アルデンハイド百人隊の喜劇 転
充分だ。
『撤退する!!』
支援部隊からの合図が眼に入り、撤退の指示を出す。敵の数も、素材の数も、充分適量だ。作戦は滞りなく進んでいる。すなわち、今すべきことは、最終決戦に備え休息を取ること。それも一方的に。
『アイザック。敵を引き付けろ。殿を任せる。』
「うん、いいよ。」
赤きアイザックは歴代紅炎の中で、もっとも修羅場を潜り抜けてきた男だ。全身を高熱の魔素で包み、近距離攻撃遠距離攻撃防御体力回復力全てにおいて高いレベルを有する万能型。
『遊びすぎるなよ。』
しかし、実力を過信しすぎる節が有る。アルデンハイドは飽くまで団体だ。個人ではない。戦線をアイザックに任せた所で隊の大多数を湖畔へ引き戻していく。ハーピーの動きは単純で分かり易い。言わば砦に近づくものだけを攻撃対象としてみる傾向にある。鳥頭であるからか、はたまた砦の効果か、奴らはこの湖畔まで組織的に近付いてくることは無かった。連携不足。経験不足。アドリブの無さ。知恵遅れ。これが人間とお前らモンスターとの明確な差。
『――解除。』
そして魂炎陣を解く、殿を除き撤退は完了した。後は追従してきた残党を灰にし、拠点へ戻るだけ。
「……野郎、まだ戦ってやがる。」
『放っておけ。お前たちは拠点へ戻り、次の指示を待て。』
―――――――
結合器の両翼=有翼娘型。吐き気を催す装備だ。機械の筒にセットされた肉感の強い翼部との対比は、おぞましい狂気を感じさせる。しかし、この狂気こそが万人の求めた打開策なのである。言わばこれらは先人たちから積み上げられし、崇高なる研究探査の結晶体だ。見た目だけで物を判断するのは、きっと間違っていることなんだ。
『ネオ』
私を呼ぶ声がする。
「はい、お爺様。」
私を正当化する声だ。偉大なる開拓の歴史を築き、この街の最前線を走ってきた偉大な声。
『今日は素晴らしい活躍であった。」
「ありがとうございます。」
『だが。朝日がまた水面を照らし、その時が来れば、また熾烈な戦いが始まる。決戦じゃ。』
「分かっています。」
『……今日はもう寝なさい。』
「はい。」
お爺様は私の頭を撫で部屋を出ていく。私は認められている。あの伝説的な男に認められたのだ。私は英雄だ。私は正しい。私は偉大に成りつつある。その為の全ては10時間後に……、ハーピーへの攻撃を始めてから30時間後になる明日の正午。奴らが衰弱を極めた頃合いで、我々は全てを終わらせ、新たな時代の開拓者となる。