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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第22譚{斜塔のダンジョン 中層}
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⑰瓦解した計画と新たな目標

第22譚{斜塔のダンジョン 中層}


「第20層、C5に向かおう。そこが私たちが独力で行ける限界点とみなす。無論、君らの力を過小評価するわけじゃない。このキャラバンの力も申し分ない。ただトライデントに生きる人間の一人として現実的な作戦を提案したい。C5、そこはこのダンジョンで正常に機能している最後の拠点。ここでアルデンハイドに会えなければ、今回のコバンザメ作戦は中止とすべきだと思う。」


――そんな作戦名だったのか。


「まぁ妥当だな。初探索にしては偉大なゴールだ。」


 ソフィアはメセナの意見に同意して頷いた。


「それに鍋も有るし、どちらにせよだ。向かおう第20層へ。」


 そうして俺たちは自分たちのゴールを定め、モグラの宿を後にした。第10層の構造は例えるなら蟻の巣だ。土の中に作られたモグラの宿を守る様に、宿を中心に幾つもの関所が設けられている。そして宿から少し離れたところにアルデンハイドのゴンドラが、またゴンドラを守るようにモンスター対策の関所がいくつか設けられていた。第十層は中々に開拓されている。五層のC2と違い、安全が確保されている場所とそうで無い場所がハッキリとしていた。それに伴い、第十一層に繋がる壁内のスロープ(連絡通路)へは容易に行くことが出来た。しかしモンスターを排除した分、他層へシワ寄せが行くということが珍しくない。生態系がより深く絡み合い、根付き、クニシャラがパプーの毒に対応したように、生存競争に適応したより強いモンスターが発生する。それ故に第9層は難易度が高いものとされていた。例外なく第11層以降も、その法則は当てはまるはずだ。



―――――――


{第11層・根の樹海『入口』}


 何千年も生きていた大樹のようなものから、栄養の偏った細い幹のような太さまで、あらゆるサイズの根っこが群生しているように生えている。天井から床へ向けて。垂れ下がる様に、或いは床を突き抜けるように。時々降るのは土の雨だ。大まかな構造は10層に酷似しているが、土が減っている分、空間的に広く感じる。


「全て根っこか……。」


 キャラバンは根っこの間に車体を擦らせながら進んでいく。


「それも一つの植物から伸びている。神秘的だろ?ナナシ。」


 メセナは、屋上で邪魔な根っこを断ち切っている俺の横で、紅茶をすすりながら言った。


「根っこは切っても良いんだな。」


「あぁ、なんせ客が来るのは10層までだ。いくら切った所でギルドは文句を言わないさ。まぁ外観がどうとかは実は建前で、本心を言えば、アルデンハイドの前例から強く言えなくなっただけだろうけど。とにかく根っこは切っても良い。古来からモンスターたちも根っこを主食としているものもいる。この程度じゃ枯れやしないさ。」


「なるほど。」


 俺は引き続き大太刀を振り回す。大樹の根っこは層間を穿っていた。そしてこの侵食能力は斜塔の内壁にまで及び、逆流するような伸び方で五層へ、アルデンハイドがゴンドラのトンネルとして利用するに至る。つまりメセナの人脈が可能にする索敵網の、感知が及ばない場所が有るとするならば可能性は二つ。一つ目はこのダンジョンにおいて、他クランが知らないアルデンハイドの秘密重要拠点、或いは中継地点に滞在している可能性。そしてもう一つは、ゴンドラ及びそのトンネルの中。可能性が大きいのは圧倒的に後者だ。しかし、何のメリットが有るのか?


「それにしてもアトモスフィアか、良い武器だな。それもあんなに沢山、一体何処で手に入れたんだ?」


 第11層には巨大化した虫のような生物が沢山いた。しかし進み方なんら変わらない、遠くの敵はテツのクナタで撃ち込み、撃ち逃した敵は俺が斬るかリザがキャラバンで轢き殺す。


「最大火力の九十七式大気砲クナタはアトモスフィアを固定砲台化したものだ。実際は同じ銃だよ。」


「へぇー。形態変化か。グレードは軽くS級だろうな。売れば一生遊んで暮らせるぞ。」


 メセナは頬杖を付いて退屈そうに言った。


「残念、そうもいかない。あの銃はテツが真名を唱えない限りセーフティーが外れないんだ。他の銃もそう。俺が使おうとすればただの玩具に成り下がる。」


 キャラバンの横から跳躍した1メートルほどのダンゴムシを切り裂き、俺は太刀を肩に乗せた。


「声帯認証か、指紋認証、テツは魔法が使えないから、身体の何処かにオーパーツが反応して彼女を認識している。どちらにせよ場違いな技術であることに間違いは無い。」


 悠長に話している俺の目の前に、糸を引いた20センチ大の毛虫の大群が顔の前に垂れてきた。


「――うぇえ,キモっ!!」


「おっと、危ないね。」


 メセナはそれを見るや携帯用のロッドを一振りし、風を呼んで吹き飛ばした。


「わ、悪い。風魔法か……。」


 メセナは紅茶を一口飲んでから答える。


「違う。原始系白魔法だ。私の息吹いぶきは原始系と契約系を司る特殊魔法。だから自然系の魔法は憶えないようにした。期待値が薄いから。まぁ、君の人生には関係の無い話だろうけどね。」


 皮肉めいた口調だった。


「いいや、俺だって魔法が使えた時期が有る。自然系炎魔法だ。この分野ならあんたより扱いに長けてる。」


「へぇ。まぁそれも、使えればな。」


 メセナは欠伸をしてからそう言った。


「お互いペラペラと、話すようになったな。」


「そうだな。」


 メセナは遠くを見ながらニヤリと笑って言った。


「君らのことは信頼しているよ。仲間だと言ってくれたからね。……君らの隠している秘密もひっくるめての信頼だよ。」


「はは……、何のことかな。」


 俺の薄ら笑いを気にせず、メセナは言葉を続けた。


「私はね、仲間だから隠し事は無しだ、なんて妄言だと思っているんだ。」


 そして今度は俺の目を真っ直ぐ覗きながら、言葉を紡いだ。


「私は思うんだ。……大事な仲間だからこそ、伝えられないこともある。大事だからこそ伝えたくないことも有る。仲間に伝えないことが、仲間の為になることだって有るはずだ。伝えずして然るべきものを"仲間だから"と言って聞き出すのは、時に横暴な事なんだ。」


――中々深い。


「それが、私が盟主の座に就いてから意識していることの一つだ。私に秘密を隠しているクラン員だって{フリーダム}には存在するさ。それでもみんな仲間だ。信頼できる仲間。だから今一度聞いておきたい。"君たち自身に"だよ、ユーブサテラ。私は、私とソフィアは君らを、信頼してもいいのかな?」


 レストランで人に戻ったエルノアが見られたのかも知れない。或いは結束を深める為の、他愛のない質問かも知れない。しかし、もうどっちだって良い。ここはダンジョンだ。敵も味方も或いはモンスターでさえも、ここでは全員が挑戦者になる。信頼しろとは言って来ない。メセナはただ信頼してもいいかと聞いた。それなら答えは一つだ、やましい策略も、後ろめたい過去も、俺たちには無い。俺たちはただ、信じたいものを信じて進み、今ここにいる。


「もちろんだメセナ。俺たちは、俺たちが信じる生き方でここまで来た。俺たちが裏切ったら、奈落の底にでも埋めてくれ。」


 その言葉にメセナは笑った。


「ふふっ、なんだかよく分からないが、背中は預けるよ。ってか、そもそもさ。サテラの弟子だって時点で、私はもう首ったけなんだから。」


――それは特に嬉しくない話だ。


「知り合いか?……師匠は敵が多いからな。そういう奴は珍しくない。」


「宿敵じゃないよ。恩人だ。私もソフィアも。」


 俺の顔を伺って、メセナは「ホントだよ?」と続けた。中層・第11層。大樹の根で出来た陰湿な森の、深淵の豪火に照らされた暗くてオレンジ色の出口が、俺たちを誘うように仄明るく揺れていた。





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