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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第22譚{斜塔のダンジョン 中層}
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㉓剣、折れたァ!!


「折れたァ!!」


「――ナナシぃ!!?」


 ビックリした。ロングソード折れた。結構値も張ったのに、さっきまで最高の切れ味だったのに、一瞬にして力が抜けたかのように、百足団子の甲殻に負けて折れてしまった。ルナ・クレイモアを呆然と見つめる俺、目の前に高速で迫るダンゴムシの腹のような顔面。消えたあの時の五万イェル。あの時の商人の薄笑い、毎度有りぃ、という声。


「クソォォォォ!!」


 下からはテツの砲撃が――ダァンと音を鳴らし、百足団子の顔面を撃ち抜いた音がする。それは敵にとって一瞬の怯みにしかならなかったが、運の良いことに、高速で追従し回り込んできた百足団子の頸椎部は、高速のまま巨大な岩石にぶち当たり、その動きを止めた。


――――――


{第15層『崩壊した炭鍾洞前(元C4・安全地帯セーフティーゾーン)』



「取り敢えず服を脱ぎたまえ。」


 鼻をつまんだメセナがハッチを開けて、顔の半分だけを覗かせる。


「声色で重症の雰囲気は無かったけど、まさか毒が効かなかったなんてね。どちらにせよその服も剣も捨てていったほうが良さそうだな。」


 鼻声のメセナはそう言いながら、替えの服と剣を屋上に置いて、次いで水バケツと雑巾をポンと置いた。


「拭いとけってさ。」


 キャラバンの外では強い毒耐性を持つプーカがキャラバンの表面を不満気に洗っていた。綺麗になった所からは、肌の露出をゼロにしたリザが、手袋とゴーグル越しにキャラバンの点検をする。そして振り返れば、目的地の20層まで残り5層。この5層はきっと、短いようでとても長い距離なのだろうけれど、間違いないことは、予定通りならここが最後の休憩地点となるということだ。いや本来ならここに居留まる予定も無かったが、しかしそれよりも遥かに気になることが有る。


――――――――



 動き出したキャラバンの中で、濡れた髪を弄りながらぼやく。


「ボラれた~。」


「僕に黙って買うからだよ。」


 アルクは折れたルナ・クレイモアを見つめながら言った。俺の手に残る感覚はあの時の金貨の重さだ。


「あぁー、五万イェル~。」


「厚型のロングソードにしては安い方なんじゃないのか?」


 メセナが口を挟む。


「在庫処分セールで半額だったんだよ。しかも新品。」


 キャラバンの進む振動で、無残に折れたその切っ先がカタカタと音を鳴らす。


「ふーん。じゃあ劣化してたとかかなぁ、しかし、最初の一撃は百足団子の甲を切ったんだろ。百足団子の本体が露出部の、あの捕食器の甲殻より堅いだなんて話は聞いたことが無いし、……一撃目を決めた剣だ。強度は充分だったはず。劣化は考えずらいほど、まるで魔法が解けたかのように数十秒後の二撃目では粉々になってしまった。」


 メセナは冷静に状況を整理しながら顎に手を置いた。俺も劣化は無いと思うんだけどな。


「毒で急速に劣化した説。」


 俺は呟くように言った。まぁ、流石に近接攻撃で飯を食べている身としては、扱う近接武器の良し悪し位見抜ける眼は持っている、と信じたい。


「うーん。この素材が奇跡的に毒に合わなかったものだとしたら有り得るか……。しかし私は、斬り方が悪かった説を推すかな。結局ムカデ倒したのテツちゃんだし。一方商人は剣の達人だったんだ。」


「まだ疑いますか、俺の実力……」


 俺は細い眼をするが、メセナは胸を張って「もちろんだよ!」と答えた。


「僕は商人に騙された説だ。」


 顔をあげたアルクはそのまま持論を展開する。


「トレーダーたちの中ではよく知られた物語に『非矛盾』っていう話が有るんだ。この話は矛盾というオーソドックスな物語の状況を利用した、とある商人の話なんだけど。彼は全く同じ素材で作った矛と盾を競わせて、自分が作った矛で相手の盾を貫くんだ。それを見た騎士たちは彼の武器防具屋で商品を買うようになり、彼のお店は繁盛するって話なんだけど。実際にはその盾は元々劣化していたもので、元の素材は勿論同じなんだけど、魔法で新品に見せていたっていう話なんだ。そしてその劣化した盾を近くで売っていた商人も彼のグルだった。」


「これだから商人は……」


「まぁ良い人もいれば、悪い人もいるよ。そしてね、この話の教訓は端的に言えば"シチュエーションを疑え"ってことにあるんだけど、この話のミソはね、実際にそういった魔法を使って、粗悪品を売っている商人がその時代には沢山居たってことなんだ。」


「これだから商人は……」


「だから、僕みたいに善良な商人もいれば、そういった悪い商人もいるよ。一概に商人はボッタくる人間だと偏見を持ってはいけないよナナシ。」


 悪意のない悪党め、一番たちが悪いぞアルク。


「話を戻すと、僕は商人に騙された説を推す。」


 アルクはルナ・クレイモアの腹を撫でながらそう言った。ただ俺にしか見えない角度で、エルノアが呆れた様に首を振ったのが見えた。そうだ。冷静に考えれば、悪意のある魔法が掛けられていれば、エルノアが魔法の倉庫に収納する段階で感知出来るはずだ。ストレージの許容量が跳ね上がるように、魔法を含む武器なら分かるはず。いや、感知出来ないほど矮小な魔法だとしたら。或いは可能性が有るのか?


「――全員不正解だ。」


 最後に、頭の後ろで手を組んだ助手席のソフィアは、欠けたルナ・クレイモアの刃先を持ちながら、出揃った説らを一蹴した。




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