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①恐ろしい夜にて

第2譚{人狼の村}

挿絵(By みてみん)


――ピシャッ!!


 と、闇夜を裂くような雷鳴が轟く午前0時。


「うるさいな。。。」


 貸し出された枕に顔を埋める彼は、

 村の騒がしさに眠れずにいた。

 雷鳴のせいではない。

 酒に酔った村人たちの宴が、

 昨晩の22時から続いていた為である。


――勘弁してくれ。


 夜雨と稲光は天邪鬼だ。

 その日の風は身体を押すほどに強く、

 それに催促された気だるげな雷雨が降ったり止んだり。


 魔法生物学者である彼にとっては、

 都から飛び出しフィールドワークに勤しむここ数日間は、

 安宿に身を委ねる事すら未体験づくしの「冒険」であるに違いない。

 ましてや木造の薄い壁に響く全ての音は、

 彼の睡眠を妨げるのには充分な騒音で有った。


「クソっ・・・」


 咄嗟にベッドを飛び出して、

 彼はトイレへ向かっていく。

 隣の家は未だに煌々とした光が窓の外へ漏れ出ていた。

 田舎町には珍しい夜更かしの光景である。

 トイレの窓からまどろみの中で彼は眺める。


――雨が、止んだ。


 窓から入る心地よい夜風に吹かれ、

 彼は何気なく外に出ることにした。

 安宿の一階部屋から食堂を右手にエントランスを抜け、 

 湿った道の真ん中に立つ。

 ぼんやりと流動する雨雲の隙間からは、

 僅かに月明りが漏れていた。


「――ん?」


 こんな夜更けに少女が一人、

 武器屋の正面扉の鍵を開けて入っていくのを彼は視界に捉える。

 この辺りは夜行性の肉食動物が出る地域。

 いくら不審者が少ないとは言え、

 彼にとっては危うげなその光景が、彼の脳裏に焼き付いていた。


「まぁ、いいか。」


 彼は湿気た煙草を咥えて火を着ける。


――プカァっと吐いた煙が、妙に重々しかった。

 

 これも情緒であると彼は飲み込む。

 慣れない土地に慣れない景色、

 そんな場所で吸い慣れた煙を吐き出す一時。


「チルい。」


 慣れない言葉を彼は独りでに呟いた。


――第一発見者{ライ=アリエス}が、死体を発見した六時間前のことである。



―――――――


 一面を飾る見出しはこうだった。


「『七つの大罪死す?!新大陸領グレイトハーバーにて消息不明。』だってさ。遂に国が認めたか、遅いんだよこの新聞はさ。」



《ノアズアーク車内・クラン:ユーヴサテラ》


 俺は穴の空いた新聞に目を通し、

 紙面にデコピンをしてから次の文字を追う。


「3日前には知ってたぜこんな事はよぉ。やっぱ情報は酒場の盗み聞きに限るなぁ~。」


「はぁ。ナナシ、それは9日前の情報だよ。君もサステイルの水晶を使ったらいいのにさ。」


 アルクはキャラバンの階段で溜息を吐きながら空間を指でなぞる。

 ハッチは開かれ、風が入り空が見える。

 右目に乗っかるのは片眼鏡型の情報媒体だ。

 レンズの向こうには当人だけに視える拡張世界が広がっている。

 詳しい事は分からないがドラマグラたちの小説フィクションに出てくるYoutubeとやらは見れないはずだ。

 なお、水晶の占いよろしく自身の魔力を注ぐ必要が有るので俺には使えない。


「ノイマ差別だ。レイシストの商品に抗議します。」


「不可抗力だよ。僕が補助するしさ。」


「火種にもなる。」


「木屑でいいじゃん。」


「確かにな...」


 俺は溜息を吐いて、

 始めて見る地方紙の四コマ漫画に目を通す。


「やぁ。ギャー、バン、ドン。……ははは、おもろっ。」


 鼻をほじりながら背後に立つプーカがそれを音読した。

 紙の時代は終わるのかも知れない。


「なぁ?ナナ、なななな」


「ん?」


「七つのナンとかってなんなんな。悪い人?ダサない?w」


「あぁー。いや、こいつらはその――まず、ダサいとか言わない。」


 プーカを諭す俺を横目に、

 エルノアを撫でるテツが口を挟む。


「秘宝の力、与えられたウェスティリアの最高戦力。四大抑止軍の1つ。――南の六道、北の三大天、東の十二支、西の七罪。田舎者の僕でも耳にしてきた言葉。この大陸で起きてきた大きな争いを抑止してる国軍の代表格だよ。」 


「田舎と言うか辺境。」


 エルノアがぼやく。


「辺境と言うか秘境。」


 アルクが続く。


「秘境と言うか魔境だったろ。」


 人生で死に掛けた記憶ランキングを

 総なめしそうなアミテイルの情景を浮かべながら、

 ウェスティリア出身組が顔をしかめる。


「まぁとにかく。ウェスティリアは大きなギャンブルに敗けた。もう既にノスティアの支配地域にあるウェスティリア国境付近の小国とか、きな臭い話が流れて来てる。そうなるとアレの生産が、そうか。……アノ需要が高まることを予想して赤字のコレを、いや。これはお金にならなそう――」


 顔の前の空間をシュッシュと指でスライドさせながら、

 アルクがぶつくさ呟いている。


「シュッシュ、シュッシュ、楽しそうですね、っと。」


 俺はまた田舎の新聞に目を通す。

 情報には多角的な視野が必要なものだ。

 ピラリ、ピラリと、めくってめくって。


――?


「ふふん。」


 小さな宝を、

 掘り出していく。


「アルク君。」


「ん?」


「こんな汚い紙切れも、捨てたもんじゃありゃせんぜ?」


――急募・ヴズール村、殺人事件。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 夜の描写を背景で伝えてしまうネット小説ならではの手法が良かった。
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