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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第23譚{斜塔のダンジョン 下層}
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㉙この異変


 大したことは無い、小さくなるだけ。キャラバンは鈍く光り、カタカタと音を立てながら、レンガが1ブロックずつ凹んでいくように、或いは収納スペースが広がる家具のように、カタカタカタカタ、畳まれ、折られ、凹み、小さくなっていく。大きさは小さな冷蔵庫位だ。無駄に車輪のようなものが着いてはいるが、形状はナップザックのそれである。木製ではあるが。


「嫌だぁ~、持ちたくない~。」


 コンパクトになったとはいえ、見た目がナップザックになったとはいえ、重量はほぼ変わらない(500kg~1t)。つまりこれを持てるのは、我らが運搬車ポーターのプーカしかいないのだ。


「参ったな。これが無いと鍋が出来な……」


「――任せてよ!!!」


 ちょろい。



――――――


{第17層・『賢者の修行道』


 感覚的には、洞窟と言うよりかは谷だ。洞窟ほど暗さは無く、狭さも無い。寧ろ適度に開放的であり、曇っている時の登山のように、光度も申し分ない場所。岩肌は確かに、刃のように鋭利に欠けた所も有るが、基本的には普通に掴める。道は狭い、段差はキツイ。キャラバンでは通れなかっただろう最短ルートを俺たちは進んでいく。


「ここらでは赤い鉱石がよく見られるんだ。その中でも魔素を多く含み、本当はダメなんだけど、夜に訪れると一際キラキラと光を放つ魔石が存在する。」


 俺たちは変幻自在の命綱{リリーズ}を掴みながら、メセナの話に耳を傾ける。


「ほら、あそこに有る。」


 ふとメセナは10mほど先の天井へ指をさし、言葉を続けた。


辰砂しんしゃの魔石。別名を賢者の石と言う。他にもルビーだとかレッドガーネットだとかっていう魔石も見つかるんだけど、辰砂の魔石はここらでは断トツで多いね。昔はあの石を取って来れたら一人前の魔導士として認められたっていう話もあったくらいで、今でも大杖の武器職人にはよく売れるし、よく作られている。」


「市場では、賢者の杖は安いものでも20万イェルは下らない。」


 アルクが息をハァハァと荒げながら、そう呟いた。


「ウハウハだな。」


「ハァ……、最高だね。」


 今のは皮肉である。俺たちはあの魔石を持って帰らない。


「でもいっつも取りづらい所に有るんだ。取りづらいから取られていなくて、目視出来ているのかもしれないけど、いっつも惜しい気持ちになるんだよね。でもこの先もああいった魔石は沢山有るから、運が良ければ足元に落ちているかもしれない。まぁ、足元に落ちていたら、先頭のソフィアが見逃さないと思うけどね。」


 ソフィアのペースはとても速かった。時折先に降りてはリリーズを引っ掻け命綱を張り、先で道を塞ぐ落石や、岩に化けたモンスターは目に映るなり排除していっている。ふと立ち止まり、壁を見ながら俺たちを先に行かせた時には、遠目では分からないほど器用に擬態した、3mほどのゴーレムを睨みつけていた。


「同じ出生、同じ生い立ち。同じライセンス。何処で違えたらこんなに差が開くのかね。」


 メセナは笑って溜息を吐いていた。


「謙遜すんなよマスターシーカー。あんただって強いんだろ?」


「何言ってんのさ。私なんて味方にバフかけて、リーダー名乗ってキャリーして貰ってただけだっての。気付いたら功績がけが積み重なってもう、トントントンと、とんとん拍子に。チャランポランンだよ。」


――ウソつけ。


「まぁ、無駄話も程々にしよう。ちなみに鉱石の話は無駄話じゃないから忘れちゃだめだぞ。私がしたかった話は引き続き鉱石の話だからね。」


 俺は段差から降りるプーカを支えながら、メセナの話を聞いていた。隊列の順番は前から、ソフィア、マーヤ、テツ、アルク、メセナ、俺、プーカ、リザ、となっている。前後で戦力がバラつかないような構成だ。


「何故かって?ここらで重要なのはその鉱石なんだ。」


 メセナはペラペラと話しながらも、息を荒げることは無く、淡々と下っていく。


「実は赤い鉱石が多いのはここらだけ、すなわち16層付近。逆に20層付近になれば青い鉱石が増えてくる。つまり第19層に居るっていう目印だね。この鉱石の変わり目は存在するモンスターの変わり目でもあるから、生態系が入り混じる層間の境界線は、モンスターの活動が活発になる。今さっきの岩のゴーレムだって、第17層に侵入しようとするモンスターをターゲットにしていたはずだ。だから、斜塔街のベテランたちによく言われていることは……」


――眠いな。


「言われていることは……」


 振り返ったメセナは俺の欠伸をチラリと見て、話を止めた。


「もういい。」


 拗ねた。


「ごめんって、聞いてるよ。」


「本当に?」


「あぁ、もちろん。マスターシーカー様の貴重なお話なんだ。聞き逃すワケないじゃないですか。」


「本当に?……アルク君、どう思う?」


 メセナは前に向きなおすと、肩で息をするアルクに話を振った。


「ごめんなさい。僕、自分のことでもう、へぇ、手いっぱいで……」


「あぁ、そうかい。それならいいや。――あと、大丈夫かい?君はもうちょい運動した方がいいのかもしれない。」


 後ろのプーカは「鍋♪鍋♪」と口ずさみながら飄々と降りてくる。最後方のリザも、リュックから顔を出したエルノアと、イチャイチャしながら意気揚々と歩いていた。こうやって並んで歩くのは久方ぶりだ。つまり気は抜けないわけだが。キャラバンの時とは違った一体感も、そこに有った気がした。


「じゃあ続けるね。すなわち、どれだけ長いなぁと思っても私たちは進んでいる訳で、赤い鉱石が無くなり始めたら、それが進んでいる証拠な訳で、赤い鉱石が完全に見えなくなったら私たちは18層の到着に喜んでしまうかもしれないけれど、安堵してしまうかもしれないけれど……」


 唐突にソフィアが止まり、隊の進軍が止まった。それでもなお、メセナの口は動き続け、最期まで言葉を口にした。


「そういう時こそ、気を抜くな、って事なんだよねぇ。……ん、どうかした?」


 周りからは赤い鉱石の一切が見えず、代わって視界にはアメシストのきらめきが微かに映った。同時にソフィアは短剣ダガーを構え。ふっと息を整えて言った。


「……一体、何が起こってるんだ。」

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