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②オクタノギルド本部館


「紙面の通り、ヴズールの村での殺人事件です。依頼主はこの村の村長様で、報奨金は結果に応じて渡されます。目撃者があのテーブルに座っている彼です。今から旅立つそうなので、話を聞いていかれてはどうでしょうか?」


 ナップザックを背負い靴紐を結んでいる男を指差し、

 ギルドの番台係が俺に耳打ちをした。


「しかし、無残な死体だったそうなので、気遣ってあげて下さいね?」


 分かってるっての。


―――――――


{近隣八つの村の連合組合・オクタノギルド本部宿}


 ここらの売買取引は物々交換が基本となっており通貨は普及していない。

 そこで次の街へと向かう費用としての小遣いを稼ぐ為、

 俺たちは久しく普通にクエストを受けていた。

 アルクは大分落ち込んでいた。

 トレーダーとして屈辱だとか何とか言ってたが、

 トレーダーならこんなルートで大陸を歩かないだろう。

 そう、お前の本職はトレーダーじゃないのだ。

 すまんね冒険者。


「プーカ、余計なこと言うなよ。」


「ヘイヘイへへへへっ、ヘモグロビンは~、真っ赤な血~♪」


――クソガキめ。


「こんにちは。」


 俺の声を聞き一瞬肩をすぼめた男は「やぁ」と挨拶を返した。

 いたって普通の好青年といった感じ。

 しかし、寝不足感のある大きなクマをぶら下げている。


「近隣の村で起こった殺人事件に関するクエストを受けた冒険者です。単刀直入に言いますが、無理なく話せる範囲で何が起きたのかを教えて欲しい旨。」


 そう言うと男は、

 また一瞬肩を震わせると、

 露骨に嫌な顔を見せて返した。


「へ……、へえ、珍しいね。こういったクエストを受けるような冒険者は、大体金をふんだくるのが目的の詐欺師だっていうのに、だから報奨金は村長委託の信用払いになったんだろ、もし仮に犯人を見つけても、村長側が支払いを拒否することだって有る。その、み、都の自警団が来るまでは、関わらない方が身のためだよな普通、互いに……。」


「そして、遠い都からやる気の無い自警団が到着した頃には、証拠は消え去り事件は泡と消える。酷い惨状だったとは聞くが、誰かが助力することで変わる問題も有る。それが俺たち冒険者所属証ライセンスホルダーと、ならず者との"些細な"存在意義の差です。信用払いは確かに好きじゃないけど、多くの場合においても信用がなきゃ仕事は始まらない。」


「そうかい。ただ"そういうこと"だけじゃ、……無いんだけどな。」


 ヘラっと引きつった笑いを浮かべ、

 男は俺から目線を外した。


「その。。。死体は惨殺だった。胴体に三本の大きな裂傷と噛み傷、そして頭部が無くなっていたんだ。ハッキリ言って、アレは人間の所業じゃない……。」


「人間の所業じゃない?」


 男は青ざめた顔のまま続ける。


「あぁ。出血と服の形状で判別が難しかったがあの裂傷は間違いなく、人狼の仕業だ……。」


「人狼……?」


「そうだよっ、だからアンタらにはどっちにしろ事件は解決できないって言いたいんだ。単刀直入に伝えればな。……だから自警団を待つしかないが、その頃には村人は誰一人として生き残っちゃいない。……だから僕は逃げるんだ。この時期の人狼は、何人食っても食い足りないはずだからな!!」


 なるほど。

 現地には早めに向かう必要が有りそうだ。

 使い物にならない扱いをされている現状には不満だが、

 これは難儀な話で、

 今聞いた証言がギルドに伝われば、

 頼みの綱であるこのクエストがおじゃんになる。


 そうなれば俺たちは、

 これから暫くは腐った肉で腹を満たしながら、

 互いの機嫌と便秘がアルマゲドンしている旅路を進むことになるだろう。

 そうなればユーヴサテラは解散の危機である。

 それだけは避けなくては。


「分かった。人狼と分かれば直ぐに村を捨てて逃げるさ、ただ俺たちは...」


「――い、命が無いぞっ!!僕は生物研究者だから分かるっ、紛れ込んだ人狼は一人じゃない!! 足跡を見たんだっ……!!」


 それが事実であるならば厄介な話だが……。


「ただ俺たちは。――今、この場から去ろうとしているあんたも当然疑っている。」


 俺がそう話すと、

 プーカがにやっと笑い、

 男を指差した。


「犯人みっけ!」


「やめなさい。……まだ八割くらいしか怪しくないでしょ……。」


「――そんなに怪しんでいたのかっ!!」


 男は驚いたような声色で言った。


「当たり前だろ、俺たちが調査をせずに得するのは偽善者と犯人だ。ならば必然、俺たちから村を遠ざけようとするアンタも大概怪しい。」


「な、それも、そうか……。」


 俺は適当に男の手を取り、

 握手を交わし、

 勢いまかせに話を続ける。


「ってことで協力どうも、俺達はもう出るとします。まぁ、あんたに関しては本当に生物学者かどうかを洗えば白が出そうだし、本音を言えばあんまり疑っちゃいない。情報どうも。それじゃあまた会えたら。」


 時間が無いのは事実である。

 残りの村人の安否も分かっていない。

 俺は男に手を振ってすぐさま踵を返した。


「ま、待ってくれ無名の冒険者。名前だけでも教えてくれないか。せめて僕は君たちの無事を祈りたい。」


 そういうと男は黄金色をしたリングのネックレスを取り出し、

 そいつにキスをして屈んだ。

 神なんかに頼るつもりは毛頭無いし、

 知らない神に祈られても重たいだけだが、

 こういった一期一会の厚意は受け取っておくべきだと感じる。


「クラン・ユーヴサテラ、ナナシ。こっちはプーカだ。」


「そうかい。」


 男はニコリと笑い目を閉じて言った。


「クラン=ユーヴサテラ。あなた方に祝福を、どうか神の御加護が有らんことを……。」


「――よかろう。」


 プーカが腕を組みながら裏声で言った。


「黙ってなさい……。」


 男は驚愕した顔をパッと見せる。

 彼の癇に障ったか……。


「――おぉ今、神の声が聞こえましたッ。あなた達は死なない!!無敵だッ!!」


「はは……。や、やったぁ。」


――本当に学者かコイツ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 プーカはそれを聞き、咆哮をあげる。

 大丈夫だろうか。

 罰は、当たらないよな?


「フンス!レッツゴーナナシ!人狼村ゴー!」


「あ、あぁ……。」


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