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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第23譚{斜塔のダンジョン 下層}
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㉚解禁、メセナの白魔術。


 ソフィアは短剣ダガーを構え、テツは臨戦態勢を告げるように銃のコッキング音を響かせた。


「……一体、何が起こってるんだ。」


 ソフィアの困惑した声色を聞き、テツが言葉をかける。


「どうしたの、ソフィア。」


 ソフィア以外はてんで状況を理解できていなかった。


「匂いだ。獣人の匂いがする。」


「獣人…?」


 テツは辺り警戒し続ける。しかしダンジョンは俺たちの死角から唐突に牙を向いた。


『上だ!』


 リザはそう叫び、短剣を頭上へ構えた。ソフィアの視線の先、俺もその匂いの正体と視線を交わす。それは全身を白い体毛で包んだ。ゴリラのようなオークのような、ドデカい巨人であった。


「……ダニーだ。あ、あれは、…20層以降に居る筈のイエティだよ。」


 メセナも困惑した表情を浮かべた。そいつは天井に貼り付くようにしがみ付き、赤い眼を光らせながらジッとこちらを見つめている。


「テツ。向かってきたら躊躇なく撃て。」


 ソフィアはそう命令し、メセナに隊を先導させるよう、指で誘導した。天井にも掴まれるイエティと、少ない足場で隊列を成す俺たち。状況は圧倒的に不利である。


「ゆっくり進め。ナナシは前衛を警戒、テツは真ん中で全員をカバーしろ。それと、これから先は一瞬たりとも気を抜くな。他にもいるかもしれない。」


「行こう。」


 メセナはゆっくりと隊を引っ張るように進み始める。


「無法地帯だと思った方が良いね。ああいうイレギュラーなモンスターがいるとダンジョンの秩序が崩壊するんだ。モンスターたちが敷く暗黙の了解が破られ、敵も味方も全てが神経質になる。でもこんなの、滅多に起こることじゃない。」


 そう言って4歩、5歩。歩き、細道の突き当りを曲がった所で、今度はメセナが歩みを止めた。


「や、やあ。……機嫌はどうだい?」


 メセナは仁王立ちするダニーに遮られていた。


「は、はは……。かわいいペッドだね…。斜塔白狼シャトーハクロウって言うんだナナシ……。ここの固有種。」


「メセ、……ナ、・・・?!」


 メセナは困ったように笑っていた。


「――全員走れェ!!」


 瞬間、ソフィアは叫び。頭上にいた初めのダニーは爪とヨダレまみれの牙を剝き出しにしながら、自由落下の勢いままに向かってくる。


「リザ!!」


 俺はプーカのリュックの後方にいたリザに声を掛ける。彼女は既にバースで仕入れた剣を取り出し、俺に投げつけた。


「進むぞメセナ!!」


 状況は後退した方が楽そうでは有るが、賽は既に投げられている。動きを統一する為には倒して進むしか無い。


「こっちも渋滞だっての!!」


 メセナは杖を取り出し、同タイミングでテツは後方のダニーへ狙撃する。隠密作戦用サプレッサー付き単発ライフル。裏目に出たな、既に囲まれている。


『――パシカル!!』


 一振りされたメセナの杖からは、白カラスの形を成した魔力が飛ぶようにダニーへ直撃した。{白魔法系基礎魔術・パシカル}杖から出される一般的な魔法では有るが、メセナのそれは遥かに威力の高いものであった。その破壊力の前にダニーは吹き飛ぶように崖へと転落していく。


「すげぇ……。」


「――偶々(たまたま)だ。行くぞ!!」


 メセナは低出力のパシカルを無詠唱で放ち、目の前の脅威を排除しながら押し進むように走っていく。一方俺はアルクを背負いながら、渡された剣を一振りもすること無く追従していく。後方、ソフィアの方は苦戦気味だ。近距離戦で防戦を迫られている感じが有る。しかしそれほどまでに、後ろのダニーの動きも激しく、振り切れずにいた。そしてテツも一向にカバーを狙えない状況が続く。


「メセナ下だ!!」


 俺の視界に移ったのは落した筈のダニーであった。斜め後方、断崖絶壁の奈落から猛烈な速度で這い上がってくる。


「ゴキブリかよ!!」


 メセナはそう言いながら{魔弾}と呼ばれる単純な球体状の白魔法を前方の岩へと放った。そしてすかさず魔法をかけ、砕けた岩をフワっと宙に浮かばせる。


「ほらよ!」


 質量と同時に、その物体に魔素が多く含まれているかも、単純浮遊魔法においては重要な要素となる。メセナは地面付近に点在する岩の突き出した角であったり、石で有ったりを浮かばし、壁に貼り付くように登り迫るダニーに対し、ふるい落とすように岩石をぶつける。ダニーは岩石を顔にぶつけられ一瞬間怯み、その後は全て器用にも、登りながら左手で掃っていく。


「ら、埒が明かない……‼――アルク君、同じことが出来るか!?」


 メセナは走りながら振り返りそう聞いた。


「す、少しだけなら!!」


 そう返すとアルクは杖を取り出し、ゆらゆらとさせながら震わした声でモゴモゴと何かを唱え始める。


「ワ・レンカイナ・イタクリキンテナム……」


「え、詠唱すんの!?」


「――うるさいなぁ!!」


 崖下の白毛のイエティは鬼のような形相で、素早く手足を動かし目前まで迫り来る。


我が望みに答えよワレンカイナ我が言葉を捧げん力リィタクリキンティナム……我が意志のままにデ・レンカイネ!!」

 

 アルクの詠唱に応えるように、転がった石の一つが浮かび上がり、ダニー目掛けて飛んで行った。あんだけ長い詠唱で、たった一つだけ。。。


「お前それ適当だろ!」

 

「これが全力で、限界だよッ!!」

 

 それを見たメセナは両手の指を合わせ、


「上等だ!!」


一瞬間飛び上がりながら振り返り、俺の知らない魔法を唱えた。


『――天空の息吹カンブレス!!』


 白いベールに包まれたメセナの魔法がいま、発露する。


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