アルデンハイド百人隊の喜劇 決起
{第15層『崩壊した炭鍾洞前(元C4・安全地帯セーフティーゾーン)』
その瓦礫の奥・・・・
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{第15層『崩壊させた炭鍾洞内部『――現・アルデンハイドの前哨基地』
領主オーガスタス=アルデンハイド
副領主グスタフ=アルデンハイド
大統括ネオ=アルデンハイド
一番隊隊長 赤きアイザック
二番隊隊長 未知のギルバード
三番隊隊長 巨漢ゴードン
四番隊隊長 義手付きコーネリアス
五番隊隊長 神父ヒラリー
六番隊隊長 癒しのセリーヌ
七番隊隊長 無慈悲なダネル
八番隊隊長 不消のベラル
九番隊隊長 神速のダンテ
十番隊隊長 狂犬ブレンドン
構成員+70名
アルデンハイド百人隊 総計83名
「殺すぞ、ブレンドン。」
「…………」
「ほほ、止め給えゴードン。怒りとは罪深いものである。分かるだろ?」
巨漢のデブが脂肪の詰まった太い声でそう言い寄るのを同じ体躯の男が無視し、それを聖職者のなりをした狂人が宥めている、いつもの光景だ。しかし周りの奴等も、いつもより、よくザワついている。
「ベラル、テメェの顔をまた見れるとはなぁ。」
「――これはコーネリアス。次は義足が御所望かな。」
「テメェ!!」
「や、やめましょう……?」
馬鹿ばかりだ。
「おやおや。こうやって集まるのも久しぶりじゃないかぁ、なぁダンテ。この機会だぁ、なぁ、君の所の"深淵"をそろそろうちにくれないかなぁ?」
ここは……、ダンスホールには暗すぎる。しかしパーティーでも始まるのかと言う程に、空間は高揚していた。この見慣れた老け顔の腰の曲がった男も、いつにもまして調子が良さそうな顔をしている。何故なら二割増しくらいで気味が悪い為。
「ダネル。お前とベラルの部隊は外れだとよく聞く。何故だか分かるか?部下を見る目が無く、お前自身が先導手として無能だからだ。」
「ンフッ……、おやおや。いつにもまして手厳しいお言葉で」
ダネルは不敵に笑いながら身を引いていく。ボロボロになった歯がよく黄ばんでいた。
「しかし聞く話によればぁ、どの隊も今年は豊作だそうじゃないか。どれだけ25層で生き残れるか、クフ!!……楽しみなところで。しかし、あれもこれも情報を漏らさないで進めたギルバードの所業あってこそ。擬態とはさながら蜥蜴の、」
臭い息を避けると、トントンと、前方の台に上りゆく褐色の女が目に写った。
「ダネル。口を閉じろ。」
確か、彼女は二回目だ。
『――魂炎の奴隷共ッ!!、――よく聞けッ!!!」
場は一瞬にして静まった。仄明るい炭の洞窟に反響する声は、率いる屈強な探索者たちとは対照的な、小さく幼い少女のものである。しかしその声は、この暗闇に吸い込まれることもなく、我らがアルデンハイドの魂を貫かんばかりに訴える。
『今日、この日の為に費やしてきた全てが、栄光の名の元に収束せんとしているッ!!……全ての犠牲、全ての叡智、全ての歴史がッ、今日この日の為に報われんとしてるのだッ!!』
そして少女は続ける。栄光ある偉大な血の騒ぐままに、幼きその喉を震わせる。
『何時であろうと、この飽くなき探求心は、我らが血を滾らせる。そして我らが先人たちは、同胞たちは、強大な未知の前に、しかしながら屈していった。苦渋を舐め続け無様にも死んでいった。栄光の日を迎えられずにッ……。無論、この強大な未知は、ダンジョンとは、栄光ある開拓を拒む、崇高なる探求を虐げる、モンスターであることに相違はないだろう。』
二回目にしては手慣れたものだ。それはその血がそうさせるのか。
『――では、ここに問おう!!――今ここに居る同胞もッ、我らが家族もッ、我らが力もッ、我らが魂もッ、我らが先人たちのように、強大な未知を前にし、無様な死体の末裔として呪われ続けるかッ!問おう!!戦いを拒みッ!誇りを捨てッ!このダンジョンに屈するかッ!!』
一拍置いて、少女は叫ぶ。
『否であるッ!――何故ならばッ!!これは、約束されし鎮魂の戦いであるからだッ!!』
少女の声に、隊員は呼応して叫ぶ。高まる士気と共に、割れんばかりの喝采が闇に反響する。それがどれだけ愚かであろうとも、どれだけ崇高な行いであろうとも、同じ昂ぶりのままに、人は死に急ぐのであろう。そうさせるのが、君の仕事だと言うのなら、残酷なものだと感じてしまう。
『『―――ウオォォオオオオオオオォォォォ!!!!!!!』』
『十番隊より、全隊……。進めッ!!』
『『 サ ァ ー ッ !! 』』
大統括ネオ=アルデンハイド。齢11になるグスタフの娘。我ら百人隊は、その少女の号令と共に大ゴンドラへ乗った。先に潜った幹部20名を合わせ推定103名。何人かは生き残りの新米がいるだろうが、負傷兵であろう。期待は出来ない。しかし何人残っていようと、この作戦の趣旨は一貫して変わることは無く、完遂されるか全滅するまで続いていく。それは【第25層、制圧の為の波状攻撃】
――そう。我々アルデンハイドは今、絶命領域である深層への探索を飛躍的に発展させる、第二の地下街を開拓せんとしているのだ。無論それは、例えどれほどの犠牲を払ったとしても、達成されるべき進歩であると信じている。