アルデンハイド百人隊の喜劇 継承
第24譚{斜塔のダンジョン 深層}
かつての百人隊もこの地で戦争をしかけ、その時は無様にも敗北を喫したそうだ。そしてかつての敗因から我々が学んだことは、標的はハーピーだけではないということ。この先、兵員が削られていった奴らは恐らく籠城戦に切り替える。関門はつまり、その籠城戦に有る。我々が攻め手に回ったその時、嵐の砦に翻弄されんとするその時、我々は再度、敗北を喫する可能性が有る。
「……グスタフ。戦況はどうだ。」
白髭を蓄えた老人は、一夜城の天守から戦場を見定める。
「上々だ。ネオもよく頑張っている。」
「ほぉ……、御褒美をやらねばな。」
冗談を言っているのか、本気で言っているのか。奇妙な老人だ。いや。そんなことも分からない私は、もはやこの老人とは、親子では無いのかもしれない。現に、私が成人するまでの期間は、外国での修行に明け暮れるばかりであった。そしてそれがアルデンハイドの慣わしであり。つまり私は幼少期に、この親父を見ることが無かった。
「……グスタフ。決して見誤るな。」
俺の名前が呼ばれる。この圧巻たる威厳は、老いるどころか増すばかりだ。この男について知っていることは多くない。ただ、この男の身体は、深淵よりも深い野心と狡猾さで出来ていると、知っている。
「明日の夜までには、全てが終わる。」
「そうだと良いがな。」
「あぁ。」
そして私は、その血を継いでいると、実感ている。この掌で燃ゆる式魔は、受け継がれし魂炎の篝火であると知っている。私はもはや、誰にも止められないだろう。この男を持ってしても、私を止めることは出来ないだろう。すなわち、私は知っているのだ。私が唯一の頂点であると。
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『右翼展開ッ!!』
ネオの掛け声と共に、五人一組の隊が並列に右肩上がりで縦に伸びていく。目指すべき方向は嵐の砦、彼の地まで続く湖の浅瀬域を我がクランは一気に進軍していく。この時、全隊に出してある命令は「圧力をかけろ」というもの。つまり、右翼の配置された4部隊隊は敵の注意を惹きつけ、それに連なる中央及び左翼部隊は、陣地近くで戦いながら右翼をサポートし敵戦力を削る。この時、最も重要なことは、犠牲を出さずに敵を狩ること。
「グスタフさま。素晴らしい者が残っていますね?先行した偽百人隊の生き残りがまだ戦ってますよ。しかも泣きながら。」
「――無駄口を叩くなベラル。お前は指示通り、使えそうな人員を保護しに行きなさい、不消の名に懸けて。」
「分かっていますよ我が君。更生こそ、魂炎がお示しになられた唯一無二の我が天命……。」
「その通りだ。期待しているぞ。」
「はっ……」
不遇だな。今更、如何に私に媚びを売ろうとも、貴様の評価や立ち位置は変わらない。……それに加えベラル。お前の能力ではどう足掻こうとも、奴らに及ばない。明白なのだ。我が隊主力の四先導手は、全員が紅炎から上がり、類い稀なる才能と高い判断力、生存能力を有しながら、歴代の隊長格と比較しようとも、一線を画す火力を持つ。言うなれば、今こそが黄金期なのだ。貴様も確かに優秀では有るが、時代が悪かったな。
『戦闘配置』 右から。
・右翼激戦区4部隊+1人
一番隊隊長 赤きアイザック
三番隊隊長 巨漢ゴードン
九番隊隊長 神速のダンテ
十番隊隊長 狂犬ブレンドン
大統括 ネオ
・中央援護戦闘3部隊
七番隊隊長 無慈悲なダネル
六番隊隊長 癒しのセリーヌ
四番隊隊長 義手付きコーネリアス
・左翼支援戦闘2部隊
五番隊隊長 神父ヒラリー
八番隊隊長 不消のベラル
・拠点防衛部隊
二番隊隊長 未知のギルバード
「しかし、あの四人に引けを取らないネオ様は化け物でいらっしゃるようで。あの死線の中、全体の戦況をも見通して戦っているのだから、いやはや流石はグスタフ様の娘君だ。しかりと魂炎の血を継いでいらっしゃるようだ。」
――或いはお喋りなだけか。
「……さっさと行ってきなさい。」
「いえ、狙っていた新米は先程ばかり啄まれました。これは私の不徳の致すところですが、気を取り直して、残りの者の実力を様子見しているところであります。この見晴らしの良い天守から。」
「そうか……。」
ふざけた奴だ。しかし、私に物怖じしないその性格は、評価してやろう。