アルデンハイド百人隊の喜劇 承
{斜塔街第六層某所・某日)
「父さま。その箱は例の。」
「そうだ。これが、嵐の砦制圧のカギとなる。」
陰湿な実験室の一角にある、真っ白い箱の中に敷き詰められているのは、金属で出来た筒状の何か。
「結合器と言う。中には冷凍されたエレキスライムの心臓が入っている。丁重に扱いなさい。」
「はい、父さま。」
筒の中を覗けば、ひんやりとした固形物が敷き詰められていた。筒の両端の穴は、拳を通せるほどの大きさだ。そして筒の側面には、グリップの効いた取っ手が付いている。
「父さま。それは?」
「切断されたばかりのゴブリンの腕だ。構造としては同じことが起きるはずだ。これで不具合が無いかを確かめる。」
「不具合ですか……。」
そういうと男は、液体に浸かったゴブリンの腕二本を瓶から取り出し、結合器と呼ばれる筒の中へ刺し込んだ。
「対象をセットしたら、ロックする。それから熱を使い、中にある心臓を解凍させ、結合物に反応が有れば起動させる。」
スイッチを入れた瞬間に、バリバリと言った音が発生し、ゴブリンの両腕は素早い速度で握っては開きを繰り返しながらバタバタと動き回る。
「単純かつ複雑でない動きしか出来ないが、無論充分である。我々はこれを使いフォートレスの居住区へ侵入し、忌まわしき罠を破壊、唯一可能とされる内側からの開城を目指す。」
「父さま。本当にコレが無くては制圧が出来ないのですか?」
「そうか。まだ教えていなかったな。フォートレスの罠が何故ハーピーには無害なのか、それはあの羽に含まれる特殊な魔法回路が通行証の役割を持っているからだ。フォートレスは外敵か否かを回路を持つか否か、そして飛翔するものか否かで判別している。」
「そうだったんですね。」
フォートレスのトラップは魔法を弱体化させ、精神汚染を起こすものだと聞いていた。すなわち、全身が切傷だらけのまま、ヘドロの中を泳ぐようなものであると。しかし仕組みが分かれば攻略も案外容易そうじゃないか。しかし、どれだけ知識を蓄えようとも、力を持とうとも、この不安は一向に拭いきれない。
「父さま。私は上手くやれるのでしょうか……?」
その言葉に男は、父グスタフはこう返した。
「それは不要な感情だ、ネオ。……お前は、新時代の開拓者となるべくして産まれた。お前が道を切り開くことは、それはこの世界の必然。自明の理となる運命。お前はただ、進めばいい。我が一族の教えのままに。」
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{第25層・シャングリラ}アルデンハイド第二強襲連合隊。
『――各隊、進めッ!!』
歳も容姿も関係無い。私は強い。圧倒的に強い。
『――我が名に集う炎の奴隷よ。余さずその身を焦がさんと欲せ。』
全隊が交戦せんと力を放つその瞬間。戦いの中、生存の為に力を欲するその刹那。互いに親和性の高い炎魔法を空間的に結合させて増幅させる魔法が有る。
『――炎蜥回帰・魂炎陣!!』
ここを中心として広がる領域は、空気中から炎を生み出すことを可能とし、その限界はここにいる全ての魔導士の限界となる。これが代々受け継がれし、アルデンハイドの総力戦体制。これ故に我らがあり、これ故に我らであり、これ故に我らはこの塔の帝王たる地位にいる。
『全隊、死ぬ気で狩り尽くせッ!!』