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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第23譚{斜塔のダンジョン 下層}
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㉗境界を越える者〔イクス・ホライゾン〕

第23譚{斜塔のダンジョン 下層


『――グヴァ˝ァ˝ァ˝ァア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!!!!!」


 けたたましい一つの叫び声に呼応し、炎蜥蜴竜アルデンハイドは、その鋭い眼光を一斉にソフィアへ向けた。そして次の瞬間、躊躇の無い炎のブレスが柱を立たせるように吹き出され、一点に向けられる。標的であるソフィアそれを横に回避し、炎蜥蜴竜アルデンハイドたちが作る炎の柱は空間を裂くように、酸素を巻き込みながら横へと追従するように薙いだ。ほとんどのブレスはソフィアを追うように、しかし幾つかのブレスはソフィアの動きを先回りするように動いていく。十本、二十本、数多の竜から断続的に吐かれる火炎は、一切途切れることは無く、少なくとも5本以上のブレスがソフィアを追っていた。ブレスの威力も強力なものであった。俺たちは高まる熱気を感じながら、ただ茫然とそれを見守っていた。


「メセナ、岩が砕けたぞ、ブレスで!」


「そう興奮するなよナナシ。」


 隣のメセナは落ち着いた表情で戦いを見ていた。ソフィアの動きは軽快だ。アリの巣のようなコロニーを時計回りに駆け回り、炎のブレスもグルグルと火の輪を作る様に回っていた。そしてその輪は徐々に狭まっていき、火力が徐々に落ちていく。


「しかしすげぇ数だ。ゴキブリみたいに出てくる。」


 強靭な鱗を持ったその火竜は、全体を俯瞰で見れば何ら違和感のないものであったが、角度が少し変われば、相対的にかなり薄っぺらいものであった。外観は中々に無骨で威厳を感じるフォルムをしているが、数が集まれば話は別だ。まるで気色悪い。


「岩の下に穴倉が有るんだ。連結するそれらはアリの巣のように展開されていると言われている。本来は複数人で戦うような敵さ。それも実は、戦闘を避けるやり方がポピュラーだったりもする。一人ならまず敵わないだろうね。」


「ダメじゃんか!」


 心配とは裏腹に、機をてらったかのように、ソフィアは円状に駆け回るのを止め、垂直に進行方向を切り返し、下りながら岩を蹴って、弾むように飛んだ。無論人は飛べない。遠距離攻撃を持つ生き物にとって、羽を失った鳥を堕とすが如く、恰好の的となってしまう。


「――マズい。」


 咄嗟に言葉が漏れ出た瞬間、メセナも漏らすように「へッ」と笑い声をあげた。直後、飛翔したソフィアへ向け、ブレスよりも速い"火球"が、ソフィアを撃ち落とさんと放たれた。しかし、瞬間ソフィアからは光線のようなものが無数に飛び出し、大地を薙ぐようにうねると、火球もろとも複数の)炎蜥蜴竜アルデンハイドの胴体を両断してしまった。


「今、何が……」


「――何って、ソフィアの武器さ。」


「武器?」


 ソフィアが持っていた武器はあの短剣ダガーだけだった。魔法も使えるとは言っていたが、魔法にしては予備動作が全く見えなかった。


「あぁ、そうさ。」


 やがてソフィアは身体を捻りながら着地を決め、落ちた火球で爆ぜた地面を背中に、ネストの中央部へゆっくりと歩き始める。


「アレはねぇ、ラインズ家が受け継いできた、正しく伝家の宝刀。いや宝剣と言えばいいのかな?どちらか知らないけれど、扱う者の力量によって、その性能はD級からS級にまで化けてしまうこのダンジョンみたいな短剣。」


「今のが、短剣……?」


「かの家に受け継がれしその武器の名は、確か…{境界を越える者(イクス・ホライゾン)}。ただ伸び縮みするだけの短剣さ。我々にとってはね。」


 ソフィアの握る短剣は最小値から、地を抉るほどの長さまで、瞬く間に伸縮し敵を薙いでいく。正にその能力はただの伸縮自在の短剣というに留まっている。しかし、戦場で駆けるソフィアが振るうその一太刀は、まるで破壊光線のように軽々しくネストを蹂躙していく。


「いつ見ても凄いね。久々に見たけども凄いね。ラインズ家はあの短剣で代々"死線"を越えてきたんだよね。文化遺産だね、人間国宝だね。あれがマスターシーカーなんだよね。私なんて毛ほどにも及ばないよね~!!」


 メセナは興奮した様子で嬉しそうにそう言った。だが俺も何か、やばいものの片鱗を見ているような気気分に飲み込まれている。それは、隣にいるチャランポランタンとは比較にならないほどの狂気的な強さ。


「そろそろ決めると思うよ。」


 メセナは屋上の伝声管パイプから運転席のリザに聞こえるように声を発した。長年の付き合いからか、戦況から見据えたのか分からないが、ソフィアは短剣を横に一薙ぎし、あれた地面と飛び上がる砂塵の中を一瞬にして距離を詰め、黒い砂埃舞う視界から、30メートル先へ一筋の光を刺し込み、そのままそれを両手で引っ張り、向きを変えて、岩を使ったテコの原理で持ち上げた。


「よく折れないな……。」


 メセナは感嘆したが、驚くべきところはそこではない。ソフィアがモリのように刺したその先、オメガトロールに匹敵するほどの巨体を持つ、特大の炎蜥蜴竜アルデンハイドが地中から飛び出してきたのである。それはもはや蜥蜴トカゲという言うには無理があるほどに肥えた火竜。その姿が露わになると、短剣を縮小させたソフィアはすかさず横に一閃薙ぎ倒し、一刀両断してしまった。


「……太るから地中に……」


 目を疑う光景だった。これが戦闘を生業とする騎士では無く、ただの探索者だというのである。恐るべしマスターシーカー。


「肝が美味いんだ……煮込み…………ねぇ、……ねぇって、聞いてる?」


「メセナ。貴方は本当に……」


 言いかけた言葉に慌ただしく勘づき、変な声を上げながらメセナは早口で切り返した。


「ぶへぇ!?あ、いやっ。その、お悔やみ申し上げます。こんなんでもマスターシーカです。テヘッ!つって、――失礼な奴だな!!」


 うるさい人だ。キャラバンは足場の悪い斜面を丁寧に下り始めた。第20層C5まで、残り4層。





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