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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第22譚{斜塔のダンジョン 中層}
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⑱『燃焼、第十二層。~The Twelfth Layer ~』


{第十二層・『黒炭の丘』}


「なんか、熱い。」


 プーカは額の汗を拭いながらそう言った。キャラバンはガサガサと足場の悪い地面を進んでいる。第12層、黒炭の丘。天井から伸びた根が朽ちて、そこら中にゴロゴロと転がっている。注視すべき所はそれらが黒いという点だ。この第12層では朽ちた根と土が重なり、地熱によって天然の木炭が無限に生成され続けている。正に天然の炭焼き窯である。加えて、ココにあるのは天然の木炭だけではないらしい。その正体と言えば、簡潔に言えばうんこである。


「ネクイという手足のない紐状の生き物が、第12層一帯にはウヨウヨといる。彼らは朽ちた根を食し発火性の高い炭の様な排泄物を残し生息域を広げている。おい、マジかよメセナ。」


 トライデントの図鑑を広げながら、俺はメセナに聞いた。


「あぁマジだよ。彼らは落ちてる木炭も食べて自分たちのコロニーで排泄する。やがて純度の高い木炭が集まっていくわけなんだけど、ネクイという生き物は火に強い生物でね、彼らのコロニーにはやがて火に弱いモンスターは近付けなくなっていくってわけだ。でも、彼らの生存戦略が通用するのもこの層だけの話。ここから先、第16層{ネスト}までのエリアは通称『火葬場』と呼ばれている灼熱地帯だ。ネクイなんて比にならないほど、熱に適応したモンスターが生息してる。」


「げぇ、あれ、うんこなん?」


 プーカは窓の外の木炭を見ながらそう言った。


「その可能性もある。ほら、白い砂浜が生物の死骸とうんこで出来ているのと感覚は同じだよ。」


「そうかなぁ。」


 プーカは眉を顰めて言った。


「じゃあさ君らに問うけどね?うんこ味のカレーとカレー味のうんこ、食べるならどっちがいい?この時、人が食べる食品としての一般的な衛生基準はクリアしてるものとする。さぁ、どっちを選ぶ。」


 その質問に真っ先にリザが答えた。


「うんこ味のカレーだ。例え味がうんこだとしてもうんこを食ったという汚点が残らない。」


「リザ、本当にそうだろうか。君は確かに生涯でうんこを食べたという汚点を残さず人生を過ごせるのかも知れない。しかしだね、君の記憶には残り続ける、うんこの味が!!――では、ここで質問を変えよう。うんこ味のコーヒーと、コーヒー味のうんこ。どっちがいい?」


「……そ、それも、うんこ味のコーヒーだ。私は意見を曲げない。」


 リザは運転しながら困惑する。操作に集中してくれ。


「そうかい、だがなリザ嬢。コーヒー味のうんこは実際、超高級食材として売られている!!」


「――マジか!?」


 リザは後ろを振り向いて驚愕した顔をした。


「――おい、前向けリザ。前見ろ。」


「つまり例えそれがうんこだとしても、例えば健康的で超絶美味な食品であれば、我々人間はやがて享受してしまうのだ。だがうんこ味のカレーなど、受け入れられる日が来るのだろうか?答えは否だ。故に問題はそれがうんこか否かではなく。そのものの価値がうんこ並みかカレー並みかと言うポイントに所在が有る。例えうんこだとしても、発火材として利用できるネクイのうんこはとても貴重な資源になるんだ。」


 メセナは胸を張って鼻を鳴らした。


「ということで取って来てくれ。17層以降は徐々に気温が下がっていく。20層に無事に着いたとして、アルデンハイドを待っている間に、我々が凍え死んでしまえば元も子も無いからな。20層に資源を溜めておくのは、上級探索者のマナーでもあるんだ。」


――自分でやれよ。


 多分、みんなでそう思った。



―――――――


「熱っ!!熱されてるぞコレ。」


 俺は木炭から手を弾きながら、ヒリヒリ痛む手を見つめて言った。


「――そういうのでも悪くないけど、オススメはこれだ!!」


 軍手を付けたメセナは、死んだネクイの腹を引き裂き、赤くてドロッとした木炭を手にした。


死焼炭ししょうたんだ。こいつは燃焼時間が段違いに長い。この先、炎で出来た河が幾つかの燃焼物を運ぶが、この死焼炭は16層の最後まで燃え尽きずに流れ着き、最終的にはサラマンダーのエサとなる。こいつが有れば沢山持っていく必要が無い。」


――初めから言えっての。


 メセナは少し離れた場所で炭を拾っていた。声のボリュームは少し大きめだ、よく咳もせずにあんなに声を出せる。辺りは既に、焼けるような熱気に包まれていた。


「――そしてその炎蜥蜴竜サラマンダーの名前がアルデンハイド。鍋の材料にでもしてやろう!」


「それは、何処からツッコめば良いんだ、メセナ!」


 死焼炭の発生条件は木炭を食ったまま死んだネクイの腹の中で熟成が進んだものと限られており、中々に見つけることが出来なかった。結果的に拾えたのは凡庸な黒い炭ばかりであったが、赤い炭ばかりを拾って戻ってきたメセナに、分かり易い程ガッカリされた。


「運が良かっただけだろ……。」


「違うね。これはセンスさ、ナナシ。」






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