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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第22譚{斜塔のダンジョン 中層}
171/307

㉔残す


「――全員不正解だ。」


 そう端を発し、ソフィアは欠けたルナ・クレイモアの刃先を持ちながら、出揃った説らを一蹴した。


「まずそもそも、この剣は普通だと分からなくちゃいけない。そうだな、……リザ、これは何だ?」


 それからソフィアは、運転中のリザの前に切っ先をよこすと、それを見たリザは「鉄だ。」と答える。


「他には?」


「他には何も無い。見た感じだと不純物を排除した、ただの鉄剣の切っ先。」


「その通りだ。」


 ソフィアは続ける。


「いいか、これが前提条件だ。故にメセナの説は潰れる。」


「――えぇ!?どうしてだい?」


 驚愕するメセナの声を聴き、ソフィアは呆れた様に溜息を吐いて応えた。


「これだから……、百足団子の甲殻はただの鉄剣なんかじゃ切れないんだよ。この剣の刃は元々切れ味が鋭い訳じゃない。叩き潰すタイプの剣だ。用途は例えるならハンマーに近い。この程度の剣で切れたら意味無いだろあんな甲殻。外敵から身を守るに及ばない。そして事実、ナナシは仮にも甲殻を切った。」


「はぁ…」


 落胆するメセナとは裏腹に、アルクがエヘンと笑った。


「ほらね、じゃあやっぱり魔法が掛かっていたんだ!」


「――それも違う。」


 ソフィアはアルクの声をピシャリと止め、指パッチンで親指に火を乗せた。


「事前に魔法が掛かっていたら、そこにいる一流魔導士様が気付かないはずが無いだろ。仮にもマスターシーカーライセンスの、魔法が主体の探索家が、あの甲殻を破るほどのエンチャントに気付かない。……"はず"が無いだろ。」


 メセナの顔を見ると、彼はエヘヘと笑い「まぁねー」と声を漏らした。


「だが事実、持ち出したばかりのルナ=クレイモアには魔法が掛かっていなかった。そしてもう一つの事実、ナナシは魔法が使えない。ではどうしてこうなった。消去法で考えてみれば一応の答えは出る。――"指輪の効果"だ。」


 俺はふと、親指にはめた指輪を見た。何も変化は無い。しかし、確かに身に着けていた。


「おおよそ、最初の一撃で魔力の効果が切れたんだろ。そういうのは魔素を溜めてから使うものだ。なんせナナシは魔力を送れない、それなら効果は続かない。」


 それからソフィアは、感心したようなリザの肩をポンと撫でた。


「いいかいリザ。私はソロだからこういうことも出来ているが、本来なら技術者である君の役目に成って来るんだろう。見た感じオーパーツも上手く扱えているみたいだし、私は専門じゃないから君には及ばないかも知れないが、オーパーツには売ってしまって良いようなものと、そうではない物が必ず存在する。そしてこの先、冒険者を続けていれば自ずとそれに出会うはずだ。そういった悪い価値を持つ未知の物に対峙した時の為に、いち早く解明する力や癖を身に付けておくと良い。それが恐らく、かの黄金の七人隊ゴールデンセブンスで、技術者が存在した意義だろうからね。」


 ソフィアはソロシーカーだが、その実態は複数人行動パーティーをただ否定しているという訳では無いらしい。きっとソフィアは全てを考慮している。シーカーの歴史も、背景も、功績も。きっと考えた上で、ラインズ家が目指した究極に辿り着こうと試みている。たった数日の付き合いだが、彼女の果てしない研究量と努力量が垣間見える。しかし、このダンジョンはそんな人間をも跳ね除け続けた。そういう人を見て来て、そういう場所に立つと、時々思う。ここは魔境だ。


「そろそろ16層だ。」


「おもむろにソフィアは立ち上がる。鍋の食材はメセナと誰かに任せるよ、きっとリザも楽に進みたいだろうし、そろそろ私が戦っても良い。」


「任せるって……」


―――――――


 第16層は巣窟ネストと呼ばれる危険地帯だ。第15層のC4が作られた理由もキリが良いからという訳では無い。サラマンダーの繁殖と浸食を防ぐため、その最前線の塹壕こそC4であったはずだ。最善策と安全を考慮すれば、この先の敵はよりいっそ協力して倒すべきだ。


「言葉のまんまだ、指定階層主レイヤーボス炎蜥蜴竜アルデンハイドは私が倒す。」


 煌々としたオレンジが薄暗く陰っていく深淵、緩やかな炭の傾斜を進んだ先、炎の河の終着する池に、あるいはそれらを代表する大きな湖に、そいつらの影は蠢いていた。ここからでは小さく見えるが、巨大ワニよりも遥かにデカい蜥蜴のような何か。上空にはおこぼれを貰うように火を吹くコウモリ、クッキリみえる百足団子のトラバサミ、地中から抉り出された、その横たわる死体。そんな奴らを統べる主は未だに姿を隠していた。










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