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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第24譚{斜塔のダンジョン 深層}
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㊲相棒


「じゃあ魔法と魔術は、何が違うの。」


 ランタンの蝋燭に灯された火が、穏やかに揺らめいている。低い机、ボロボロのペン、広げられたノート。テツに魔法の知識を共有するのは、寝る前の日課となりつつあった。


「俺の考えでは、魔術は何かを媒介して外に出す魔法だ。例えば杖や書物や指輪を使って放たれるもの、それでいて、その媒介が無いと放てないものが魔術だと思ってる。つまり、魔法というものは素手から出せるが、一方魔術は道具や仕掛けを有する。ただ、些細な違いだし見分けがつかないこともある。」


「どうして?」


「魔法を杖で増幅させてるケースが有るからだ。つまり杖が無くても放てるものを杖を媒介として放っている。このケースならそれは魔術と呼べない。か、或いはこれを魔術と呼ぶ人も過去には居たから何とも。だから、往々にしてハッキリと隔てる必要はない。と、思ってる。」


 今まで感覚でこなしていたものをいざ、言葉にして表すのは難しい。ただ、そういったプロセスは自分自身の理解力を上げることにも繋がるのだと、魔法の師匠が言っていた。


「じゃあ魔術師は、道具を壊せば無力化できる?」


 しかし、純粋な疑問と言うものは中々に鋭いものがあり、それをあたかも全能の神のように、スラスラと答えるのは容易ではない。時に、核心を突くような疑問なら尚更である。


「うーん。……どうだろうな。大体のケースで言えば、道具を壊したとしても無力化出来ることは少ない。例えば、血操魔術を扱う者が居たとして、そいつのナイフを壊したとする。この時、そいつは自傷する道具を失くしたことになるが、自傷する手段を失くした訳じゃない。例えば近くの岩で手を切ったり、自分の歯で腕を切ったり、魔術を発動する手段は依然存在している。ただ、そんな野蛮で単純なものが魔術と呼べるのか、或いは魔術師と呼べるのかは疑問なところだ。」


「関係あるの?」


「有るとも。現に、魔法を使う獣はいるが、魔術を扱う獣はいない。獣でも使えるようなものを魔術と呼ぶことは出来ない。って考える奴もいる。」


「――悪かったな。」


 寝転ぶエルノアが、目を閉じたまま呟いた。


「或いはそいつが獣と呼べるのかは疑問なところでもある。」


 俺は適当に機嫌を取って、頭を撫でた。ふさふさしている。眠い為かいつも以上に大人しい。夜行性は何処へやら、昼間に酷使したせいか、だいぶ疲れているらしい。


「僕でも使えるかな、例えば血操魔術とか……」


「――ダメだ。」


 何故かエルノアが、目を閉じたままそれを一蹴したが、同意見だ。


「早く寝たまえ、小動物くん。……まぁ、俺もこいつの意見に賛成では有る。血操魔術、或いは血操魔法って言うのは、謂わば銃口マズルを無理やり広げて、暴走させているようなものなんだ。つまり基礎的な動作、弾を込めて、撃鉄ハンマーを引くなり、スライドを引くなり、照準を合わせるなり、ほら俺は詳しくないけどさ、色々やるだろ?そして最後にトリガーを引く。そういう基礎的な所を覚えずにただ銃口マズルを広げたところで、その銃は壊れるだけで意味が無い。大口径の銃にはそれようの弾が必要なように、魔法を扱うっていうことにも、種類に寄った専門の理解が必要になる。」


「・・・あっそう。」


 あ、ちょっと拗ねた。


「いや、まぁ。大器晩成っていうだろ?もしくは急がば回れ?事実、テツは魔法が"出せない"だけで、使えないわけじゃない。つまり、血操魔術とまでいかなくとも、ちょっと流血した状態で杖でも振るえば、ちゃちゃっと炎でも出るかもしれないんだ。俺と違ってな。だから安心していい。」


 俺は黙々とノートを取るテツを見ながら話す。とても静かな時間だ。頭を使って、蝋燭の火を眺めて、こうやって眠気を待っている。


「マズルかバレルかはっきりしたら?」


「マズ……、バレ……?何言ってんだお前。」


 テツはムスっとした顔をして、眉をひそめた。


「じゃあ。……"カノン"って言うのは?」


「げッ……」


 そして時々偶に、蓄積させた眠気が吹っ飛んでいったりもする。


「あれは、……企業秘密。」


「ねぇ」


「いいや、分からないんだ。……教えてあげたいけれども。……やまやまだけれども。ただ、もしかしたらテツは、いずれ使えるようになってしまうかもしれない。でも、……その幾つか覚える過程にはパターンが有って、うーん、何と言えば良いですかね。」


 カノンという技は、原始魔法系だけから派生した特殊魔法、もしくは全ての魔法系統から派生した特殊魔法と呼ばれている。すなわちその意味は「未解明」ということ。ただ最近分かったことが一つあり、その一つ故にテツには憶えて欲しくない。


「結論から言って、俺たちみたいな無魔ノイマが使うと、最悪死ぬ。」


 テツは目を細めて俺を疑う。


「本当だって、死因も分かるぞ。出血性ショックだ。」


「でも、使ってたじゃん。」


「使ったけれども!……絶対に教えないからな。」


 俺はテツの鋭い視線を交わして、キャンドルの蝋燭を一本、ふっ、と消した。


「おやすみ。」


「……おやすみ。」


 その返事は、不完全燃焼といった声色だった。



「100イェル。」


「――ダメです。」

 

 俺はベッドに布団をかけて、すぐさま目を閉じた。……っていうか俺の秘密、安ッ。




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