㉒新武器[ルナ=クレイモア]
「――百足団子第14層生息、巨大なダンゴムシにムカデの足が着いたような見た目をし、土の中に仰向けで埋まりながら獲物を待つ。また全ての足は捕食器官としての役割を持ち、歯のように獲物を噛み千切ったり、毒液を噴き出して対象を溶かすことも可能である。対処方法→、一度摑まれば生還は絶望的な為、トレイルをよく観察し頑張る必要が有る。だってさ。」
プーカは地上で売られていたモンスターガイドを読みながら、鼻で笑った。
「へへッ、雑過ぎね?w」
――言ってる場合か。
「プーカ、何か劇薬は有るか?外に垂らせば怯むかもしれない。」
それを聞いてプーカは渋った顔をする。
「えぇー、貴重だからダメ。ナナが出れば良いじゃん。」
「キモいから嫌だ。」
「ナナシ行け!キモいは理由にならないぞ!」
――お前が言うな。
リザも慌ててプーカの意見を後押ししてくる。都合のいい時だけよく団結するじゃないか。
「分かった。じゃあ何か武器くれ。」
それを聞き、自室に半身を突っ込んだプーカが、最近購入した新武器の『ルナ・クレイモア』を引き出して俺に渡した。プーカの部屋にいるエルノアの裁量だろう。きっと武器庫から一番近かったものを適当に取り出したに違いない。
「おニューのやつじゃんか、汚したく無いんだけど。」
「さっさと行けナナシ!!誰がメンテすると思ってんだ!!」
リザは身体をフロントガラスの方から仰け反らせ、ワイパーのパワーを最大値にしてアクセルを踏み続けていた。すごい動揺ぶりである。
「お前の出身地にも似たのいんだろ。」
「――いねぇわ!!さっさと行け!!」
リザはそう言いながら運転席のスイッチとレバーを高速で弄り、屋上のハッチを開け、ピンポイントで俺の立つ床下を射出し外まで吹っ飛ばした。瞬間ハッチはパタリと閉まっていく。
「うぇ、役に立ったな。」
いつの間にかぶら下げられた通信石から、リザのそんな声が聞こえた。まるで被験体だ。俺は空中で体勢を立て直し、足の長い巨大ダンゴムシの背中をとるように着地する。
「これが家出ですか……」
冷静に状況を確認しキャラバンに夢中になっている百足団子の背中を見つめる。この手に持つルナ・クレイモアは三日月形の大型ロングソードである。重量がある分、こういった巨大なモンスターには有効と思われる。商人の試し斬りを見た時は、巨大な丸太を煮大根かのように両断してみせていた。実戦で使うのは初。近くに悪徳トレーダーがいるため、商人という職業を信じたことは無いが、剣術の素人と切れ味の良い武器であったことを信じて構える。
「ちゃちゃっとやってくれ!!」
俺はその声と共に百足団子の丸まった横線入りの背中へ、袈裟斬りをした。結論から言えば、素晴らしい切れ味だった。金属のような甲殻が裂ける音、肉を断っている確かな感触、しかしそこに抵抗感は一切ない。
『――キュルルルルルルルルルルッ!!!!!!』
奇怪に甲高い鳴き声を出しながら百足団子は弱って縮んでいく。意外とあっけない。俺は背中から飛び出した毒の体液に塗れながら、空転が収まり前進し始めたキャラバンの背中へ飛び乗って、縮こまった百足団子が小さくなっていくのを見つめた。
「よくやったナナシ。」
リザが安堵の声を上げたその時、百足団子は身体を180度開きながら、さっきまでのか弱い声と打って変わった野太い叫び声をあげた。
『ヴェアアアア!!!!!!!!』
そして身体の全容と思われていた口部分を浮かび上がらせ、10mはあろうかというチンアナゴのように、地面から突き出し、空へと果てしなく伸びていった。そしてその体には無数の鋭い足が、それぞれが生きているかのように、忙しなく動いていた。
「きめぇぇぇぇええええ!!!!」
リザは炎の立つ河を斜面で飛び越えるほど、全力でアクセルを踏み込んでいる。キャラバンのその速度は、フォーム・シーカーとしては異例のスピードだった。しかし、百足団子は身体を這わせるように伸ばし、キャラバンと並走していた。
「リザ、一瞬速度を落として敵に寄せろ。俺がこの最高の剣で切り込んでやるから!!」
俺の提案に「嫌だァ!」と叫びながら、リザはブレーキを踏み込み百足団子の方へ舵を切った。キャラバンは甲高いブレーキ音を一瞬鳴らし、百足団子との距離を一瞬にして詰めていく。
「―――キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい!!!!!」
それ突っ込まんとする俺にも言葉のダメージが来る。なんなら紫色のネバネバが服にべったりと付いている。まさか、俺に言っている?既に俺に言っているのか?
「――ナナシィ!!!」
――やっぱ俺か?!
限界まで近づいたキャラバンは岩の段差に跳ね、少しばかり浮かび上がった。その一瞬、百足団子の口部分が回り込むのを待たず、俺はその腹部へ斬撃を入れた。直後、――ガキンっという音がキャラバン屋上で鳴り響く。
「折れたァ!!」
「――ナナシぃ!!?」
超ビックリした。