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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第25譚{斜塔のダンジョン 戦層}
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アルデンハイド百人隊の喜劇 妥結


「何すんのよ!!」


 腕の中では偉大な少女が暴れる。しかし頭の中では上の空で、それよりも、将来に対する一抹の不安が拭えずにいた。元来この懸念は巨大なものだったのだろうけど、溢れ出す自信が相殺し、それらは刹那に矮小化される。というか絶賛上の空から、巨大な懸念が見下ろしている訳だが。


「マーヤ、このドデカい親戚に敵じゃないと伝えてくれ。」


「いえ、その……。」


 俺はクイーンハーピーの前で膝を付き、真横に立つマーヤへ通訳を促す。しかし、マーヤは渋った顔をし、クイーンハーピーは地に足を着けて、俺を見下ろした。


「言葉は分かりますよ稀有な旅人。或いは、気違いの類。」


 なるほど都合が良い。失敬な女王では有るが。


「マーヤをここまで連れてきたのを見ていました。して、今更ながらこの地獄に赴いた理由を伺いましょう……。」


「戦争よ!!お前たちを根絶やしにしてっ――」


 腕に抱えたネオ=アルデンハイドが、見上げた先を睨みつけ、暴れながら吠える。


「黙ってろドちび。――それを話すのは、俺じゃない。」


「ドチビ?!……きさ、モガッ...」


 俺はネオの口を抑え、マーヤの顔を見て頷く。


「はい。……お願いが有ります女王陛下。どうか、地上の法に乗っ取り、ハーピーが冒険者を襲わないように約束して下さい。そして、地上人との和解と彼らの協力をして頂きたいのです。彼らの真の目的は、少なくとも彼ら"シーカー"の目的は、我々の文化を侵略することに有りません。彼らはこの地に旅の拠点を作りたいだけなんです。だから、地上人との敵対関係が解ければ、この方は我々の為に戦ってくれます。この方は私たちを救ってくれます。そう誓ってくれたのです。いつからか始まったハーピーと人間との数千年の捻じれ。でも私の父がそうしたように、もう私たちは憎しみ合わなくて良くなる。彼らこそ、父ヤマウに伝えられた希望なのですっ!!」


 ハーピーの女王は優雅な挙動で、押圧するかのように翼を折りたたみ、艶のある前髪から鋭い眼光を覗かせて言った。


「マーヤ。それを信じろと言うのですか?」


「はい!!」


 しかしそれは、愚直な程に純粋な返事だった。聡明なこの女王には不審がられるかも知れないが、それはマーヤから出た圧倒的な意思。


「では貴方に聞きましょう、稀有な旅人。何故我々の味方をするのでしょう。貴方が信頼にたる根拠は何処に?」


 俺はネオの首元に刃を当て、アルデンハイドを横目に牽制しながら言葉を返す。


「根拠が必要な状況には見えないな、俺たちは既に取り返しのつかない代償を支払ってる。斜塔街最強のクランアルデンハイド、この軍隊の喉元に俺は刃を向けている。加えて、俺たちがアンタらを裏切ったとしても、この将来さきで和平を結んだ結果アンタらが不幸になったとしても、今滅びるよりはマシだと思うけど。」


 冷静な口調で諭すように心がける。内心は焦りだ。時間が無いぞ、クイーンハーピー。血族ですら捨て駒にする連中はザラにいる。大義の前では、こんな人質は直ぐに無為と化す。俺にネオを殺させるな……。


「そうです、か。……そうですね。ですが、なればこそ答えて頂きたいのです。旅人、一体何故、貴方は我々を助けるのですか?」


 ジリジリと迫り来る百人隊を前に、ハーピーの軍勢も俺か百人隊かを襲わんと身構えている。もはや気分は四面楚歌だ。誰が俺の味方なのだろうか。敵はどいつなのだろうか。しかし、それでも、俺がここに立つ理由は確かに存在する。


「病気なんだよ。困ってる奴を見ると気の毒に思う、苦しんでいる奴を見ると助けたくなる。――そういう症状の、病気を患ってる。それだけ。」


 俺がそう言うと、名も知らぬクイーンハーピーは「ふふっ」と優しく笑って、こう返した。


「気の毒ですね。」


 大きなお世話だ。


「だが人類悪になるつもりは無い。仮にもアンタらはモンスターの端くれ。つまり俺たちには大儀がいる。――ざっくばらんに話すぞ女王。第25層におけるシーカーとの協力及び和解と、安全地帯を保証しろ。それが条件、さすれば俺は奴らを退かせる。」


 クイーンハーピーは、初めから分かっていたかのように両翼を大きく広げる。懸命だ。そして聡明だ。


「――よろしい。我、大女王エオリカの名の下にそれらを保証し、妥結すると誓います!!」


 ここに大義が出来た。それが虚偽だろうが、不明確であろうが、そんなものはどうでもいい。病的なほどに箍の外れた、この良心の呵責を相殺し得る、戦う理由さえ有れば良い。


「交渉成立だ。」


 俺が発したその言葉と共に、ネオとマーヤは黒い霧に包まれる。エルノアの特殊な扉魔法ゲートに包まれキャラバンに転送される。


「さて、名も知らぬ無謀な旅人。何か手伝いましょうか?」


 クイーンハーピーは翼を口元に当て、愛嬌たっぷりに皮肉った。一方俺は新調したこの剣の末路を憂い、肩を落としながら言葉を返す。


「いらない、退ってて。」








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