?」
本物の詐欺師の顔をしている。お前の本職はきっとそれなんだよトレイダル君。きみは二度と交易商を名乗らないように……。
「ひぃぃい」
連行されるようにキャラバンへ入っていくライを横目に、
俺は村長の方へ顔を合わせる。
さて、本当の交渉の時間だ。
「経緯は聞かないさ、村長。短い間だったけどありがとう。珍しいものが見えたよ。」
「は……、はぁ。」
村長は眉をひそめて、
困った顔で俺を見る。
「それと、報奨金を渡すか否かは村長次第だ。その、何もしてない俺たちが受け取るのは良心の痛むところだが、証拠が有ればギルドはクエストを達成したとみなしてくれる。無論口外はしないさ。犯人は見つからなかったが村を襲う人狼は消え、村には平穏が訪れた。村長はそれに喜び俺たちに報酬を与えた。事件は無事解決。どうだ?」
「へぇ……。そうでありやすか……。」
俺の言葉に村長はコクリと下を向いて
「待っててくだせい」と呟き、家屋の中へ。
しばらくして現れた彼は、
貨幣の入った巾着袋をシャラりと鳴らして、俺に渡した。
「何がとは言いませんが、答え合わせのつもりで差し上げやす。……あんたはきっと、良い人だ。アッシはこの村がもっといい場所になると信じていやす。またお越し下さい詐欺師の旦那方。その時はもっと発展したこの村で、最高のおもてなしをさせていただきやす。」
俺は、村長の後ろに立つ村民たちをぐるりと見渡し、
村長と目を合わせた。
「怖いのじゃないよね?」
「へへっ………。」
若い村長は、
気さくに笑ってこう返した。
「そいつはぁ……、どうでしょうかね……。」




