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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第21譚{斜塔のダンジョン 上層}
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⑯消えた百人隊


「どうだ美味かったろ?」


 五人分の丼パフェが並ぶテーブルを見て、先程の中年冒険者が話しかけてくる。


「うんむ。中々だ。」


 しょっパフェというジャンルの10層構造丼は思った以上に美味かった。素晴らしい点は丼それぞれの量が多からず少なからずといった最高の塩梅で、徐々に濃い味でコッテリとしていく丼のレパートリーに、食べるという楽しさを噛みしめながら完食することが出来た。


「ところで兄ちゃんたちは仲が良いんだな。それに全体的に若い。きっと良いクランなんだろな。」


――そのとおりだ。こいつは見る目がある。


「だがなぁ、そういう未来あるチームほど、俺達は用心させて送り出す義務が有るんだ。特に兄ちゃんらは魔法が得意で無さそうだ。きっと非戦闘員なんでしょうが、大丈夫か?」


 オッサンは俺を見ながらそう言った。


「問題ない。俺は護衛ジークとして絶対的な自信が有る。あんたはソロか?」


 情報は貴重だ。しかし、身元の分からない奴にそれを教える義理など、彼にも無いはずだ。聞き出したい情報が有る時は、挨拶程度に情報を与え、綻びを狙う。


「いいや、俺はギルドの人間さ。モグラの宿で倉庫を管理している。ここで預かる食料や掘り出し物を全てのクラン員たちに変わって管理しているのさ。そう、俺も有る意味"護衛ジーク"なの。」


――それにしては疑わしい所が有る。


「なのに昼間から飲んでるの?」


――よく聞いた、テツ。


「あぁ、まぁな。」


「今日は大事な仕事が有りそうなのに。そんなので大丈夫な風には見えないけど。」


 その通りだ。アルデンハイドのゴンドラは十層を終着地としている。より効率的に動くのなら、主要な物資は先に送っておくべきだ。


「よう知っとるなボク。いやそれもそうか、みんなアルデンハイドの遠征隊を邪魔せん様にと、この宿に留まっとる。俺も今朝は百人隊が来るってんでそっちに首ったけだったけんど。いやはやすぐ終わったわ。だから飲んでる。」


 男はそう言うとジョッキを口に付けて、中の臭い水を気持ちよさそうに流し込んだ。


「――終わった…?もう仕事は無いのか?」


「あったら飲んでねぇよ。」


「じゃあ百人隊はもう出発したのか?」


「いいや百人も見てねぇ、ヒィック…、ただ今日は、もう予定が入ってねぇのも確かだ。」


「じゃあ誰が来たんだ?幹部か?」


 その言葉に男は渋ったような顔をした。


「へい兄ちゃん、俺は腐ってもギルドの管理人だ。教えるわけにゃいかねぇよ。」


「――幾らでも飲んで良い!!」

 

 俺はソフィアから貰った金貨入りの巾着袋を机の上にドンっと置いた。男はその袋を見ながら俺の顔と見比べる。


「兄ちゃん何もんだ…?偉い人か……?俺は試されてんのか…?」


――残念、これは人の金だ。



――――――


{第10層・モグラの宿『キャラバンの中』}



「メ…メセナさん。」


 回り始めた呂律で、男はそう言った。一方、メセナは顎に手を当て考える。


「ふむ。確かにいつもと違う。アルデンハイドの百人隊は前日までに物資を運搬する。ゴンドラに乗るのは人だけだ。人員だけを一気に乗せる。しかしゴンドラを利用し始めたのは長い歴史で見ても最近の方だ。百人隊が探索指針を変えたところで、別段可笑しな話じゃない。」


 管理人とメセナとソフィアは、やはり知り合いだった。結局こういうのが一番手っ取り早い。情報収集が身内の井戸端会議へと変貌するのだ。


「グスタフの旦那が一人で来た。フル装備だったぜ。荷物は1立方メートル位の箱だ。なぁ、もういいだろ?」


「で、中身は?」


 メセナは腕を組みながら、鋭い目つきでそう言った。


「い、言えるわけないだろ。ギルドにバレでもしたら…」


「タジオ、緊急の案件を捌くのも君らの仕事だ。いくら遠征令が出ているからと言って昼間から飲んでいるのがギルドにバレたら、あぁ、君も大変だろうな。――で、中身は?」


「腕輪みてぇな奴だ。いっぱいあった。それ以外は本当に分からねぇ!!」


――ちょろい管理人だ。というかトライデントギルド。信用ならねぇ。


「グスタフ一人に、腕輪ね。どうしたものか…。まぁいいやタジオ、君はもう戻って良い。あと私たちがここに居ることをゲロったら、君の過去の行いを余さずギルドに言いふらすからそのつもりで。」


「ひぃ、頼むぜメセナさん。えへ、それじゃあ俺はここで…」


 さっきまでベテラン面していた管理人が、メセナと話している間はずっと、小動物の様にオドオドしていた。仮にもナンバースリーの盟主っぽかった。


「困ったな。私の嫌いな不確定要素というやつだ。グスタフが来ていたという明朝は、丁度うちの幹部ヤマウが10層に戻っていた頃合いかな。なんか有ったら伝えてくるだろうし、目立ったことが有ったり、百人隊を目撃したりってわけじゃないんだろうけど。」


「今リリーに連絡を取ったんだが、私たちが出た後、アルデンハイドの10人分隊は確実にゴンドラに乗船したらしい。それも10分隊全てが等間隔で。」


 ソフィアは困惑した表情を浮べ、その後、状況を楽しむかのようにニヤリと笑った。


「それが事実なら、この十層で先行隊の目撃情報が有って然るべきだ。25層に行っていたヤマウは、百人隊を見逃す程鈍くさい奴じゃない。つまり時系列的に、このダンジョンからアルデンハイドの百人隊は"消えた"ってことになる。」


 メセナはダンジョンの地図を広げながら、眉間に皺を寄せて唇を噛んだ。


「一体、何処に居る…。アルデンハイド。」







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