アルデンハイド百人隊の喜劇 転換
ルカが帰還し、有力な情報が手に入った。
「グスタフ様。対象がまもなく到着予定です。」
「そうか。……時は来た。今日を持って歴史は変わる。……大統括、定刻より決戦を開始せよ。」
「はい、グスタフ様。」
その情報は実質的に指揮権を握るグスタフ=アルデンハイドの耳に入り、ネオ大統括の元へ流れていく。それは、アルデンハイドの作戦成功を決定的なものとする情報であり、その一報が木来たる今まで、不確定要素であったもの。
「これより、作戦を開始します。」
いずれにせよ、計画は実行に移され、俺たちはまた戦場に出る。
「ダンテ。何の情報かな?」
「フラッグ1が到着しそうってだけだ。それよりアイザック、お前はブレンドンが味方を殺さないように躾けておけ。フラッグ1が到着しないことよりも、俺の杞憂はそこにある。」
「嫌だよそんなの、こっちは妹と影の管理で精一杯なんだ。というか君は味方を何だと思ってる。彼はちょっとお薬の服用が必要なだけの、我々と同じ正常な大幹部だ。それに拠点が有るのも、彼の隊のお陰じゃないか。要らない杞憂はすべきじゃないぞダンテ。」
「残念だが。それを正常と呼べる世界で生きていないんでな。」
「奇遇だな。僕もだ。」
アイザックはニヤリと笑った。相変わらず掴みどころの無い奴だ。支離滅裂とでも言えば良いのか。
「それよりもダネルだ。そうだろダンテ?アイツは生理的に受け付けない。というか、臭うんだよ。今日こそ戦場で高温殺菌を施してやろうと思ってるんだが、どうだろうか?」
「前言撤回だ。君がダネルを殺さないかが心配だ。」
「――冗談に決まっているだろダンテ。」
「いや、君なら殺りかねない。」
ネオが歩き始め、追従する形で俺たちも外へ向かう。依然止まぬ砲撃を強め、ハーピーらに悟られぬよう戦力を外へと結集させていく。
「はぁ、ドキドキしてきたよ。」
「君でも緊張するのか。」
「そうだね。さっきから興奮が止まらないんだ。」
恐らく、イカレた方だろうな。まともな感覚じゃない。
「そうか。……しかし、この決着は思いの外、楽かも分からない。」
「ん、どうしてだい?」
「ルカからの情報だ。山小屋で半人のハーピーを見つけたと。」
「へぇ……、いいね。」
この意味は、いずれ全隊に影響を及ぼす。
「神が味方をしておりますな。」
ヒラリーか。
「盗み聞きとはよろしくないな。神父の風上にもおけない。」
アイザックは不敵な笑みを見せて話す。
「おやおや、嫌われましたかな?」
「いやいや君のことは大好きだよ。話が通じるからね~。」
アイザックは赤いロングローブを靡かせて、湖畔を眺める。
「すごい基準だ。」
「そんなもんだろ。みんな素晴らしい人材だけど欠点がある。だからその中でも、君は親友の一人なのさ。」
「とても不名誉だな。」
「またまた~。」
拠点の門を出て、各隊の先導手たちが集っていく。みんな寝起きの顔をしているが、きっとこの顔で正常だ。ギルバードは呼吸器を装着し、いつも通り顔が見えない。コーネリアスは義手の接合部から血を垂らしているが、これもよく見る光景だ。普段と同じ光景、同じメンツ、同じ目標。こんなんでも、俺たちは一つのチームとなる。
『先導手、集まれ。』
ネオが小岩に乗り、呟くように俺たちを呼んだ。
『全隊居るな?』
10部隊、10人の代表がネオの前に集い、ネオの後頭部か、或いはその先の戦場を眺めている。しばらくの沈黙を経てブレンドンが口を開く。
「昨日二人……、死んだ。」
「ざまぁ見ろ、カスが。」
ゴードンが悪態を突き、セリーヌが宥めた。
『そうか。……想定内だ。しかし、想定とは幅広いものだ。私がしていない想定は敗北のみ。すなわち、お前たちがいくら死のうが、それは想定内で有り、敗北だけが許されない未来だ。分かるな?』
周知だ。
『聞けば、戦況も好転しているらしい。かねてより交渉の有ったフラッグ1の到達だ。情報を掴んだのは大儀だったぞダンテ。』
「いえいえ。」
――偶然だけどな……。
『しかし、戦いとはその決着よりも、どう終わらせるかが重要と聞く。つまり、いくら砦を占領したからと言っても、これからの開拓に必要な主戦力が消えては、クランとしての損失は大きい。だから、気を抜くな。気を抜かなければ、お前たちが死ぬことは無いだろう。……私からの指令は以上だ。後は予定通りに事を進めろ。――ただいまより進行を開始する。』
『――はッ!!!』
遠回しに「死ぬな」ということか。この子から受けるブリーフィングは、まだ指を折るほどしか経験していないが、盟主、副盟主には無い、慈しみを感じる。
「あんなんじゃダメだ。」
自隊へ戻る傍ら、アイザックが俺の前で呟いた。
「肝の座った奴だ、大統括を批判するとは。」
「ダンテ。僕たちは駒だ、そうだろ?もっと追い込まないと。もっと責め立てないと。それじゃあダメなんだよ、ネオちゃん……。そんなんじゃ、そんなんじゃ甘いよ……!!」
アイザックはボソボソと喋りながら一番隊の前に着く。
「――始まるぞ豚共!竜炎ジーナ。及び第一隊、命令だ、ハーピー共を根絶やしにして来い!!」
アイザックは両手を広げ、堂々叫んだ。
「は?なんでだし。兄ちゃんが命令すんなし。」
「隊長だろお前。」
『部下のクセに反抗かい!?..だが、それも、イイッ!!――これが主体の性ッ!!』
ダメだコイツ。
俺は9番隊へ戻り、心を落ち着かせる。
「……ここだけが僕の居場所だよ、カイル。」
「どうした、旦那。」
「いや、何でもない。ルカは後で合流するそうだ。ボチボチ僕らも出るとしよう。」
「了解した。行くぞテメェら。」
そうして全隊が{十番隊、一番隊、九番隊}の三部隊を先頭に、ドッと開戦のその一足を踏み鳴らした。アルデンハイドが、進軍する。
――――――――――
『アルデンハイド百人隊・進軍形態{魂炎陣}』
構成幹部一覧
{連合外炎隊}
前方左翼
九番隊隊長 神速のダンテ 紅炎 絶剣カイル
蒼炎 深淵のルカ
前方中央
一番隊隊長 赤きアイザック 紅炎 竜炎ジーナ
蒼炎 炎杖アイザック
前方右翼
十番隊隊長 狂犬ブレンドン 紅炎 破壊槌メスデスボン
蒼炎 修復者リスデスボン
{連合炎芯隊}
中央
大統括 魂炎のネオ
中央
五番隊隊長 神父ヒラリー 紅炎 豪腕ガリオス
蒼炎 蒼指キケロ
中央
六番隊隊長 癒しのセリーヌ 紅炎 炎薙刀のクライス
蒼炎 杖者リュカイエ
{連合内炎隊}
後方左翼
三番隊隊長 巨漢ゴードン 紅炎 巨槍アルデスボン
蒼炎 巨杖バソー
後方左翼
七番隊隊長 無慈悲なダネル 紅炎 火鞭ジュテルテ
蒼炎 終焉のムラトー
後方右翼
四番隊隊長 義手付きコーネリアス 紅炎 義指のショッケラ
蒼炎 祭司ルクソー
後方右翼
八番隊隊長 不消のベラル 紅炎 大鎌ジャック
蒼炎 黄金のジュラ
{単独近衛部隊}
副領主 支配のグスタフ
二番隊隊長 未知のギルバード 紅炎 未知のダーマ
蒼炎 未知のメリタ―
{拠点天守閣}
領主 炎帝オーガスタス