アルデンハイド百人隊の喜劇 決起後
「やっと来たか………」
ボロボロになったルカがそう言った。もう辺りは暗くなり、湖では内壁で増幅された月の光が煌びやかに反射していた。しかし今宵は、昼より明るい世界になるだろう。大ゴンドラの扉が開き、続く道は屋根のある場所。作戦は全て上手くいっているらしい。
―――――――
{第25層・シャングリラ『アルデンハイドの一夜城(ゴンドラ入口と接続)』}
各隊の先導手は疲れ果てた顔の蒼炎たちと顔を合わせる。
「待たせたなルカ。カイルは生きてるか?」
「あぁ、外でまだ暴れてるさ。」
前衛である紅炎が防人をしながら、後衛である蒼炎は、創造士としての役割を持つリステスボンを中心に拠点を築いていく。すなわち、幹部が無事であるならば、ここに総勢103名の百人隊が集い、籠城しているということになる。
一番隊隊長 赤きアイザック 紅炎 竜炎ジーナ
蒼炎 炎杖アイザック
二番隊隊長 未知のギルバード 紅炎 未知のダーマ
蒼炎 未知のメリタ―
三番隊隊長 巨漢ゴードン 紅炎 巨槍アルデスボン
蒼炎 巨杖バソー
四番隊隊長 義手付きコーネリアス 紅炎 義指のショッケラ
蒼炎 祭司ルクソー
五番隊隊長 神父ヒラリー 紅炎 豪腕ガリオス
蒼炎 蒼指キケロ
六番隊隊長 癒しのセリーヌ 紅炎 炎薙刀のクライス
蒼炎 杖者リュカイエ
七番隊隊長 無慈悲なダネル 紅炎 火鞭ジュテルテ
蒼炎 終焉のムラトー
八番隊隊長 不消のベラル 紅炎 大鎌ジャック
蒼炎 黄金のジュラ
九番隊隊長 神速のダンテ 紅炎 絶剣カイル
蒼炎 深淵のルカ
十番隊隊長 狂犬ブレンドン 紅炎 破壊槌メスデスボン
蒼炎 修復者リスデスボン
……籠城と言うには少し簡素だが。
「そうか、まぁ後は任せろ。」
ルカはいつもと変わらないポーカーフェイスだ。常に冷静沈着、意気自如として落ち着き、頭も切れる。正直、先導手の何人かはルカを見習うか、その席を譲っていただきたいくらいだ。
『定刻よしッ!――各隊、紅炎を後退させ、先導手、前衛職各位は前線を変われッ。今夜は奴等を寝かせるなッ!!』
ネオの号令と共に、血気盛んに万全を期した六十人が、ドッと、動く。
「クソガキ。」
「おっっと、おっと。ルカ。口が悪いぞ。思ってても声に出すな。」
明らかにネロへの悪態だ。
「分かってる。実力は本物。」
大半の奴らは気にしないが、ネロを未熟と考えるものも少なくは無い。特に隊の頭脳となるような奴は、ネロの指令や判断能力には懐疑的であったりもする。
「それよりもダンテ。」
「なんだ。手短に頼むぞ。」
「ケニーが逃げた。」
「……そうか。」
「うん。」
ポーカーフェイスが裏目に出ている。
「……以上か?」
「あと、アムスタが死んでた。」
「……おい頼むよ、一番期待してたのに。」
「うん。」
アムスタ・シュペルダム。生きていれば間違いなく蒼炎へ昇格していただろう。こういう大遠征では少なくとも2人は幹部が死んでいく。枠が空けば推薦を考えていたが、死んだ。しかし死ぬということは、そこまでだったということだ。ずば抜けた才覚が有るとは思っていたが、どうやらこの目も、狂ってきたらしい。年かな……。
「はぁ…、アムスタ。可哀想に。――ケニーは、まぁいいや。殺してきなさい。彼くらいなら普通にダンジョンで死んでいても可笑しくはない。それに、もし戦いが長引けば厄介なことになるからな。」
「お前が行けよ。」
――おまッ、え、が行け!?
「いや、その今から出陣だし。……あ、後で何か買ってあげるからさ。」
小声で耳打ちするが「約束な。」と返される。クソッ、たかられた。恐らく計画だったのだろう。いや、元はと言えばお前の失態だからね?
「じゃあ頑張って。」
「はいはい。全く、……君もな。」